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意地悪な態度
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◇
「お疲れ様です」
時間が過ぎるのは早いもので気づけばもう二月も終わる。寒い冬も、もうじき終わるのかと思えば少し惜しく感じる。でも寒いのはやっぱりちょっと苦手だ。
「祥〜、アンタ明日本当に休みじゃなくていいの?」
「大丈夫です。 寧ろ仕事入れてラッキーですよ」
「まあアンタが言うならいいけど」
予定表を確認しながら怜さんがうーんと唸る。気遣いで休みにしてもらって居たけど一人で休みを使うよりも、直輝が帰ってくる日に改めて休みを取りたいから良いんだ。
「あ、ちょっと龍騎こっち来なさい」
「んだよ」
「返事はハイだろ」
「……」
気だるい瞳は鋭くて、細められた目はハッキリ言ってぞくりとするほどに威圧感を与える。赤い髪は彼にとても似合っていて、輝く眼光がパチリとぶつかった時、ぷいっと逸らされてしまった。
「……?」
あれ、今目あった……よね?
怜さんに呼ばれて圧倒的オーラを放ち話を聞いているのは、結葵君の噂の幼馴染み當山龍騎(トウヤマリュウキ)君だ。
喧嘩をする事に慣れて居るからか、雰囲気がピリピリとしている。でも何だかんだと言って彼は優しい。
怜さんが一人眠る時は、龍騎君も一緒に泊まっている。理由を聞けば怜さんは寝相が悪くて毛布を蹴り落とすから、風邪を引かせない為に……らしい。
めんどくせぇ、だの。てめぇがやれ、だの。乱暴なことを言っていても言われた事をこなす辺りも責任感の強さが伺えた。
「なんか用かよ?」
「え?」
「さっきから見てんだろ?」
「あ、ああ……ふふっ、結葵君から聞いてたよりもうんといい子だなって」
「……」
「乱暴だからって言ってたけど、乱暴ってよりも周りがそうさせてたんだろうなって考えてたせいかも。 不快な思いさせてたらごめんね?」
「別に」
じっと見つめてくる眼光に笑みを向けると、またパッと顔を反らされた。何だかその反応って、考えたくなかったけどもしかして
「俺嫌われてる……?」
ぽろりと零れた不安にちょっとばかし胸がチクリとする。
結葵君の幼馴染みだし、きっと大切な人だから、俺も仲良くしたかったけど。好き嫌いはあるもんなぁ。万人に好かれるなんて人は居ないし、そうはなりたいなんて思っては居ないけど仲良くしたいと思っていた分ハードルは高そうだと思った。
「まあ仕方ないか……。 怜さん、龍騎君、お疲れ様です」
「あいあーい、気をつけるのよ〜襲われそうになった逆に犯してやりなさ〜い! アタシを呼んでもいいわよ〜」
「……」
カラカラと笑う怜さんに、横目で見つめてくるだけの龍騎君。
二人にペコリと頭を下げると真っ先に家へと帰った。今日は直輝と電話も出来ないらしい。仕事でずっと家に帰れないらしくて、帰るのは明後日だって……
「ニューヨークかぁ……遠いなぁ」
もしも1日もかかずに着くならばもしかしたら俺の方が飛んでいったかも知れない。
けど1日休みじゃ往復時間だけで休みは潰れてしまうし、電話できないほど忙しいとあの直輝が言うのに押しかけたらそれこそ迷惑だ。
きっと俺にまた過保護になるだろうし、気が散って仕事しなさそうだし。
そんな直輝の姿を想像していたら、小さく吹き出してしまった。
うん……なんだか会えなくてもいいやっ!
だってなんかそんな慌てる直輝を想像しただけで胸が満たされてくる。
自惚れだけど、直輝が俺を大切にしてくれていることは信じて居るから寂しくても大丈夫。
昔と違って俺も少しは成長したかな?なんて、思いながら家へと辿りついた。
「ただいまー」
リビングの電気をつけて、部屋着に着替えるとこたつにモゾモゾと潜る。
寒けれは寒いぶん暖かい所に来た瞬間のこの幸福感は堪らないなんて親父臭い事を考えながら、暫くそのまま暖まっていた。
「んー、眠い」
ぽわぁと体が熱くなるとぬくぬくしていて眠気が襲ってくる。明日の仕事は午前中が勝負だからもう寝てしまおうかな。朝も早いし、1日外での撮影だから寒いのが苦手な分気持ち的にも休みたい。
でもここから出てベッド迄移動するのはかなり億劫で、あと十分後に抜け出そう、そんな甘い事を考えている内にぐっすりと眠りに落ちてしまった。
・
・
・
「祥。 祥、起きろ」
誰か、の声がしてくる……
「……風邪引くだろ。 仕方ないな」
ちょっとだけ厳しい口調に、いけない事をしたのかと必死に瞼を開けようとする。
けれど、眠気がそれを邪魔して薄く開いただけの視界はまた閉じられた。
「二階連れてくから、暴れるなよ」
二階……?二階って、なんだ……
頭で考えようとすると眠りから醒めたくなくて脳が拒否をする。うぅん、と唸って横を向こうとした時ふわりと体が浮いた感覚がした。
何だか雲に乗ったらこんな気分だろうかなんて思っては、香る懐かしい匂いに心が安らぐ。ペタリと触れた温かい温度に擦り寄れば、背中を誰かに強く抱きしめられた様な気がした。
「寝てる時だけは甘え方も素直だよな」
くすりと降り注ぐ微笑みと、優しい誰かの声。
ああ、この声を俺は知っている。
この声は俺の大好きなーー
「直輝……」
「ッ!」
穏やかな気持ちの中、夢を見た。俺は直輝に抱きしめられていて、その腕の中は暖かい。夢だったら醒めて欲しくないと必死になってもう一度深く眠りについた。
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