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夢の時間、光るキス
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着いた舞波駅は人が多くてとにかく流れが凄い。
海の近くだからこの時期は寒いけど、全く気にならなかった。
そんな事よりも直輝に会える事の方が嬉しくてキョロキョロと見渡せばその姿はすぐに見つかった。
「モデルさんかな?」
「背高いしかっこいい……」
まあそうなるよね……
駅を出て目の前にあるベンチの横、直輝が壁に寄りかかって立っている。相も変わらず遠目から人がヒソヒソと頬赤く染めながら直輝を見ていた。
変装なのかマスクを付けていて顔はハッキリと分からない。ただ立っているだけ。
はっきり言ってあそこに飛び込んでいく勇気は無くて。人の目が凄いし直輝の隣に立つのが申し訳無くなるから。
結局悩んだ結果、アプリを開いてついた事を告げて待つ事にした。
ーーピロン
『そっち行く』
軽やかな着信の後、直ぐに返ってきたメッセージを確認して携帯を閉じる。
顔を上げれば直輝も同時に顔を上げていて、パチリと目が合った。
マスクで表情がイマイチ分からないけど、気づいてくれたかどうか不安に思っていたら真っ直ぐ直輝が歩いてくる。
「……」
直輝、またかっこよくなった……
動きがあんまりにも綺麗で、ポケーとしてしまう。
この三年間向こうで頑張ってたんだなぁ。
しみじみするほど昔よりも遥かに歩き方が様になっているんだ。
元々ある雰囲気とかオーラだけじゃなくて、しっかりと学んだんだってわかるぐらい自分の物にしているモデルウォーキングに自然と顔がにやける。
適当にやればいいなんて昔言っていた、いつかの直輝は今は居ないんだなぁ。
何気ない時に見える、俺の知らない時間の直輝が見えて心がギュッとした。
「いつ着いた?」
「ふふっ」
「……何笑ってんの?」
「ううん、直輝本当にかっこよくなったね」
「熱でもある?」
「なんでだよ!」
素直に伝えたのにおかしな顔をされた。
その上おデコ迄触られる。熱なんて無いよって手を振り払えば今度は直輝がケタケタと笑った。
ふざけないで本当に思ってるんだよって言ったらハイハイだって、本当ムカつく。お陰で俺が今更になって恥ずかしくなってくる。
伝えたかったのは見た目だけじゃなくて、きっと中身だって俺の知ってる直輝よりもうんとかっこよくなったって事だったけど、もう言ってやらない。
あんま褒めると調子乗るし。
「顔赤いね。 俺がかっこいいから緊張した?」
「違うッ! ほらまたそうやって直ぐに調子のる。 バカ」
「今朝はあーんなにぐずった癖に」
「あ、あれは……その……」
「ふふっ、まあ喧嘩もいいけど早く行こう?」
「……うん」
さらりとかわされて何だかそれも腹立つ。
昔ならもっとからかってきた癖に。俺だけが子供みたいじゃんか。
直輝一人で大人になったみたいで寂しくなるけど触れた右肩が暖かくてそんな事直ぐ気にならなくなった。
「直輝どこ行くの?」
「え?」
「え、何でそんな驚いた顔……」
「どこ行くって舞波駅来てそれ言うか?」
「え?」
「何処も何も目の前だよ。 あれ」
当たり前の様に指さす先は何度か誘っても嫌だと言われ続けてきた夢の国。
実際の名前は違うけど『夢のようなひと時を』なんてキャッチフレーズからそう呼ばれて居る人気の遊園地。
いやいやまさかそんな……え、本当に?!なんて立ち止まり直輝と遊園地を何度も見比べればふわりと笑顔を向けられて手を繋がれた。
「そ、今日は祥が好きなあの夢の国ですよ」
「へ?! 直輝は、直輝はそれでいいの?!」
「嫌だったら来てないって」
「ッ!」
「それに今日は祥の誕生日だからな。 前から行きたがってただろ?」
「でも」
「俺が一回断ってから言わなくなったけどテレビでCMが流れる度に目キラキラ輝かせて見てたじゃん」
「うっ……ごめん」
「謝るんじゃなくてありがとうの方が嬉しいんだけどな」
「あ、ありが、と……」
「ふふっ、いいえ?」
振り向きざまに笑いかけてくる直輝に胸がキュンっとする。
直輝ってこんなにキラキラしていたっけ……?今からこんなんじゃ最後まで心臓が持つか心配だ。
物心つく前から傍に居たから麻痺していたのかな。
四年の月日は俺が思っていた以上に長かったらしくて、直輝の傍に居ると心臓が痛いぐらいキュンキュンと高鳴って苦しい。それに顔も自然とニヤけてて傍から見たらきっと気持ち悪いんだろうな。
「またニヤけてる」
「っ、違うよ」
「やらしい事でも考えてるの?」
「それこそ違うよッ!」
「本当に?」
「うっさいバカ!」
クスクス笑ってバカにしてくる直輝と並んでゲートへ向かう。
並んで歩いているから時折トン、と触れ合う手の甲。さっきまで繋がれていた手は、今はもう離されていて少しだけ寂しい。
周りを見れば恋人達は手を繋いでいたりもっと近くに寄り添っていたりする。それが羨ましく感じて、ぼんやりと見ていた時ぐらりと視界が揺れた。
「何ボーっとしてんだよ」
「っへ、え、ちょ……!」
「他の男見てたらその度にキスするからね」
「〜〜ッ?!」
気付けば直輝に思い切り抱き締められていて大好きな直輝の匂いにきゅうって心が締め付けられる。
だからってそのままいる訳にも行かなくて、案の定周りは俺達を驚いた顔して見て来ていた。
「顔真っ赤な祥ちゃん可愛いねー?」
「っ、バカ! 見られてるからっ」
でも直輝がわざと大きな声で笑うから、ただじゃれているだけだと思われたのか特に変な事は言われなくてドクドクと緊張していた力が抜けていく。
それでも注目されるのは何だか居心地が悪くてバタバタもがいたり、胸を押し返したりしたけど、笑い返されるだけでビクともしない。
「も、っもう離せってば」
「祥が許してくれるなら俺はどこでもキスもするし、手だって繋ぐよ」
「えっ」
「だからそんな悲しそうな顔するなよ」
「……してないよバカ」
「そっか」
「そうだよ……」
どうして直輝は何でもお見通しなんだろう。
小さく頷くと背中に回された腕がもっと強く抱きしめてくる。
そのせいで痛いぐらい密着して、ふわりと香る香水に胸の奥がぎゅうっと締め付けられた。
羨ましいとは思ったけど、でも俺は直輝の傍に居れればいいんだよ。人前で堂々と手は繋げなくても、ひっそりと二人だけの秘密みたいに繋げたらそれでいいんだ。
直輝の心臓の音を聞きながら朝を迎えられたらそれほどの幸せは他には無い。
「よし、じゃあ行こっか祥」
「うん!」
ニッコリ直輝に笑いかけられて、俺もドキマギしながら笑い返した。少しセンチメンタルになったけど、それはもう辞めだ。
兎に角今日は思い切り楽しんでやろう!
それで直輝と一緒に沢山思い出を作るんだ。
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