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傷だらけのラブソング
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* 番外編
──「なあ、お前さ人の愛し方間違えてるよ」
良く知りもしない貴方が僕に初めてかけた言葉はそんな突拍子もない台詞だった。
ザァザァと世界を叩きつけるような雨が降り乱れる外。ぼんやりと退屈な時間に軽い雨粒が弾けるような音を立て、僕の世界に貴方はやって来た。
今と変わらない屈託ない笑みを浮かべて。
《 ─ 傷だらけのラブソング ─ 》
急に何を言うんだ、この人は。さぞかし頭でも悪いのだろう。
僕よりも背が高く見上げた先にあった顔は自信に満ちている。きっと栄養のすべてが身長へと傾いたに違いない。ああ面倒な物に絡まれた。今日は厄日かもしれない。この雨の音さえ僕の神経を逆撫でして適わないと言うのに。
初めに思った印象はお互いにマイナスだったのだろう。貴方も、僕も、瞳は今よりもっと仄暗く深い沼に沈んでいる様だった。
「不躾な方ですね」
「お前に礼儀とか必要かよ」
「どうしてですか?」
「だってお前」
──「人を泣かせて悦ぶクズじゃん」
そう吐き捨てた貴方は酷く冷たい声で、僕を見、それから悲痛な顔を浮かべた。
「クズ……ですか。 じゃあ、貴方はさぞかし素敵な人なんでしょうね。 僕と違って"正しい"愛し方を知っているんですね」
「まあな、お前よりはうんっとマシだと思うぜ」
「……馬鹿らしい」
愛し方に"正しさ"があるのなら、授業で教えて欲しかった。
"正しく"歌えず、"間違い"ばかりを口ずさむ僕に。愛し方を教えて欲しかった。今、こうして視線の先に映る遥か遠い貴方を"上手"に愛してみたかった。
「俺が教えてやろうか」
「……何を?」
「お前が本当は、何求めてるのか、俺が教えてやる」
「過剰なまでに自信家ですね。 周りの人に不快な思いさせますよ」
「うるせぇな」
僕の言葉にカッ、と眉間に皺を寄せた彼は先程までの余裕はどこへ消えたのか子供のように威嚇する。そんな彼をよそに、僕の意識はずっとずっと遠くへ飛んでいた。
『俺が教えてやる』、か。懐かしい台詞だな。僕に、その言葉をかけたのはずっと昔、今では真っ赤に燃え上がるような髪色さえもまだ黒く、幼さを残す笑みを浮かべた乱暴な幼馴染みが僕へと告げた言葉。
『俺がお前を──やる』
そんな今では錆びた言葉に僕は縋って、それから。それから、どうした。
そうだ、壊した。ボロボロにして、布雑巾のように汚し、最後には捨てた。
「行くな」、「待ってくれ」、「俺が──から」そう僕へと伸ばされた手を払って、僕は彼を捨てた。
「要りません」
「あ?」
「二度も言わせないで下さい。 要らない、と言ったんですよ。 その頭の中には綿でも詰まってるんですか?」
「なっ?!」
持っていたシャンパングラスを握り締めて、ドタドタ怒る姿はまるで幼稚園児。
この人確か25だとか、結構な歳だった筈だけど中身は僕よりも子供みたいだ。
「まあいい! 兎に角お前、祥君から離れろ」
「貴方に指図される覚えは無いです」
「うるせぇ! いいから離れろ」
「……」
どうして貴方にそんな事を?
それ以前に良く気がついたな。もしや彼も祥さんを好きなのだろうか。そんな雰囲気は微塵も感じなかったけれど。
「……アイツが悲しむからな。 だから辞めろ」
「アイツ……?」
ポツリ、零れた言葉。誰に放ったでもなくただ零れた言葉。
まるでそれは窓に伝う雨の雫の様だった。
つぅ、と伝い落ちる水。ぽちゃりと、醜く。綺麗に弾け水の華を咲かすことも無い、無様なただ縁へと染み込む事しかない、そんな、音。
ああ、この人は天使さんに惚れているんだ。
僕の前に立つ彼──西隆寺 爽を見つめながら僕は静かに笑みを浮かべた。
「偽善ですね」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に何も」
僕の中での西隆寺爽は、弱く、汚い、ただの偽善者だった。
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