アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
意地悪な態度
-
◆
「祥くーん!」
ルンルンと弾むような呼び声に振り返ると、携帯を片手に爽さんがかけ走ってきた。その表情を見て、元々沈んでいた俺の心はもっと暗くなる。きっと今から聞かされるであろう人の名前は、今一番聞きたくないからだ。
「あのさ、直輝がさ!」
「……」
ほらやっぱり……
爽さんが犬のように笑顔になる時はいつも大抵直輝の時だけだ。爽さん、直輝の事よっぽど好きなんだなぁなんてぼんやりと思う。
「直輝がメールの返事くれたんだ!」
「えっ!」
「なぁ? ビックリだよな。 初めは送り間違いかと思ったよ」
「良かったですね! それは嬉しい!」
嬉嬉として話す内容に、落ち込んでいたくせに一緒になって笑ってしまう。
だって爽さんは本当にずっとメールの返事に悩んでいたから、そりゃ喜んでしまう。俺が落ち込んでいた理由はまた別問題なんだから。
「でも間違いだなんてそんな事思っちゃう爽さん……ふふっ、可愛いですね」
「いやいや祥君の可愛さには敵わないけどな〜、でもメール文見たら俺に送ったんだ! って絶対の自信があったよ」
「そんな特殊な内容? だったんですか」
「ああ、『煩い』って来てたんだ!」
「……え?」
「ん? ウルサイって漢字で二文字もきたんだ! 二文字も!」
「……」
「これは俺宛だよな、間違いじゃないよな!」
「そ、爽さん……?」
「どうした? 祥くん」
「……い、いえ何も」
二つも言葉が並んでるー!
そう言って今にも跳ねそうな程喜ぶ爽さんに何も言えなかった。
それでいいんですか……?
なんて言葉は絶対に言っちゃならないと思ったのにーー
「そんなんで喜ぶ爽さんって喜びの沸点も微生物ですね」
「結葵君?!」
「ああ?」
ひょっこり現れた子犬の様な顔立ちの彼は爽さんの携帯を覗きこんで言い放つ。
結葵君それは……なんて止める間も無く二人はいつもと同じように言い合いを始めた。
「それで喜ぶなら天使さんだってそうなりますよね」
「人の携帯勝手に見んな」
「見せびらかしてたから」
「じゃあ俺のせいって言いたいのか?!」
「……ふっ」
「あっ! お前この野郎ッ!」
いつも通り、爽さんが結葵君の手のひらで転がされている。それを傍から見ていて何だか親近感が沸き立つ。何でだろう?首を傾げて考えてみれば答えは直ぐにわかった。
直輝と俺にそっくりだからだ……。うわそう考えたらもっと落ち込んできた。
再び沈み出した気分に肩を落とすとフラフラと歩き出す。
後ろから何だか結葵君が呼んでいた様なそうでない様な気がしたけど、今日はもう一人でいたい。
その日は結局ズーンとしたままで帰り際、怜さんには根暗お化けなんて新しいあだ名を貰った。
「ただいまー」
真っ暗でシーンとした家に力無い声が響く。カチャリと鍵を置くとそのまま部屋に直行した。今日はスーツだったから早く脱ぎたい。ネクタイを緩めて、鞄を置いて、ジャケットを掛けようとする手前で結局そのままベットに倒れ込んだ。
「……はぁ」
意識せず漏れるため息にハッとして悪い気を振り払う。それでもやっぱり気持ちは沈みきっていてもうこのまま寝てしまおうとした時、携帯の着信が邪魔をした。
「……はい」
『どうした? 機嫌悪いのか?』
「聖夜……。 ううん、特に何も無いよ」
『特に何もねぇって声じゃ』
「大丈夫だって! 本当心配症なんだから」
『そうか』
電話口の向こう、聞き慣れた声がする。直輝とは違う落ち着いていて少しばかり乱暴な口調。でも話し方は優しいから怖いとか感じない不思議な喋り方。
「それでどうしたの?」
『ああ、28日何してるかと思って』
「え?」
『直輝帰って来れねぇって聞いたからな。 丁度俺も綺月さんもその日は休み何だ』
「……」
『予定ねぇなら俺達と飯でも行かねーかなって』
「ありがとう」
聖夜の気遣いに顔が綻ぶ。素直に嬉しい。だけど二人の邪魔をして迄一人が嫌いなわけじゃないんだ。もうその気持ちだけで物凄く嬉しい。だから、大丈夫だと示す様にいつもより少しだけ声を高くすると、お礼を伝えた。
『じゃあ』
「でも、気持ちだけ受け取って置くね」
『何でだよ? 一緒に食わねーの?』
「その日は仕事なんだ、今日急に入っちゃって……社会人に誕生日も何も無いなって思ったよ」
『……本当にか?』
「うん! だからありがとう。 その日は久しぶりに綺月先生と二人で過ごして?」
『ん。 まあもし時間空いたんなら声かけろよな』
少しだけ困った声がした。でも、聖夜だって最近綺月先生とすれ違って居ることを気にしていたから、尚更二人の邪魔をしたくはない。
「うん。 また今度ご飯行こうね! 三月には四人で会えるかも!」
『ああ。 楽しみだな』
近々会う約束をして電話切る。
途端に溢れた寂しさからライオンのぬいぐるみに抱き着いた。
二十八日は、本当なら直輝が帰ってくる予定だったんだ。
俺の誕生日だからって約束していた日だったけど昨日電話の途中、何やら後ろで揉めていて、結局そのまま電話を切った数時間後に仕事でごたついて行けなくなったとだけ連絡が来ていた。
仕事なら仕方が無い。そもそもこっちに来るにしても直輝の負担になる訳だし我侭は言えない。
少し会う日が伸びただけだ。だから落ち込む事はないと思ってもやっぱり会いたいものは会いたかった。寂しいと思う気持ちに嘘は付けなかった。
「直輝のばーか……」
直輝にそっくりな白ライオンの鼻をピンッと指で弾く。焦らされた分、日本に戻ってきたら沢山困らせてやろう。それで寂しいのはおあいこだ。
そうやって気持ちを切り替えると皺になる前にベットから下りる。部屋着に着替え終わると直輝と電話をする時間迄ベットの上でゴロゴロとしていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
373 / 507