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テキーラ・サンライズ
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ただ一つ、気が進まなかったのは知れば知るほど瑞生は寂しがり屋でどうしようもない甘えん坊だった事。
このまま付き合って行けばきっとこの先を求められるだろう。
一生一緒に居てやるなんて言葉はもう二度と言いたくなかった。
そんな馴染みのクサイ口約束も、付き合うだの恋人になるだのそんな形あるものになる事もどこか気が乗らなかった。
四十超えたオッサンとこれから色々と自由に生きていける若い瑞生が一緒に居ていいわけがない。
考えれば考えるほど、瑞生から離れるべきだとそう思ったのに、喧嘩して出ていった瑞生が居ない時間はあんまりにもゆっくりで生きる時間ってのはこんなにもつまらねぇもんなのかと初めて感じた。
『誰かのモノにしたくない。
いや、瑞生も"普通の幸せ"を選ぶべきだ。
俺が瑞生を幸せにしたい。
いや、幸せになろうと努力しなかったやつが人を幸せに出来るわけがない。
ただ、瑞生が好きだ。
好きなのは……、今だけだろ?どうせ続ける気が無いんなら今すぐ離れるべきだ。』
本音と建前、肯定と否定、理想と現実
どうにもならない歳の違いに悩んだ。
しっかりとした大人なら身を引くべきなんだろう。
瑞生が俺を「いい歳したオッサン」と言う度にその言葉は俺に自制させて現実を突きつける言葉になった。
ーーああ、まずいな。本当にハマりそうだ……
そう感じた時にはもう手遅れで。
段々本気になって行く俺自身に少しばかり恐怖さえ覚えた。
この歳になって誰かに気持ちをぶつけるのは余りにも怖いことだった。
瑞生がムスッといじけることを知っていても「俺と居ろ」なんて言葉を、そんな意味を含んだ言葉を、言ってやることは無かった。
いつも与えるのは逃げ道を作った選択肢。
瑞生がいつでも俺から離れて行けるように一定の距離を置いて……。
それでもあわよくばずっと冗談で言い続けた飼い慣らすぞだなんて灰にかぶれた本音を本気で考えて、考える度に噛み殺して、そうやって本音を隠して瑞生に任せた関係は半年も続いた。
きっと俺が「付き合え」と、「一緒に居ろ」と、その一言を掛ければ瑞生は何だかんだと言って頷いたんだろう。
答えを出し切れないまま瑞生が行動を起こさなかったのは俺がいつも距離を置いていた事に気づいてたからだという事も気づいていた。
『耀さんってズルイよね』
そう言った瑞生の猫目は見透かす様な色で、いつもただ笑って見ないふりをしていた。
『俺のこと好き?』
そうやって笑っておちょくる様に聞いてくる瑞生の本心はいつも不安な色に染まって居ることに気づいていて、頷くしか出来なかった。
『……耀さん』
泣きそうな声で眠る瑞生が夢の中で俺を呼ぶ度に、寂しがり屋で甘えん坊でどう仕様もなく傷つきやすい弱い瑞生を独りにする事が怖かった。
歳の違いはこれから先もっと広がる。
瑞生が四十になった時に、俺は一体幾つだ?
六十の爺が一体瑞生に何をしてやれる?
七十の老耄がどうやって瑞生を守ってやる?
死にそうになった時、また『ずっと一緒』と言う約束を守れなかったことに堪らない悔しさを感じるのか?
そんな分かりきった未来に俺は、約束が出来なかった。
本気だったから嘘をつきたくなかった。
本当に大切にしたかったからその場しのぎの口約束に平和を感じたくなかった。
瑞生が好きだからこそ一緒に居てやりたい。
好きが分からないと泣いた瑞生だからこそ見つかるまで一緒に居てやりたい。
明日には自分の気持ちも分からなくなると笑いながら傷ついていた瑞生の頭を撫でてやりたい。
不安になる度大丈夫だと言って抱きしめてやりたい。
ただ、ただ、俺の手で幸せにしてやりたいと願った初めての人間は俺よりもずっと若くて、俺がどうやっても与えてやれない『永遠(ずっと)』に固執しているまだまだ青臭い餓鬼だった。
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