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──祥?祥ちゃん、起きて、着いたよ。
ふわふわと眠りに落ちていた意識がゆっくりと浮上する。
何度も呼びかけてくる声に何だか切なくなって、宙をさ迷った両手はすぐ近くにあった暖かな何かにしがみつくといい匂いのするそこへ顔を寄せた。
暖かい。落ち着くし、幸せだ。まだ夢の続きでも見てるのかな……。けど、なんで俺こんなにも寂しく思うんだろう。
触れているのに胸の中は冷たい潮が満ちて行くようで、優しく頭を撫でてくれるその手に縋りついた。ずっと、ずっとそのままでいて欲しいと強く願うままに。でもそこでふと気づく。
ああ、そうか分かった。
この温もりがどこかにまた行っちゃう事を知ってるから俺はこんなに悲しくて寂しいんだな。嫌だ、離れたくない。このまま眠りからも醒めたくない。目を開いて外を見てしまったら全部無くなる気がして、呼びかけて来る声に嫌だと首を弱々しく振る。
もう一人は嫌だよ……。
そう不安に染まった心の声と「俺のこと、置いていかないで」なんて、か細い声で言ってはならないと後悔する言葉を口に出したのは、丁度意識が覚醒する時だった。
「……」
「祥ちゃん、おはよう?」
「……おは、よ」
「ほら早く降りよう寝ぼすけさん。 家に着いたよ」
「いえ……?」
ぼやぼやと視界が霞む。目を開くのが億劫で落ち着くそこにおでこを押し付けた。
ふわりと香る懐かしくも嗅ぎなれた匂い。柔軟剤の奥から香る直輝の匂い。背中に回る腕が何度も優しくトントンと叩いては、しっかりと抱きしめてくれていて、顔を埋めた首筋が無性に恋しくなった俺はそこへ遠慮も無しに吸い付いた。
「寝起きはいつも甘えん坊さんだね」
「ンッ、直輝」
「ほら起きないとここで襲うよ?」
「……いい、よ」
「後で怒っても謝らないからね」
「ふ、ぁ」
ゆっくり、何度も、髪に指を通して後頭部を撫でる手がググッと頭を包むように添えると直輝の方へ引き寄せる。
匂いに絆され、寝起きでハッキリしない頭の中は自分の心にとても素直だ。
直輝のキスが嬉しくて夢中で唇をくっつけて、舌を絡めあって、吸われる度に甘えた声を漏らす。そうするとうんと激しくなるディープキスに耐えられない体は直輝へと凭れかかり、腰から背中へと撫でる手つきに体をくねらせた時、聞こえてきた予想していなかった声に一気に意識は覚醒した。
「おい。 あんま外でイチャイチャすんじゃねぇよ近所迷惑だろうが」
眉間に皺を寄せて、キラキラした金髪を夕焼けに染めたその人は、俺も直輝も良く知っている昔馴染の友人、聖夜。それと、その後ろで真っ赤な顔してアタフタしている聖夜の恋人である綺月さんが「こんばんわ」とたどたどしく微笑んでいた。
「へ、はっ?! は、離れて直輝ッ!」
「いてっ」
ガッシリ頭を掴んで離さない直輝の鳩尾を思わず殴りつける。
「祥、何だか前より容赦無くなったな……」
「な、直輝が外でキスなんかするから……!」
「外じゃないし車の中だし誘って来たのはそっちだろ? 俺はただ応えただーけ」
「〜〜ッ、あ、う、うるさいッ」
「ッ、痛いって」
「ささ、先に降りる!」
「はぁ、はいはい」
慣れてますよと言わんばかりの溜息に気まずくて目をそらした。
振り返って待つ聖夜達の元へ向かえば、相変わらずだねの言葉を掛けられて返す言葉も見つからない。
テーマパークのホテルを出た後お土産を買った俺達は、近くの海に寄ってドライブしてそこの道中にあるカフェで遅めのお昼ご飯を食べた。
丁度高速に乗って帰る実感が湧いてきた時、弟の陽からハル君と出かけるから猫のしいちゃんの面倒宜しくねと連絡が来て真っ直ぐ家に帰ってきた訳だけど途中で爆睡したみたいで、おまけに何故か俺の家の前に居る二人に見苦しいものを見せてしまった。
「せ、聖夜と綺月さんこんばんは……、え、えへへ」
「おう。 二人とも元気そうで良かった」
「こんばんは祥君」
にっこり、微笑む二人の笑顔に目を奪われる。
だって、凄く似ていたから。
二人ともとてもカッコイイし、綺麗だしで見惚れるけど、顔の造りは全然似ても似つかないのに。雰囲気が、笑い方が、口調がそっくりで何故かとても感慨深いと思った。
「お前ら何ボケっとしてんだよ。 寒いから早く中入れば?」
そんな3人で何を話すでもなく花を舞わせ微笑みあっていた時、少し不機嫌そうな声で直輝が帰ってくる。近くのコインパーキングに車を止めたのか、寒いと愚痴を零すと俺の家なのにまるで我が家の様に慣れた手つきで鍵を開け中に入って行った。
俺達も慌ててその後ろに着いて行ったけどふと気づく違和感。
──ん?なんで直輝が俺の家の鍵を持ってるんだ?!
その事に気づくと同時、まるで心を読んだかのように振り返り笑う直輝と目が合う。
チャラっと見せられたキーケースの中には確かに俺の家の合鍵があって、付き合って麻痺していたけど本当にコイツ少しのスキも無くちゃっかりしていると溜息をついた。
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