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懐かしき想い人
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「怒ってないけど」
「嘘だ!」
3月頭の、まだ寒い夜のこと。沢山の人が行き交う駅の中で俺と直輝は口喧嘩をしていた。
でも今回のはいつもとは違う本格的な喧嘩で、俺も直輝もお互いに悪くないって思ってるからツンケンしたまま二人の距離はいつもよりうんと離れていた。
「てか何で俺が怒るわけ?」
「もうその口調が怒ってるし」
「へぇー」
「話も聞く気無いじゃん」
「別にそんなこと無いけど」
「~〜ッ!」
全くこっちを見ない直輝に腹が立つ。俺はこんなでも仲直りしようとしてるのに一方直輝は明後日の方向ばかり見ていて話を聞く気なんて無い。
それでも俺達が向かう場所は同じ場所で、喧嘩しても別々に行こうとはならないからそれが良いのか悪いのか。
腹立つのに隣に居るからもっと腹立つ訳で、じゃあ別々に行けよって話だけどそうなると嫌だ。直輝はどうか知らないけど俺は嫌で……。
でも結局電車が来て乗る時に、凄い人の波に流されたお陰で目的地には別々にたどり着いてしまって。
着くまでに仲直りする目標は呆気なく打ち砕かれた。
「お疲れ様ー祥、こっちおいで」
「瑞生さん達もお疲れ様です」
送別会が開かれるお洒落な居酒屋に着いた頃には直輝はすっかり女の子に囲まれてるし、俺は俺で、待って居てくれていた瑞生さん達に迎えられた。
今日は俺の送別会だった。
やっとアシスタントから、ハサミを持てるようにもなって二年と少し。美容師としても形になってきたから本格的にヘアメイクの方へ行くためにも、今みたく週替わりのシフトじゃなくて本腰を入れて怜さんの事務所に入る事を決意した。
高校の頃から雑用を続けて、卒業と同時に俺を受け入れてくれていた場所は第二の家みたいに親しんでいたから悲しかったけど、皆凄く応援してくれていたし、何より俺も直輝と約束した夢を叶えたい。
だから三月の二週目迄入っていたシフトも昨日で無事に終わった事で、日曜日の夜である今日は送別会が開かれることになっていた。
でもなんでそこに直輝も居るのかって、それは昨日仕事終わりに直輝が俺を迎えに来てくた時に、俺がお世話になったからって菓子折を持ってきてくれた事がきっかけ。
オーナーと話が弾んだ直輝は案の定気に入られて、今日の送別会に招待された訳だけど、喧嘩の理由はそれじゃない。
寧ろ、ずっと俺を可愛がってくれていたオーナー達には結構素直に挨拶をしたいと言ってくれていたし、瑞生さんの事も何だかんだと言って気になっていたらしい。
だから今日のことは昨日の夜から楽しみだねって直輝と話していたんだけど、こうなった問題はほんの数時間前の事だった。
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