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テキーラ・サンライズ
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翌日、あんだけ騒いでいたクリスマスムードは一気に冷めてただの平日に逆戻り。
そもそもクリスマス自体平日なのだから特に変わった気持ちはないけど、面倒なのは飾り付けを外して、今度は年末年始の新年に向けて店をデコレーションしなきゃならないこの面倒くささだった。
「祥ー、そのダンボール取って」
「……あ、はい」
「……?」
隣で一緒に作業をしていた祥に声をかければどこかぼんやりとした返事が返ってくる。
ほんの数日前迄はどこか楽しそうに笑っていたのに、どうしたんだろう。
「これ持っていきますね」
「あ、それじゃない、こっちだよ祥」
「……これ、持っていきますね」
「……お願い」
何とも頼りのない姿に苦笑してしまう。
しっかりしているけど、どこか抜けている祥がいつもにも増してうっかりしている。
しかも全然笑っていないし。
明らかに原因は直くんなのは一目瞭然だろ。
普段なら祥は思ってる事が顔に出ない子だ。
悲しくても辛い時でも、寧ろそういう苦しい時ほどよく笑う子だから、そんな祥が唯一ボーとしてアホの子の様になる原因はいつも直くんだけだった。
「ギャー! 祥くん?! カラー剤が服にッ!」
「……大丈夫です」
結構、やばいらしい。
後ろではさっきフラフラとダンボールを抱えて倉庫に行った筈の祥が、カラー剤を混ぜていた先輩と何やら衝突事故を起こしたみたいだ。
こりゃあ相当参ってるんだなぁ……
心配しつつも一日が終わる頃には、いつもの祥に戻るだろうと思っていたけど。
結局俺と同じ時間で上がった祥は変わらず沈んだ顔をしていた。
「祥」
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様」
俺も飲みたいし。直くんのことは一先ず置いておこう。
直くんが聞いたらその場で拒否されるだろうけど、俺にとっても祥は特別な子だ。
耀さんとはまた違う感情を抱く大切な子だからこそ放っておけない。
結局、遠慮する祥を半ば無理矢理に誘うと俺達は耀さんの店に飲みへ出た。
「いらっしゃー……て瑞生かよ」
「こんばんは。 俺に会えて嬉しいでしょ」
「へいへい、嬉しいですとも」
「今日ね、俺の後輩連れてきたんだ」
「んー?」
店に着くなり数日ぶりに会った耀さんは俺が少し意地悪な気持ちで居るのを感じ取ったのか、どことなくよそよそしい。
折角だし祥も紹介したかった。
あてつけとかじゃなくて、前に話した大切な子を、俺にとって特別な耀さんにも紹介したかった。
そんな気持ちで連れてきたけど、世間は狭いのかあの噂のハル君がぞっこんな「ヨウちゃん」は祥の弟だったらしい。
それにハル君とも祥は仲が良いみたいで、ここにいる皆がそれぞれ繋がってる事に少し驚きだ。
「瑞生」
「なに」
「店閉める迄居ろよ」
「やだ。 明日早いし」
「……いいから居ろって」
「なんで? 昨日の埋め合わせでもしてくれるの?」
祥がトイレに立った隙に携帯を開いてある人に連絡をしていたら、耀さんがカウンタ越しに話しかけてくる。
ほんのちょっと余裕が無い様な声に顔を上げれば、少し怒った様な、戸惑ってる様な顔をしていて思わず笑ってしまった。
「何その顔」
「……昨日の事、やっぱり怒ってんだろ?」
「だから当てつけに祥を連れてきたって?」
「違うのか?」
「耀さんの中で俺って相当憎たらしい性格してるんだね、いいこと知った」
「な、おい瑞生!」
ふーんとそっぽを向いてアプリを閉じる。
グラスに入ったお酒を一口飲み込んだ時、ちょうど祥が帰ってきた。
「お帰り」
「あ、瑞生さん本当に今日ありがとうございます」
少し落ち着いたのか、話を聞いてからの祥はちょっとだけ元気で。
だけどまだどことなく落ち込んでいる。
「直くんなら大丈夫だよ」
「……だといいんですけど、ちょっと自信ないや」
「祥の事大好きだよ」
「アハハっ、本当にありがとうございます。 何か嫌な予感がするんですよね」
「嫌な予感?」
「俺達ここに辿り着くまでそれなりに衝突はあったけど、トントン拍子で来たから……必ず何か起こる気がして」
「……うん、まーそういう不安になる気持ちは分からなくないかも」
「直輝と、もし、もしですよ? 別れる事になったら俺……死にそう」
「……」
初めて、本音を漏らした姿を見た。
いつも笑っていた祥が泣きそうな顔をしている。
昔、出会った時から花のような笑顔を浮かべていた子が、初めて不安を口にしていた姿に何故か俺が悲しくなった。
「……大丈夫」
「……」
「もし別れても、縁って不思議だからもう一度繋がるよ」
「縁?」
「本当に好きなら、もう一度チャンスは来る。 でもそのチャンスを掴まなかったらもう二度とは来ないから、その時は死ぬ気で追いかけなきゃ」
馬鹿じゃないから言わんとする事は読めた。
芸能界で人気のある直くんと、ただの一般人である祥じゃいつか関係が終わるだろう。
普通の男女でさえも許されないんだから、尚更同性同士の二人は難しい事だ。
それに祥は芸能の世界でこれから仕事をする身なのだから、尚更そんな噂立ってはならない。
そんな噂が立てばやれコネなの体を売っただの、ありもしない噂話で潰されるのは目に見えていた。
「もしも祥と直くんが別れても俺もう一度二人は付き合うと思う」
「そんな……」
「でも祥は直くんの事諦められないんだろ?」
「ッ、はい」
「直くんだって祥を諦められないよ」
「分からないですよ直輝モテるし」
「フフッ、うん、まあそれ言うなら祥の方こそって感じだけどね」
俺がいくら何を言っても祥の心が求めてるのは直くんだけだ。
連絡してからかなり時間は経った。
さっさと来なよ白髪君。じゃないと俺、本当に慰めるついでに食べちゃうよ。
「祥」
「はい?」
「本当に寂しくてどうしようもなく辛くなったら他の所には行かず俺の所においで」
「えっ?」
「その時は俺が慰めてあげるから」
「ちょ、瑞生さん……!」
これはちょっとした直くんへの罰だ。
俺との約束を破って祥を悲しませた。
そんな意地悪な気持ちで目の端に写る彼に向けて口角を上げる。
祥の顎を掬ってキスをしようとした時、その映り混んだ人影が祥を抱き寄せた。
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