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テキーラ・サンライズ
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「耀も昔はもっとキラキラしてたのに何かおっさん臭い」
「25にもなりゃ考えも変わんだろ」
「えー無理」
「お前も来年高3になるんだろ? 未来のこと考えてんのか」
「未来なんてあんの?」
「あ?」
「俺みたいなクズに未来なんてあんの〜? て感じじゃ〜ん」
「……それはお前がどうするかで変わることだろ」
「何マジレスしてんのさ」
「未来なんてっていう前にお前今日やれる事やったのかよ?」
「……あー! もう! ほんとに耀変わったウザイ!」
耳を塞いでビービー喚く怜を横目で見ながら煙草に火をつける。
セックスをした後の煙草はうまいなんて考えるのはやっぱり歳を取ったんだろうか。
目に見えて広がる煙をぼんやりと見つめていればベットで横になっていた怜が背中から抱きついてきた。
香る香水の匂いに眉間のシワがよる。
怜の香水は特に嫌いだ。
女の匂いがするから尚更、嫌いだ。
「耀となら未来あるかも」
「……」
「……俺、耀のお嫁さんになる」
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ」
「馬鹿なことじゃないよ。 本気かもしれないじゃん。 決めつけないでよ」
「悪かったな。 でもそれはねーよ怜」
確かに決めつけたのは悪かったな。
未来がどうなるかなんて分からねーんだから。
「夏紀っちが好きだからでしょ」
「ああ」
「……本当に?」
「本当だ」
「嘘つき。 本当は好きじゃない」
「夏紀が好きだ」
「……死ね」
「口悪ぃぞ」
「だってムカつく」
「拗ねんな」
「だって俺も耀が好きなのに」
「応えられねぇって言っただろ」
「いつかは変わるかも」
「変わんねぇよ。 俺は死ぬまで夏紀が好きだ」
「……なんでだよ馬鹿」
「勘がそう言ってんだよ」
「バッッッカじゃねーの!」
「……」
ふんっと臍を曲げた怜が布団に潜る。
チラリと一瞥すれば女みてぇに細くてしなやかな体を折り曲げて枕を抱きしめていた。
長めのサラサラな髪がシーツに散らばっている。
夏紀の金色の髪とは正反対の黒の髪。
夏紀のタレ目とは違う切れ長の瞳。
可愛らしい夏紀とタイプの違う綺麗な怜。
重なる所は一つもない。
一つもないんだ。
俺を好きになるなんてことはない夏紀と、俺に惚れて後を追いかけてくる怜。
怜の中に夏紀を見るなんてことは無い。
それに例え重なった所があったとしても好きになるなんてことは無いのだから比べる必要もなかったと気づいた。
「耀さ料理人になるの?」
「……親父が残した店があるからな」
「借金取りに取られたんじゃなかったんだ?」
「店だけは取り返したんだよ」
「……喧嘩で?」
「喧嘩で取り返せんなら家も何もかも取り返してる。 働いて金で取り返したんだ」
「そっか」
「ああ」
不意に聞かれたことに何も考えず応えればデリケートな事だと思ったのか珍しく怜の声が小さくなった。
ずっと昔に借金だけ残して消えた親父がただ鬱陶しかった。
母親も苦労をした。
毎日コツコツ返して行くために働きに出る細い背中がいつか帰ってこないんじゃないかと不安に思っていて、その不安は小学生の頃現実へと変わった。
『耀、いいか? あのな……お前の母さんが死んだ』
『……そっか』
珍しく学校へと家からの電話が来たと職員室に呼ばれて、待たされた俺の元へ来たのは父親の親父。俺の祖父だった。
しゃがれたしわしわの手で俺を抱きしめて震えた声で告げたのを今でもハッキリと覚えてる。
職員室に漂うコーヒーの匂いと、遠くで可哀想だなんて他人の事だから思える同情。
俺よりも悲しそうに唾を飲む爺の震えた微熱。
いつかこうなるとは思っていた。
だからそれほどショックは無いと思っていたのに。それから時間もかからないうちに俺は喧嘩ばかりするやつになっていた。
「耀……」
「ん?」
「お店開いたら俺に一番にご飯食べさせて」
「……」
「耀の一番になれないんだから、お客としては一番になってもいいじゃん。 それも夏紀っちにあげるって言ったらまた刺すから」
「それは笑えねぇ冗談だな」
抜けたような笑みを零しながら随分前に怜に刺された肩を撫でた。
昔のことを思い返していた俺に譲りに譲って考えたその条件に頷いてやれば嬉しそうに怜が笑う。
いつまでもこのまま居るつもりはなくて、やっとヤクザから取り返した店を開くために専門に通い出していた。
今更になってやり出す俺を皆は笑うかと思えば誰よりも喜んでくれて、抱きしめられたのは地味に嬉しかった出来事だ。
お陰様で喧嘩は辞めて勉強に没頭して今年卒業すればそのまま一流ホテルの下っ端に就く事が決まっていた。
俺だけじゃない、夏紀も既に外資系の企業に勤めて海外出張もこなしている。
俺達と同年代の他のやつらも昔の弾かれ者が嘘のようにそれぞれの道に向かって歩いていた。
もうグループのリーダーだの何だの言われる歳でもねぇしそもそもなったつもりもない。
けれど続いてこの土地にやってくる奴は後を絶たない。
皆、どこかに居場所を欲しがって居るんだ。
だったらあっても悪くねぇじゃねーか。
弾かれ者の奴らが傷を舐めあって数年後自分ひとりの力で生きていけるんなら、青クセぇ時にぐらい慰め合う場所があってもいいじゃねぇかと、そう思っていた。
「怜」
「なーに」
「お前がなれ」
「何に? お嫁さん?」
「ばーか。 このどうしようもねぇチームよリーダーだよ」
「は?」
「いつまでも俺にやらせんのか? 喧嘩はもうとっくに辞めた。 そんな奴に任せんのは男として情けないだろ?」
「いや待って、俺があんたみたいな最恐の不死身の代わりになれって? 無理に決まってんじゃん」
「無理じゃねぇ」
「無理だって」
「何で言い切れんだ?」
「……俺は人に慕われる様な人間じゃない。 耀みたいに人望なんて無いし耀はリーダーになろうとしてなったわけじゃないのに実際皆は文句ナシにあんたに付いてってる」
「……」
「それはあんただからリーダーだって納得してこのグループがやって来れたんでしょ。 それに……俺は耀を刺した奴だよ?」
「だからどうした?」
「っ、だからって……」
「やるか、やらねぇか。 俺が聞いてんのは言い訳じゃねーよ」
「……」
「俺の後に続けよ怜」
「ーーッ」
「お前が次のリーダーだ」
ギョッとした怜の顔が徐々にしっかりとした目つきに変わる。
その姿を見て腹の底から笑いがこみ上げてきた。
無理だ何だの言っても肝が据わっているやつだと、決めたことはとことんやり遂げる強さがあるやつだと、やっぱりこいつに後を頼んでよかったと怜に安心して任せられると、どこか肩の荷がおりた様で、出会ったばかりのランドセルを背負っていた怜が頼れる男へと変わっていく姿を見れたのが何よりも嬉しかった。
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