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酔っ払いと意地っ張り
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***
「「可愛い〜!!」」
大乱闘の後、直くんにお姫様抱っこされ戻ってきた祥は膨れっ面で膝の間に座っていた。
しっかりと直くんの手を持って自身のお腹の前で組み合わせながら1ミリも、1秒も離れたくないんだなぁって祥を見ると伝わってくる。
「祥先輩は、直輝さんが好きなんですかっ!?」
「……うん……好き」
「どのくらい?」
「い〜っぱい」
「あ"ー可愛い〜〜〜!」
直くんの手の甲に手を重ね握ると、そのまま直くんも巻き込んで両手で大きな円を描く。
それから祥は真っ赤な顔を綻ばせ後ろを向くと、背後から祥を抱き締めている直くんに「ねぇー? 沢山好きらよねぇー?」なんてニッコニコ笑顔で言うもんだから、あの直くんも少し恥ずかしそうに「分かったから黙れ」なんて言っていた。
でもさ〜、黙れとか言っちゃっても、本当は内心ウキウキなのバレてるよ直くん。酔ってない癖にいつもはあんな冷たい目元がデレッデレだからね。
「俺は? 祥〜、先輩の俺は?」
「……」
「俺も好き?!」
「……好きらない……なおが好きぃ」
「え、え、酷くない?! 凄い冷たい!」
「あっはは振られてやんのー」
「もう祥がこんなに甘えたとか私の弟にしたいんだけど、いくらで買える?」
「お前さ、直ぐに何でも金で買おうとするの辞めろよ」
「うるさい、世の中金じゃ、金があれば祥だって弟に出来る」
「いや出来ねぇよ。 貪欲な女は嫌われるぞ」
「あぁ? なんだってこのチャラ男が」
平和だなぁ……
祥と直くんを囲む皆は最早酔っ払いの祥をチヤホヤしては弄んでる。直くんも苦笑いしながらも上手く皆と馴染んでいるし、流石と言えば流石だ。人を操るのは十八番なのだろう。あんな熱烈なキスをした後だって言うのに堂々としている。
何より二人がくっついている事に誰も疑問なんか抱いていないんだから凄いよね。
美人な祥とかっこいい直くん、寧ろ絵になっているんだから文句無しだろ。おまけに四歳からの仲だと聞くと自然と受け入れてしまうのは何故なのか。不思議なものだ。
「なお〜、アーンしてぇ?」
「はいはい、分かったから」
……あ〜なんか、なんかなぁ。
二人見てると俺まで会いたくなるんだけど。
耀さんの事困らせてやりたいな。
最近やられっぱなしだから、俺も耀さんを虐めたい。帰ったら祥の真似して酔った振りしながら好き好きって擦り寄ってみようかなぁ……?
いや駄目だ。最近あの人、俺が演技してるかどうか簡単に見抜くから逆にやられて結局俺が痛い目みる。
まあ嫌いじゃないけど、俺に必死な耀さんも可愛いし。昨日も可愛かったな……
って、いやいや何を考えてるんだろ俺。
一瞬、思い切り脱線してしまった考えをすぐさま振り払うとハイボールを胃に流し込んだ。もしかしたら俺も本当に酔ってるのかも知れない。
「それにしても祥がキス魔だったって知らなかったな〜」
「アハハっ、確かにお酒飲むの心配になるよね」
「私の友達にも祥より凄い子居るよ! その子は本当見境ないから私も女の子なのにキスしちゃったぁ〜、えへへ〜、それもさぁすっごく上手くて、それでね──」
俺の隣で飲む同僚が驚きながらも納得と頷く。やがて周りにいる酒癖の悪い友人達の話に華が開き、そんな反応に内心ホッとした。
本当に、水を持って戻った時には心臓が止まるかと思った。
そりゃあそうだろ。
同じ同性と付き合う身、何がまずいかだなんて分かるとかの以前に宴会広間の壁際で二人が熱烈なキスをしていれば誰だって驚くと思う。
蕩けた顔して直くんにしがみつく祥は離れないようにしがみついているし、直くんも完璧獣のそれとそっくり。
呆然とその光景を見つめていた先輩達に「ああ、あれ、祥の癖何ですよね。 そのうち皆にも絡むと思うから、距離置いておいた方がいいかも」って何気ないふりして苦しい言い訳をしたのは、思う以上にいい方へ転んでくれたそうで。
皆は「そういう事かよ〜!」なんて納得してくれるんだから、ここの人達は本当にいい人の集まりだ。と言うよりは酒の力もあるから酒癖ってのは好都合な言い訳だった。
それに人を見る目は長けて居ると思うけどオーナーがしっかりとしているから、ここで働く人に悪い人は居ないと思う。
それだけ素直で真っ直ぐな人が多い。俺が居るのが不思議なほど。
裏で悪口聞いたこと無い。喧嘩はするけれど、ただそれだけ、それ以上のいざこざは無いから凄く恵まれた環境だと思う。
そぐわない人は辞めていくし、残る人は皆いい人達ばかりだった。
「瑞生さんは、祥さんがキス魔なの知ってたんですよね?」
「ん、うん」
「じゃあもしかして……瑞生さんも祥さんと……?」
「……」
「どうなんですか?」
「さあ、どうだろう?」
「ああ! ずるいずるい! 教えて下さいよ〜」
「だーめ、内緒」
腕を掴んで揺らしてくる後輩に笑いかける。触れてくるその手をやんわり外した時、
「私、男同士の恋愛好きなんですよね……瑞生さんと祥さんが、キス、興奮する」
なんて言葉が聞こえて来たのは無かった事にしておこう。ついでに少し鼻息が荒かったのも、勘違いだと思っておこう。
「天使さんは祥先輩の幼馴染みなんですか?」
「そうです」
「じゃあ昔からこんなに?」
「あはは、どうだったかなぁ」
「いいなー私もモデルで優しくてかっこいい幼馴染みが欲しいですよ〜」
羨ましがる声。そっちに再び視線を戻すと一人が直くんに絡んでいた。
でもそれを見ていた祥がすぐさま、直くんの首に腕を巻き付けて「ダメ」ってするから皆にやぁ〜て顔緩めては「うんうん、祥の直輝さんだもんね?」なんて言っていた。
もう皆のペットなのかな祥は。何だか犬に見えてきた。
「俺達はすっかり玉砕だな」
「天使には王子様が居たと」
「なあ、オーナーが隅っこで祥に振られて泣いてるんだけど。 僕も慰めるの疲れたよー」
「いいよめんどくせぇから放っとけ」
ワハハ、と上がる笑い声。シクシク泣いてるオーナーはもっと涙を流していた。
そんな中、チラリとオーナーを見た祥が蜂蜜が蕩けた様な顔で口を開く。
「れも、オーナーも好きれすよ……皆も好きれす……離れるの、寂しい……」
ポツリ、ポツリ聞こえた言葉。
眠そうな瞼をゆっくり瞬きさせて、コックリ落ちていく首を必死に上げながら呟いた言葉。
そんな祥の言葉に自然と緩む口許。
きっと理由はこれだろう。受け入れてしまう理由はこの笑顔だろう。
「……俺達も寂しいよ、お前が辞めちゃうの」
「あたしも。 でも、辞めても遊びに行こうね。 スケボーだってBBQだって誘うからね」
「この店で頑張れたんだからどこ行っても頑張れるよ。 大丈夫だからな」
さっきまでのからかう口調とは打って変わった優しい声。
周りに居た皆が、祥に向かって笑っていた。入ったばかりの新人は抜いて、今迄祥と長く関わって来た先輩や同僚は祥を良く知っているから。
人一倍頑張り屋でよく働いてくれたのも、いつでも気遣いを忘れないで先回りしていてくれたのも、落ち込んだ時に誰よりも早くその変化に気づいて励ましてくれていたのも、だから皆祥を天使だなんて呼ぶ。
からかわれているって祥は思ってるけど、そうじゃないよ。
皆、祥に救われたからそう呼ぶんだ。
だから、祥を皆可愛がる。それはきっと祥の強い美点だって思う。
まあ、約一名不満そうな顔をしている人は居るけど。
「直くんも、大変だねぇ」
パチリと視線があった直くんにヒラヒラ手を振る。嫌そうな目をされてスッ、と逸らされたけど気にしない。
寧ろそういう所可愛い。
全部自分のモノにしたいのに、そうはならない祥に悶々してる直くんは人間らしくて可愛い。
本当は祥の事気になって仕方なかった癖にね。ずっとチラチラ祥のこと見て、隣にいる俺に妬いてた視線向けてたの知ってたよ。
でも意地っ張りの直くんに優しくする義理も無いから譲ってなんかやらなかったけど、結局はこうだ。
二人ともラブラブだし、周り巻き込んで幸せになってるし。
そんな二人見て、俺も笑ってるわけだし。
やっぱりあの日直くんの元へ祥を行かせて良かったと思った。
祥から別れたと聞いたあの日、信じられずどうしてと零れた言葉もあったけど。それでもまたこうして二人が居る姿を見ると運命なんて言葉を信じてしまいたくなる。
もしかしたら、あるのかもね、なんて事を考えてしまう。
好きを飲み込んで、押した背中。
行かないで欲しいと求めて、手放したチャンス。
でもそれで良かった。
祥には直くんが、俺には耀さんが。
もしもあの日意固地になって祥を無理矢理に俺の物にしていたら未来が変わっていたのかと考えるとゾッとした。
耀さんに会えなかったと思うと、死ぬほど怖くなった。会えなかったらきっと、俺は今もフラフラしてポッカリ空いたままだったんだろうな。
「……ふっ、俺も相当酔ってるや」
脳裏に浮かぶ彼に会ったら真っ先にキスしてやろう。
きっと「どうしたんだぁ? 寂しくなったか子猫ちゃん」とか腹立つ事をギラギラした瞳を向けて言ってくるだろうから。
そしたら言ってやろう──好きだ、って。
世界で一番耀さんが好きだ、って。
そしたら少しは驚くかな。
「珍しいな」って言いながら笑ってくれたらいいな。
そんな事、考えながら飲んだお酒は少し物足りなくて、だけど心は炭酸のようにパチパチ弾けている。
耀さんとの出会いも、確かお酒の味だったな。そんな懐かしい昔を思い返して、自然と緩む口元は、いつも触れるあの熱を求めてざわついていた。
《 おまけ・END》
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