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時間×距離=二人愛
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『アァ……っ! イっちゃ、うっ、またイっちゃうぅ……っ!』
携帯電話から聞こえてくる激しい水音と、艶かしい喘ぎ声。体を跳ねさせているのだろうと想像できるスプリングの軋む音とシーツの擦れる男。
時間が経つにつれて激しくなる行為の生中継に、学校に遅刻する事も構わず携帯を握り締めていた。
『んァアッ! なお、きっ、気持ちぃ……ッ』
電話口の向こうから呼ばれた俺の名前にドキッと心臓が跳ねる。俺のことを想像しながらやって居るんだろうか?喘ぎ声に混じって聞こえてくる祥の縋る声にまるで麻薬に侵されたかの様に体は蜜を欲していた。
ほんの少し忠告するついでだった。
最近の祥の話を聞いた俺は嫌な予想が頭に浮かぶばかりで、そうはならない為にもっと周りを警戒して欲しくて忠重くなり過ぎない様に、からかい混じりで忠告をしたんだ。
案の定怒った祥に慣れた態度で学校の仕度をしながら電話をしていれば、いつもと違う冷静を装った無理した返事と、ガゴンと大きな音が聞こえてきた。
きっと携帯をどこかに投げでもしたんだろう、安易に想像出来た行為に笑いが漏れる。
おまけに通話も切らず馬鹿な祥だと思いながら。
いつ通話ボタンを切って居ない事に気づくかと悪戯心で通話を切らなかった結果、ひとりエッチに祥が没頭し始めた訳で、切るなんて選択肢は勿論無かった。
勿論、一通り終わったら後で絶対からかってやるつもりだ。
『ん、っん……! なお、っきぃ……シャツ、汚れ、ちゃっう、あっ、あんっ、ああっ』
聞こえてきたシャツの単語にピタッと思考が停止する。
祥はもしかして俺のシャツをオカズに抜いてるのか?
瞬時に想像出来たその姿に心の底から遠い距離に居る事を恨んだ。もしも近くに居たなら可愛いすぎて抱き潰していたかも知れない。驚いて涙目になりながら逃げる祥を捕まえてわざと意地悪して俺のシャツで抜いていた事を責めながら、どろどろに愛してた。
『そこッ、そこ好きぃッ……! なおっ、あっ! や、っあ』
聞いてれば解るが、きっと祥の頭ん中では俺に抱かれてる時のことでも思い返してるんだろう。完璧に出来上がった艶かしい声を上げエロスイッチの入ってる祥に俺もつられてムラムラしてくる。
『好き……っ、好きッ、なお、大好きッ』
このまま一発抜いとくか。
そう思った時、さっきの雰囲気とは違う消え入る様なか細い祥の声に動きは止まった。
『ッ、ぐす……う、会いたい……っ』
ずっ、と鼻をすする音と、初めて聞いた会いたいの言葉。電話口の向こうで祥が泣いている。
俺が何度も会いたい?と聞いても素直に会いたいと言った事はこの一年無かったのに。
どれだけ煽っても誘導してもそこだけは頑なに頷かなかった、言っても一年後に会いたいだなんて可愛くない愛しい返事のみ。
そうだったのに今聞こえた言葉に心臓の辺りがチクチクと痛む。
『直輝……っ、ふ……ぅ……早く、帰ってきてっ。 寂しいよ……っ』
何かに顔を埋めて居るのか、祥の声がくぐもって聞こえる。涙に滲んだ声と意地を張り口にしてこなかった甘えた本音に痛みは増して心臓がぎゅうっと締め付けられた。
本当に、祥は天邪鬼で意地っ張りで頑固だ。
何度も元気の無い顔を見る度に帰ろうと思った。でもその度に祥には止められた。
祥の言う、一年後の約束をやり直した俺達の初めての約束を守りたいから。
ちゃんと一年後に全部終わったら帰ってきて欲しい、と。
そう言われては帰れるわけが無い。
その言葉を、言った約束を、確かに守らなきゃならないのだから。
それが俺自身に決めたことだっただろ。お互い自立し合わなきゃならないんだ。何もかもを放っぽってそれだけに身を落とすのはもう辞めると、祥に誓ったのだから。
『……ッ直輝』
だけどこれは、こればかりは、見過ごせるわけが無い。
さぞかし怒られるだろうな……。
いつでも潤んでいる大きなタレ目をこれでもかって程に吊り上がり、顔を真っ赤に染めあげてきっとパクパクと口を開けたり開いたりしながら、盗み聞きしていた事を教えたら恥ずかしさの余り泣き出すかもしれない。
もしかしたら一週間は口をきいてもくれなくなるかもしれない。
最低、大嫌い、ってまた罵られるかもしれない。
でも、聞いてしまった祥の寂しさに今すぐ抱きしめてやれないのだからせめて空気に混じって消えていく悲しい言葉に返事をしてやりたい。
『……ッグス』
「祥」
『?!』
「あー、携帯。 祥、通話切ってない」
『……ッ!!!』
一瞬の沈黙の後、けたたましい音が聞こえてくる。それからガサガサとシーツの擦れる音が大きく響いてきた。今頃必死に携帯を探しているんだろう。
『あった……!』
見つけたのか、ぜーはーぜーはーと苦しそうな息に必死なことが伝わる。
聞こえてくる声と、祥の間抜けさにクスリと笑いが漏れた。
『……もっ、もしもし、あの、全部……まさか無いよね?』
「うん、聞いてたよ。 勿論」
『〜〜ッ?!』
あ、きっと今口をパクパクしてる。
絶対そうだ。何て返せばいいのか分からなくて頭がショート仕掛けて目を回しているんだろう。
でもそろそろ羞恥心が心を埋めればーー
『最低ッ!』
「ふっ」
やっぱりな、想像の通り怒る祥にまた笑ってしまった。
『最低だっ! 盗み聞き、 俺の……っ! う、うう……ッ、なんでッ、なんでそんなッ』
「泣くなよ、可愛かったよ?」
『煩い馬鹿野郎ッ!』
「今更気にすることある? 祥のあんな姿もこんな姿も、体の隅々迄見てきたんだから」
『そうだけど……ッ! そうだけど、ッ違う!』
そうなのか、違うのか、めちゃくちゃな事を今も尚電話に向かって叫ぶ祥を笑いながらかわすと、話を変えた。
このままプンプン怒る祥を宥めるのも可愛いけど、それよりも先に言わなきゃならない事がある。
「それで、いつもそうやって泣いてるの?」
『え……ッ』
「さっきみたいに、泣いてたの?」
『な、泣いてなんか』
「嘘はつかないって約束忘れた?」
『……』
シーンと静かになる向こう側に、苦笑を浮かべた。再度、深く息を吐くと落ち着いた声で話を続ける。
「会いたいなら会いたいって言えよバカ祥」
『っ、そんなの、ダメに決まってるじゃん』
「どうして?」
『だって……ッ言ったら、直輝困る』
「馬鹿だよな祥って」
『ッ』
「俺も会いたいんだ。 好きな奴に会いたいって言われて困るやつなんか居ないよ」
『で、でもッ』
「言い訳しないの。 寂しい時は電話してって言ったのに、ずっと約束破ったんならお仕置きだな」
『……ごめ、なさ』
「……」
『直輝……怒ってる?』
「うん、凄い怒ってる」
『ーーっ、ごめんなさいッ、俺、迷惑かけるの嫌で……会いたいって言ったら直輝帰ってきちゃうと思って、でもそしたら直輝に結局俺は甘えちゃうから、だから……ッ』
「冗談」
『え?』
「怒ってない。 怒ってないよ。 それよりも俺こそごめんな、寂しい思いさせて」
『え、っ、や、それは』
「……あのさ、祥。 俺二月に帰るから」
『二月?』
「二月二十八日、祥の誕生日には帰るから」
『ッ! え、ッでも!』
「その日だけは絶対帰る。 祥も約束を破ったんだから、俺にも一回破っていい権限があるだろ?」
『う……』
「これでおあいこ。 その代わり帰ったら沢山抱きしめていい?」
『っだ、抱きしめっ、う……ッ』
「いいの? ダメなの?」
『〜〜ッ』
しぼむように小さくなって行く祥の声に、意地悪し過ぎたかなと思う。でも少し意地悪しなきゃ祥は言わない。どう思ってるかも、どう感じたのかも、我慢する祥は追い込まれてやっと観念して本音を零す。もっと素直に甘えて頼ればいいのにと思う事は何度もあったけど、こんな祥だからきっとこの一年を、この距離と共に二人で続けて来れたんだ。
『い、いよ』
「んー?」
『いいよ……ッ!』
「ふふっ、よく言えました」
『〜〜っ子供扱いするな』
「子供の方がまだませてるよ祥よりな」
『ッ』
沈黙の後に聞こえたお許しの言葉。
電話口の向こうでからかわれた事にムッとしてる祥。声だけでも好きだと堪らなく感情が溢れる。遠い距離で抱きしめてやれないなら代わりに何度でも言いたい。
「祥」
『……なに』
「拗ねた?」
『…………別に』
小さな口喧嘩は絶えないけれど、それでも仲良くやってこれた
「いい事教えてやろうか」
『なんだよ。 どうせまた俺の事馬鹿にするんだろ』
「本当にそう思う?」
『……』
この喧嘩は愛情の塊で出来てる。喧嘩しても笑ってるんだから。
「祥の事愛してるよ」
『ーーっ!』
「これもからかう中に入る?」
『う、うう、煩いッ』
「可愛い。 早く会いたいけど二月迄待ってて」
『うん……』
「必ず帰るよ」
『うん』
「そしたらもうずっと一緒だ。 どこ行くにも祥に引っ付いてやる」
『……っ、うん』
「だから寂しくなったらいつでも言って」
『……』
「また祥が拗ねる位好きって言うから」
『それはうざい……っ。 けど、俺も、好きだよ』
「知ってるよ」
『大好き』
「ああ」
『大好き、……大好きっ』
「ふふっ、うん。 俺も」
今はまだ抱きしめてはやれないけど、それでも伝えることが出来るから。
素直じゃない祥に後何百回、好きと伝えようかと企んでは頬を緩ませた。
この距離だからこそ出来る愛し方もあると、教えて貰ったのは俺だった。遠距離も悪くないと感じさせてくれるのは全身全霊で応えてくれる祥の真っ直ぐな心が伝わっていたから。
「『好き』」
重なった言葉に笑みが零れる。
一緒に笑う時間もこの距離も、きっとこの先宝物になる。そうやって思い出になった頃あーだこーだと思い返し笑い、話せる幸せの時間へと色づくんだろう。
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