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テキーラ・サンライズ
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だけど輝かしい未来ってのはそうは長く続かないものなんだろうか。
嫌なことってのは、それだけは、これだけ平等だなんてもんが無い世界で、どんな人にでも何回でも襲いかかるものなんだろう。それも一番壊されたくないような幸せを簡単に壊すように出来ているのかもしれない。
*
礼から信じられない事を聞いたのは、
あの結婚式から何年か過ぎた日のことだった。
『耀聞いた? 夏紀っち離婚するらしい』
『……は?』
今年から漸く店を開けようと思った年の日。高校を卒業してスタイリストの道に歩んでいた怜から急に告げられた事に俺は手に持つグラスを落とした。
『どんくさ』
『……離婚って、離婚かよ?』
『何だよその馬鹿な返事。 やっぱり聞いてなかったんだ』
『……』
怜のその言葉は俺達を見透かす様な口調。
言われた通り、俺と夏紀は結婚式以来まともに会っても居なかったし話すことさえなかった。
あの日がお互い、別々の道で生きて行こうとスタートの日になった事を心のどこかで分かって居たんだろう。
夏紀には明るい未来が、場所が似合う。
俺はきっと変わらずこのまま暗い裏で生きていく筈だ。
意識してないと言えば嘘になるがそれでも驚くほど自然に俺達の関係は疎遠になっていた。
『なんかさ、夏紀っちーー』
怜に聞いた話は、海外出張の多い夏紀に耐えきれなくなった末の離婚だったらしい。
そうは言っても結婚してからもう六年も経っている。それに昨年三番目の子供が出来たと聞いていた。なのに夏紀がそんな理由で離婚を受け入れるのはおかしい。首を突っ込むべきじゃないと分かっていても、いつまでも消えなかった違和感を晴らすために怜から聞いた数日後、俺は懐かしいその人の元へと向かった。
*
悩んだ末に辿りついた夏紀の家の前。
何度か深呼吸を繰り返すと、静かにインターホンを鳴らす。
「はーい、っ、え……耀?」
「よう。 元気か?」
「驚いたぁ……うん、元気だよ?」
「そうか」
インターホンを鳴らして直ぐ、出てきたのは少しやつれた夏紀だった。
夏紀の家に遊びに来るのは何の皮肉なのか今日が初めてで、こんな用事で来ることになるならもっと早く挨拶としてでも来てやりゃあ良かったと心の隅にトゲが刺さる。
「耀が来るなんて珍しい」
「まあな。 俺もこの前こっち帰ってきたんだ。 それ迄住み込みで見習いしてた」
「どうだった? 帰ってきたってことはもうお店出すの?」
「ああ」
数年ぶりの夏紀との会話は昔と変わらない様でどこか距離があって、何年会わずともつい昨日のように笑えると思っていたあの頃は本当に若かったと胸の痼は膨らんでいくばかり。
「……それで? 懐かしい話しに来たわけじゃないんだろ?」
「怜から聞いた」
「そっか」
「聞いたんだけどよ、俺はなんか違ぇと思った。 だから本当はどうしてなのかお前に直接聞きに来たんだ」
下手くそに愛想笑いをする夏紀を真っ直ぐに見据えて口を開けばみるみるうちに影が差す。
踏み込んで欲しくないんだろう。
だけどここで引く様なら元々家になんか来ていないんだ。
気まずい気持ちを振り払うと黙り込む夏紀に再度問をぶつけた。
「……」
「海外出張が理由は嘘なんだろ?」
「……ううん本当に。 俺がもっと家に居ればこうはならなかった」
「……こうって離婚か?」
「……遥居るでしょ。実はね…… 俺と百合の子供、遥だけだったんだ」
「ッ、それって……お前」
「うん。 あとの二人は不倫した他の誰かの男の人の子供だったみたい。 俺それに全然気づかなくて……気づけない程家を空けてたんだなって……百合もだから不倫したんだなって、誰も悪くなくて俺がーー」
「夏紀」
「ッ、あ……ごめん」
「いや。 誰も悪くねぇなら夏紀も悪くねーだろ。 つーか、遥達は?」
「……今は百合のところ」
「百合が育てんのか?」
「……ううん。 百合は嫌なんだって。 俺のこと思い出すから。 へへ、だから落ち着いたら俺が育てる事になってる」
「夏紀……」
聞かされた真実に驚いたまま声が出なかった。
そんな事が起きてるとも知らずにこいつの傍に居てやれなかった自分に憎悪が芽生えるほど、目の前の夏紀はあの日、結婚式の時のようなキラキラした笑顔は消えて遠い昔に見たただ笑うことしか出来ない夏紀に戻った様だった。
「耀……俺、やっぱりダメなんだって。 大切なものがないらしい……欠陥品だって」
「欠陥品……?」
「普通の家族を知らない俺は父親にも旦那にもなれないって、俺、ッ……俺、やっぱり要らない人間なのかなあ……ッ」
「ーーッ」
そう言った夏紀は静かに涙を流した
笑顔に伝う一粒だけの涙にどれだけの苦しみが込められていたのかと思うと、どんな喧嘩の痛みよりも痛くて痛くて、笑いながら泣く夏紀が壊れちゃいそうなほどに儚くてもう二度と触れないと決めた筈の両手は……
消えそうな夏紀を抱きしめていた
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