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テキーラ・サンライズ
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現れたのは直くんで、この寒い外を走ってきたのか鼻の頭がほんのりと赤く染まって息が少し荒い。
やっと来たかなんて安堵の溜息を漏らすと、威嚇してくる彼に笑いかけた。
「祥もいくら俺と会えないからってこいつとキスなんてするな」
「酷いね、こいつだって」
パチクリとして何が起きてるかよく分かってない祥はただ直くんに抱きしめられたまま固まっている。
状況を把握している俺と直くんは未だ威嚇したままで肩をすくめて、もう一口お酒を口に含んだ。
祥はやっぱり直くんと一緒に居るのが似合う。
二人で一つのような、そんなしっくり来る彼等の姿を見るのは案外好きだった。
「喧嘩するかと思ったわ〜」
「まさか」
二人が嵐のように帰っていった後、再び静けさを取り戻した店内で耀さんを見つめて酒を飲む。
ーー昨日、どうだった?
なんてことないその質問が喉に詰まったまま。アルコールがまるで溶かして貼り付けたかのように不快感を残して、折角の酒も不味い。
「後、二時間で店閉めるから」
「へえ〜」
「……待ってろよ?」
「やーだ」
グラスを磨きながらさらりと流れるように約束を持ちかける耀さんは、やっぱり、大人だ。
おじさんおじさんって言ってるけど分かってるよ。この人がモテるなんてこと。
顔とか体だけじゃなくて、この人自体が魅力的な人だってこと。
俺みたいに飄々と歩き回ってフラフラしてる欠落品には勿体ない人だってこと。
「瑞生?」
「……帰る」
「は、おい?!」
このままココに居たらもっと頭がおかしくなりそう。
お酒のせい?耀さんが目の前にいるから?疲れてるのかな……それとも俺、おかしくなった?
「待てって」
「お金、置いとく」
「瑞生……っ」
あーあーやだな。なんでそんな困った顔して必死な声で呼ぶわけ。
俺達喧嘩してたっけ?
何だかこれじゃあ、喧嘩してるみたいでまた面白くもないのに笑ってしまう。
だから普段通りにしたいのに心の中はグツグツと嫌なものが湧き上がっていた。
このまま此処にいて耀さんを見つめていたら変なことを口走りそうになる。
ーー彼女とは寝た?好きって言った?俺よりも好き?もう、俺とは……
そんな言葉、全部自分の首を締めるだなんて分かってるんだから言うなんて阿呆らしいのに。
一度溢れた思いはそう簡単には消すことが出来ない。
「……っ、さいっあく」
お店から逃げるように出て、すぐ近くの公園に立ち寄る。
ブランコに乗ってそう言えば懐かしいと思った。
祥に振られて、祥の事無理矢理にでも自分のモノにしようとした根性の無さに呆れて、もっと自分が嫌いになったあの夜もここで一人佇んでいた。
それから、ふらっと立ち寄ったのが耀さんのBARだ。
綺麗なブルーのライトに吸い寄せられて、ぼんやりと扉の前に立っていた俺を迎え入れたのは、ブルーのライトが似合う知的で落ち着いた耀さん。
でも口を開けばまるで子供の無邪気な笑顔みたいに笑う人懐っこい耀さん。
黒が似合うと思うのに、そんなイメージとは真逆にも思える不思議な人だと、そう思ってただけの人は今じゃーー
「瑞生ッ!」
「ッ、え……は? なんで……」
「勝手に帰るんじゃねぇよ。 ほんっとに野良だなお前は」
「いや、ちょっ……そんな事よりーー」
フワリ、頭を抱き寄せられてハッ、とした時には口を塞がれている。
夜の闇と一体化しちゃうような静かな黒を纏いかけ走ってきた耀さんにキスをされた体は、たったそれだけでどんなアルコールも敵わないほどに熱を感じさせた。
「ーーッ」
「……ハァ、瑞生」
「んっ、ちょ……っあ、まっ、へ……!」
息と息の間に漏れる悩ましい耀さんの色っぽい吐息に心臓がギュッと締め付けられる。
あ、ヤバイ、流されそうだ。
このまま耀さんに一気に持っていかれそう。
そうなれば隠したい汚い言葉も本音も全て見えてしまう。
それが怖くて、堪らないから、俺はこの人が恐い。
「なん、で。 急にキスなんか……ここ、外なの分かってる?」
「外だから、何だ?」
「……何怒って」
「当たり前だろ」
「ッ」
「この歳でやっと、惚れた相手に出会ったんだ。 もう後には引けねぇ事わかってて覚悟決めてこっちは裏表も無いままお前を好きでいる」
「……ッ、耀さん」
「でもお前はまだ……。 まだ、未来があるだろ。 俺とはそこが違う……ほんの少しの気の迷いでも構わねぇけど、それでも少しでも長く傍に居てくれとはジジイでも情けなく思うんだよ。 このバカ猫が」
「ちょ……ッ、なにそれ。 初めて聞いたんだけど」
「……当たり前だろ。 こんな事言えるかよ。 おじさんにも少しぐれぇかっこつけさせろっての」
抱きしめられたまま、上から振ってくる驚く言葉達にパチパチと瞬きを繰り返す。
夢、かと思ったけど聞こえてくる耀さんの心臓の音は速くて。
香る煙草の匂いと、俺と同じ柔軟剤の香りがする腕の中はどこの場所よりも居心地が良くてさっき迄の黒い感情が静まっていく。
「……耀さん」
「ん」
「妬いたってこと?」
「……。だー、もう、ほんっとにお前は……」
「だって、聞きたいし。 言葉にしなきゃ伝わらないってよく聞くし?」
「ならお前も思ってること言えよ。 何だよあの笑った顔は。 全然笑えてねぇし、今にも泣きそうな顔して俺の前でそんな顔で笑うんじゃないの、飯抜くぞ」
「ふっ、アハハっ! 何その脅し。 別にそしたら外で食べるからいいよ」
「あ〜はいはい。 つべこべ言わずそこはごめんなさいをする所だろ」
「……やだ」
「ったく素直じゃないねぇ」
「素直になったら耀さん妬いてくれなくなるんでしょ、だったら俺ずっとこのままでいたい」
「……お前ねぇ」
ぎゅうっと抱きしめる力が強くなってほんの少し息苦しい。
苦しさに顔を上げれば、耀さんの顔が近づいてきてチュッ、と触れるようなキスをされた。
「あんまおじさんに可愛いこと言うんじゃねーよ」
「……おじさんだから心臓に悪いしね」
「そんなに俺おじさんか?」
「何言ってんの、当たり前」
「四十ってもうジジイかな?」
「三十越えたらジジイじゃない」
「……今のは結構傷つくわ」
「ふっ」
しょんぼりした声に顔を上げて堪えきれない笑みを零す。
ちょっとだけ背伸びをして耀さんのネクタイを引き寄せるとそのまま唇にキスをした。
「でもそんな耀さんが好きなんだよ、俺」
「ーーッ?!」
「他の人に取られるの嫌いなんだよね。 野良猫って」
驚いたままフリーズする耀さんを見上げてネクタイを離す。
ほんの少しスッキリした気持ちで、もう一度耀さんの腕の中に飛び込むと会えなかった分の充電をしておいた。
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