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テキーラ・サンライズ
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「ーーッ!」
「……」
抱きしめられた夏紀が静かに息を呑んだ
「か、がり……ダメだよッ、約束……しただろ?」
「……夏紀」
「耀ダメ。 俺、こんなでも一応お父さんなんだ……。 ……あのね、俺耀にかっこいいって言われたの本当に嬉しかった……それに約束したから誰よりも幸せな家族になるって今でも、こんな情けないけど、諦めてないよ」
「……ッ」
「……ごめんね耀。 いつもごめん。 本当にごめんなさい」
「謝んじゃねぇよ……ッ」
「ごめ、なさいッ」
「……馬鹿夏紀」
「ッ……、っ」
触れた肌から燃えるように熱が伝わる。
初めて抱きしめた夏紀の体は思った以上に細くて、震える肩がいたたまれなくて、せめてこいつがまた眩しい笑顔で笑えるようにその時迄もう一度傍にいる事は結局昔に戻ってしまうんだろうか……なんて。
夏紀の体温が暖かくて離したくねぇなんて思った感情は、夏紀の言葉によって再び押し込められた。
「……そうだなもうお前親父だもんな。 うし。 だったらそんな泣いてたら遥達が不安になるだろ? 泣きやめ泣き虫」
「ふふっ……うん、本当しっかりしなきゃね」
赤い鼻を摘んでからかえば困ったように顔を崩して夏紀も笑う。
まだ無理をしている事なんて十分に伝わってくる。何か出来ることがあるならしてやりてぇと思う気持ちは、自然と言葉になっていた。
「夏紀また出張あんだよな?」
「あ……うん」
「……俺が預かるか?」
「え?! え、えっ、耀が?!」
「頼りねぇなら無理にとは言わねーけどよ」
「う、ううん! 助かる! 本当に? ほんっとーにいいの?」
「ああ。 お前が向こう行ってる間は俺が面倒見てやるよ。 餓鬼は嫌いじゃねーしな」
「耀……ありがとう」
「……気にすんな。 兎に角、先ずは夏紀から元気になんなきゃな」
そう言って離した夏紀のが体温が名残惜してくて。笑いが零れた。
何を一人興奮してるんだろうか俺は……
数年ぶりに会えたからって、何十年越しにこの体に触れられたからって関係は変わらない。変えられない。
……そうなんだ、もう夏紀はあの日の夏紀じゃない。
餓鬼が居て、泣いても消えそうでも、そいつらの為にそれでも頑張ろうと出来る父親なんだ。
俺のこの気持ちは誰にいうでも無く消すべきものなんだ。
「夏紀」
「なに?」
「無理はすんなよ。 でも、応援してるから頑張れ」
「ッ、ありがとう」
それでももう一度夏紀の傍に居れることが嬉しいってのは誤魔化しきれなくて。
物凄くこの時間が懐かしい感覚だった。
夏紀の右隣に立って、背中を押してやる。
笑った夏紀がはにかんでその姿を見てこれでいいと納得する。
そうやって育ってきた10代の記憶が脳裏を駆け巡って、幼い頃の夏紀の姿が目の前の夏紀に重なる。
「早く、出世してやるぞー!」
「その前に飯食え飯」
「あははっ何か変わらないねお母さんみたい」
「うるせえっての」
何もかも変わった俺達が唯一変わらなかったのは、昔も今もくっつく事の無いこの30センチの距離。
距離と一緒に笑う俺達は歳をとっても変わることなく続いた。
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それからこの歳になる迄、夏紀とは付かず離れずの関係で。
相変わらず夏紀に対して抱く感情ら好き以上それ未満。今更これをどうにかするつもりも、どうしようともそんな考えは少しも無かったまま過ごしていたある日、ふらりと瑞生に出会ったんだ。
「……あらら傷心してるって感じだね〜」
瑞生を見つけたのは店の前でだった。
店の前にぼんやりと青いライトに照らされ突っ立っている青年は、感情が読み取れない無機質な表情をしたやつ。
ただ一つ分かったのは、俺達と同じでこいつもぽっかりと何かが足りてないって同じ匂いのする奴だって事だった。
だからあの時俺は声をかけたんだろうか……
独りに見えた瑞生が何となく放っておけなくて、何となく声をかけた生意気な餓鬼を、何となく気に入って、それから気づけばのめり込む様に瑞生の事ばかりを考えるようになっていた。
セックスをする気も無かった筈なのにいい歳して抑え切れなかった欲情に飲まれて瑞生を抱いた日、初めて他人を素肌で抱いた。
必ずシャツは身につけている癖にそれさえも脱いで、見せるつもりの無かった触れさせたくない刺青に触れさせて、セックスをする時だって上に乗らせたことが無かった癖に、初めて俺の上に跨ったのは大人も世の中も何もかもを舐めているような大人のフリをした野良猫の様な餓鬼だった。
そんな何もかもが初めてな瑞生に戸惑って会うことも辞めるべきかと迄考えて、気づけば大事にしたいなんて思っていた俺は今思い返せば初めて見た時から惚れてたんだろう。
誰とも付き合う事なんてねぇと思っていた人生に瑞生はとんでもねぇほどの甘ったるい時間をくれた。
それから初めて見返りを求めたのも瑞生だったんだ。
出来れば長いこと一緒に居たいと、誰かに傍に居て欲しいと思うほど心地のいいやつは瑞生が初めてだった。
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