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テキーラ・サンライズ
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『ーー。 ……か?』
眠っていた頭の中に何処か焦ったような耀さんの声が聞こえてくる。
「ーー、ーー夏紀」
ナツキ……?
誰、だろ。
聞いたことのない名前と、薄らと開けた瞳に映った見たことの無い必死な耀さんの表情。
耀さんはそのまま何処か少し苛立ちをも含んだ声で話を続けると寝室を出ていく。
待って……
うまく声が出なくて、伸びた手は耀さんに届くことなく行き場を失いシーツを掴む。
耀さんが何処かに行く気がしてドクッ、と嫌な心臓の音がした。
けれど体は鉛のように重くて、沈む体と意識に引きずられるままもう一度意識を手放した。
◇
「耀さん最近忙しいの?」
「……」
「……耀さん?」
「…………」
大晦日もいよいよ明後日と迫った12月の最後の週。
耀さんの家でいつもと変わらず過ごしていたけど、耀さんの様子は何処かおかしかった。
「……耀っ!」
「っ、ーーん?」
「……なに、考えこと?」
「ああちょっとな」
「ふーん」
素直に答える辺り別にやましいものは無いんだろうなぁ。
クリスマスの事はお互いちゃんと消化したし、あの女の人には丁寧にお断りしたらしい。
一緒に仕事をしていくなら尚のことはっきりさせて置きたいと話して、大切な人が居るって言ったらしい。
そんな話聞かされたら、うん。
許すしかないじゃん?
何くさい事言っちゃってんのおじさん。なんて思ったけど、嬉しくないわけでは無かった。
「仕事のこと?」
「ん、んー。 いや知り合いに少し心配な奴がいただけだ。 気にすんな」
「分かった」
にかっと笑ってぐしゃぐしゃに頭を撫でられる。
何だかその笑顔がこれ以上入り込むなって線を引かれた様な気がして、初めて耀さんの方からそういうテリトリーを見せてきた事に内心戸惑った。
耀さんって皆にオープンで人当たりがいいから、尚のこと驚くというか嫌な意味でドキッとする。
誰にだって入り込んで欲しくない触れて欲しくない事があるのは分かってるけどね。
でも俺、耀さんの事何も知らなくて。
どこで育ったとかそういう当たり前の生きてきた時間を知らなくて、何だかとてつもなく壁があるように感じた。
知らないうちに上手に耀さんに距離を取られてる事に気づいて、本当に嫌な人だと思ってしまう。
笑って何も無いって顔しちゃって、全然そんなことがない。大人で賢くて、ズルイ人だ。
「耀さん」
「んっ、おっと……どったのよ瑞生ちゃん」
「……別に」
「別にはねぇだろ? ふっ、甘えてんの珍しいじゃんか」
「……耀さん、俺のこと好き?」
「ぶはっ! 何だよ急に!」
「いいから、答えて」
「好きだよ、好き。 今すぐ食っちゃいてぇぐらいにな」
耀さんの背中におでこをくっつけて腰に手を回す。
ふわりと香る煙草の残り香が胸を締め付けて、抱きつくとわかる見た目よりもガッシリと引き締まった綺麗な体は情事を思い返させる。
「ほら後で嫌ってほど甘やかしてやっから今は皿持って運びんさい」
「……」
振り返った耀さんの手には出来上がった夕飯。空いた手は俺の鼻を摘んで、おでこにチュッとキスをされる。
それだけで胸がキューって締め付けられた。
最近、耀さんと居るとお腹の奥が重く感じる。
これが"切ない"って感情なんだとしたら、本当に俺は恋愛とか向いてないと思った。
「飯食ったらどうすっかー。 ドライブでも行くか?」
「え、ドライブ?」
「お前好きだろ?」
「……なんで急に」
「元気ない時は好きなことするのが一番だ」
「……っ」
元気が無いのはあんたのせいだっての。
あんたが俺の知らない顔をして、俺の知らない人の名前を切なそうな顔して呼ぶから。
あの日の、あの夜の、耀さんの電話の相手が気になって仕方ない。
今も耀さんがぼんやりとする理由がその「ナツキ」なら、俺はどうしたらいい?
散々遊び歩いて来たのに。
こんな簡単な事さえ分からない俺は、恋愛なんてする資格無いんじゃないかと思えてくるんだ。
「だったら今日一緒に寝てよ」
「え?」
「……泊まりたい」
「あー……瑞生、悪いんだけど」
「……ごめん、嘘」
「悪い」
その電話があった日から、耀さんの家に泊まってない。それも腹の奥が重く感じる理由の一つだった。
こうやって一緒に夕飯は食べるけど、耀さんと同じベットで当たり前に寝てた事が急に終わってしまった。
耀さんに会えるのは楽しいし暇だから丁度いい暇つぶしになって良いんだけど……
このあと、独りで帰る部屋はこの部屋よりも寒くて、嫌に静かだから部屋から抜け出したくなる。
それに楽しい時間はあっという間に終わるから、寂しい。
「送ってかなくて良いのか?」
「大丈夫」
「寒いからちゃんとマフラーしろ」
「ふっ、俺若いから耀さんと違って」
「この減らず口が」
「ーーッ」
ムッとした顔を作った耀さんに抱き寄せられてキスをされる。
思わず訪れた触れた時間にドキッとして、やんわり口を開くと撫でるような優しいキスをしてくれた。
「何か不安だな。 やっぱり送ってくか」
「いいってば。 仕事あるんだし早く寝なよ、じゃあね」
「……気をつけろよ」
「はいはい」
最後のキスが効いたのか頭の奥がふわふわする。心配そうな耀さんに笑ってみせるとそのまま真っ直ぐ家に向かった。
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