アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
テキーラ・サンライズ
-
*
「か、がりさ……」
「分かってて、それでも手を出した俺の事……。 許してくれ……ッ」
今迄起きたことが頭の中を駆け巡った。
けれど、どれもがただの言い訳にしか聞こえなくて瑞生に何も言える言葉が無い。
「……許せるわけ、無いじゃん」
「……」
「裏切った癖に……ッ」
「瑞生」
「今更信じられないよ。 もう無理だよ」
ふらりと上に乗っていた瑞生が立ち上がる
逆光で見えなかった瑞生の瞳から涙がこぼれて俺の肌の上に落ちた。
ああやっぱり許されるわけがない。
何をどう言ったってあの日瑞生を選ばなかった事は事実だ。
許されなくてもいいから好きだという事だけは本当なんだと信じて欲しくて。
今更そんな事を言っても瑞生にとってはただの重荷になることを分かっている癖に、どうしようもなく瑞生を好きなのも誤魔化し切れない事実で、心臓の奥が痛む。
「瑞生」
「……」
「許さなくて構わねぇ……でも、もう一度やり直すチャンスくれないか」
「……ッ」
「どれだけ時間が経っても構わない。 いつまでも待ってるから……もう一度欲しい……っ」
「……、そんな日来ないよ」
「……」
「もう一回信じるなんて俺には無理だよ」
「瑞生」
「……ごめんね耀さん。 今迄ありがとう」
背中を向けたまま静かに告げた瑞生が部屋を出ていく。
最後まで見えなかった瑞生の表情が、向けられた背中から伝わってきて静寂に包まれた部屋の中には瑞生の香水の匂いが残っていた。
「……情ねー」
これで本当に終わったんだろうか、くしゃりと髪を握り締めたまま溢れる自分への嘲笑。
さっきまで瑞生が座っていたソファに今度は一人で座って、瑞生が良く欲しいと言っていた俺のタバコに火をつけた。
「……」
最後のありがとうはきっとさよならの言葉だ。
都合のいい話をしてるなんて分かっていた癖にそれでもこんなにも後悔をした。
傷つけたくないと思っていたくせに結局の所傷つけて終わってしまった。
夏紀のことも、瑞生のことも、誰一人として笑わせてなんかやれなかった。
吐き出した煙にはずっと灰をかぶった汚い感情が混じっているようで、ただぼんやりとソファの背もたれに体を預けたままぼんやりと白い煙を見上げた。
振り払われた手はもう一度瑞生に伸ばそうとして、伸ばせなかった。
手のひらを爪がくい込むほど握り締めて震える拳は喧嘩ばかりで傷つけることは出来るくせに守ることは出来ないんだな。
「だからいつも失くすんだよ俺は……」
親父も、お袋も、俺を何度も叱ってくれた爺もいつも気づいた時には間に合わなくて、だから俺は大切に出来ない人間だと思いこんで逃げてきた。
俺の、てめぇのせいで無くした事実から目をそらしてきた。
でも夏紀を好きになって、瑞生に出会って、瑞生を好きになって初めて好かれたいと思ったところで変えられねぇんだろうか。
逃げてきた奴には誰も幸せになんか出来ないんだろうか……
狭まるような胸の痛みを感じて泣いていた瑞生に何も言えないままずっと虚無感に包まれた時間は、いつの間にか一ヶ月以上も経っていた。
一ヶ月も時間が経っている癖に瑞生への気持ちは消えるどころか増して行くばかり。
だけどここ最近になってやっと瑞生はもう俺のところには帰ってこないんだと現実が見えてきた頃、バイトの子に店の前で誰かが待っていると聞かされた俺は何も考えずに飛び出していた。
「瑞生……ッ!」
エプロンもつけたまま飛び出した夜の外に居たのは瑞生じゃなくて
「瑞生じゃなくて悪かったわね。 アタシで」
「……怜」
長くて黒い髪を後ろに束ねた男の格好をしている怜だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
355 / 507