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「聖夜の所、行っちゃうから……」
「どーぞ?」
「……う」
「……」
「手、」
「なに」
「手、離してよ……」
「……祥が離せばいいじゃん」
「お、俺が離す前に直輝が離せばいいだろ!」
「は? やだ」
「……」
口ではお互い言い合っても、繋がれた両手は少しも離れる事はなくて。さ迷わせていた視線を直輝へと戻すと、一層握られた手に力がこめられた。
ああ、もう勇気出して謝ろう……!
そもそも俺がキツく当たってたのが悪いんだから。いつも直輝に任せっきりなんて良くない。
「な──」
「祥ちゃん」
「……え? なに?」
そう、意気込んだとき声に被せて直輝に名前を呼ばれた。それと同時に俺の肩へとおでこを乗せて擦り寄ってくるから、思わず心臓が高鳴る。
「やっぱ嘘。 聖夜の所行かないで」
「へッ、……うん」
「ごめんね意地悪して」
「俺、も。 意地張ってごめん」
落ち込んだ声で、やけにしゅんとしているから、いつもよりも直輝が小さく感じる。握られていた手がスルリと解かれて背中に回ると強く抱き締められた。
「後、もう一つ謝らなきゃいけない事ある」
「謝る……? 何か、あったの?」
「ニューヨークもう一年伸びることになった」
「──え?」
「仕事で出れなかった授業の単位が何しても足りなかったらしい。 だから、日本に戻って来るのあと一年伸びる。 ごめん」
「……」
耳元から聞こえてくる声が途中から霧がかってるようだった。
大丈夫だよって早く言ってあげなきゃいけないのに上手く口が動かない。
笑って、仕事大変だったんだねって心配させないように普通のふりしなきゃならないのに胸が痛い。
俺が酷い態度取ったからバチが当たったのかもしれないとか、そんなくだらないけど心に痼を生む考えが一瞬で頭に幾つも浮かび上がっては、消えていった。
「……祥?」
「……」
「え、」
俺がずっと答えなかったから、直輝が肩から顔を上げて覗き込んでくる。
でも俺はその視線に映るのが嫌で必死に顔を下に向けたけど意味なんてなかった。直輝の両手に優しく頬を包まれたら、見せたくないのにその手に縋りたくなって仕方なかった。
こんな顔見せたくないのに。
行かないで欲しくて、苦しくて、堪らない。
「祥──」
「う、ッ、なんで……っ」
「……しょう」
「再来月には、帰って来れる、んじゃなかったのッ」
「……」
「また、っう、一年も、向こう行くの……?」
ほら見ろ直輝が困ってる。
辛いのも苦しいのも、俺じゃなくて直輝なのに。1人で知らない土地で言葉が通じない国で、環境もルールも何もかもが生まれ育った場所と違う所で仕事迄して頑張ってるのに。
それなのに直輝の事責めるだなんてできるわけが無い。
でも、ずっと再来月には卒業して戻ってくるって浮かれていたから。心のどこかで直輝なら戻ってくるなんて押し付けて期待してたから、ショックがでかかった。
「ごめん祥泣くな」
「嫌だ、やだ。 俺も行く。 俺もニューヨーク行く」
「え?」
「直輝が卒業するまで、俺もニューヨーク行きたいッ、直輝と離れるのやだッ」
「……そんなに?」
「う、んっ。 グスッ、置いてかないでッ」
「俺と離れるのやだ?」
「う、うぅっ、離れるって言わないでぇ〜ッ」
直輝の口から離れるって聞くと一層強く感じる。本当に離れ離れになりそうで、それが怖くて堪らない。
直輝の胸に飛びついていやいやと首を振った。こんなことしても行くことを止められる訳なんてないけど。
それでも離れて欲しくない。
「直輝ッ、俺もニューヨークの大学行く……」
「……ばか。 何言ってんだよ」
「だ、って……貯金あるもん。 亨さんに迷惑かけない。 勉強も、沢山するッ」
「……勉強したら俺の専属になる夢はどうすんの?」
「そ、れも頑張るッ……! 諦めないからぁ」
「……はぁ、ふふ、もう本当に可愛いね。 だから意地悪したくなるんだよ」
「ッ、ふ、ぅ、んん……ッ!」
涙を拭ってくれた手が唇を撫でる。自分の涙が少しだけ口の中へ入ってしょっぱい。
だけど直ぐに直輝の唇が重なって、キスをされて直ぐにそれも分からなくなる程舌が絡められる。でもキスをしながら、これは何の理由でしたキスなのか分からなくて、俺を泣き止ませる為のものなのかなって思ったらもっと悲しくて、涙が溢れた。
「ンンッ、ふぁ……なおっ、なお」
「……ごめん、祥」
「や、だぁ」
「うん。 ごめん、聞いて」
「やっ、聞きたくない……」
「困ったなぁ。 いい話なんだけどな」
「……嘘つき……絶対怖い話でしょッ」
「いや、本当に」
「……っ」
「祥、俺と離れるのやなんだよね?」
「っ、うぅ」
「泣くなってば」
「だっ、だってぇ」
「あのさ実は」
いい話なんて嘘だ。
じゃあどうしてそんなに困った顔して、険しい表情をしてるんだよ。
聞きたくないから、あやす様に背中を叩いて抱き寄せる直輝の腕から逃げ出そうとした時、信じられない言葉が聞こえてきた。
「──今の全部嘘」
「……へ?」
「フッ、だから、今の全部嘘。 それよりもっといい話が本当」
「ど、どういう意味? 何が嘘なのっ?」
「もう一年伸びたってのが嘘。 それと、メールが来てたんだけどもうあっちには戻らなくていいって、このままここに居ていいんだって」
「ッ、え?!」
「もう卒業は確定だから、態々あっちに戻らなくても構わないって教授から連絡が入ってた」
へ、嘘でしょ……?!
じゃあもうずっと直輝はこっちに居るの?俺の隣に居てくれるの?!
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