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傷だらけのラブソング
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そう遠くもない実家から自分の家へと戻ると、そこには見慣れない人と、良く見る二人が居た。
「おい! ちんちくりん遅刻だぞ糞!」
「爽さんまたそんなこと言ってる……。結葵君、おはよう! こんなこと言ってるけど、爽さんさっきまで結葵君に連絡付かないから何かあったんじゃないかって凄く騒いでたんだよ」
「ちょ、祥君そんな事俺は……ッ! そんな事よりさっさと飲もうぜ、つまみもあるしな」
リビングに居たのは今朝良く眠っている顔を見て置いてきたばかりの爽さんと、相変わらず周りまで笑顔にする程の優しいオーラの祥さん。
何やらお菓子やつまみを持参して、L字型のソファの端に座り机を挟んで会議をしている様だ。どうして僕の家に居るのかと尋ねることは愚問に思えて、いつの間にか合鍵を作ったんだろう爽さんから奪い返す手間が一つ増えた事に小さく溜息を吐く。
今朝、置いてきた鍵と共に僕の手紙を読んだはずだ。それでもここにいると言う事は、僕の考えは受け付けないという事なんだろう。
「……ミジンコと祥さんが居るのは分かるんですが、何故彼まで?」
「んー? だってお前の幼馴染みなんだろ、アイツ! つーか誰がミジンコだ!」
「貴方以外に誰がいますか……幼馴染み。僕達ってまだ幼馴染みだったんですか、ねぇ、龍ちゃん?」
爽さんとの変わらない掛け合いも早々に切り上げるとさっきから存在が気になって仕方がない彼に声をかけた。
キッチンに独りで立っている彼を見遣り、その違いに違和感を抱く。襟足が長く、トップから段差を付けて外ハネにセットされている真っ赤な髪。片側だけツーブロックなのか耳にかけているそこは茶色い。前髪を流し、見えている右側の眉には二つのシルバーピアス。両耳にはいくつものピアス。
僕の知る、乱暴でどうしようもない暴れん坊だったけれども優しく野球に一途だった彼の面影はそこに無い。唯一変わらないのは、射抜く様にこっちを見据える鋭い光を宿した瞳だけだ。
「……下の名前で呼ぶな」
「ふっ、どうして。龍ちゃん?」
「虫唾が走るからだ。テメェに親しく愛称で呼ばれる程、オレ達は仲良くねぇだろ」
「そう……寂しいね。また昔みたいに僕のこと、ゆったんって呼べばい──」
──呼べばいいのに、僕のあとを追いかけながら。そう続ける筈の言葉は、龍騎が壁を殴りつけた事によって遮られた。
おちょくった僕が悪いけれど、のこのことここへやって来るお前も悪いよ龍ちゃん。僕が攻撃しない訳がないと分かっているし、オマエが僕を許していない事も分かっているのにどうして来たんだ。
よりによって苛立っている今日に限って。
「……うるせーよ。変わんねえなァ、テメェはよ」
「そうかな? 僕としては随分変わったと思うけど、背も高くなったしね。まあ龍ちゃんには勝てないかなぁ」
「変わってねーんだよ。胡散臭ぇそのツラも。なぁ、そうだろ? 今でもテメェはクズのままだ、違うか?」
一歩一歩、距離を縮めてやって来る龍騎の後から急に雰囲気の変わった僕達を不安気な表情で見る二人と目が合う。
やるなら、とことんやればいい。特に今日は僕も鬱憤が溜まっているから殴りあいの喧嘩も悪くないと思ったけれど、爽さんがあんまりにも間抜けな顔をするものだからぐつぐつと湧き上がる感情が引っ込んでいった。
「龍騎、場所移そうか」
「……いいぜ。テメェと話す為に来たからな」
大きな拳が肩を押してくる。強い力に一歩後ずさり、彼を見上げた。それは敵意を表した行為で、今すぐにでも殴られてもおかしくない程に龍騎が苛立っている証拠だった。
「爽さん達帰ってきて早々に悪いんですが、少し出てきます」
「独りでか?! 俺も……」
「……爽さん、僕達の事に軽い気持ちで踏み込まないでください。不愉快ですよ」
「ッ、ぁ……悪い……」
ピンッとさっきまで立っていた耳がしゅんと項垂れている様な幻覚まで見えてしまう。
その姿が不覚にも可愛くて、鍵を取りに戻った間際アッシュブラウンの髪を撫でてやると目を大きく見開いて、頬が微かに赤く染まった。
「大人しく待っていて下さいね。帰ってきたら遊んであげます」
「……っ、うるせぇ!俺の方が歳上なんだから俺が遊んでやるんだ! ったく、さっさと行けばいいだろ! お前なんか居なくても別に俺は寂しくなんかねーんだからな。 でも早く帰ってこねーとお前の好きなブラウニー食っちまうからな……」
「いや、……冷静にそれ、僕の好きな物じゃなくて爽さんの好物でしょう?」
「……うう、うるせぇな!」
僕がいつからブラウニー好きになったのか教えて欲しかったが今はそれよりも龍騎だ。
項垂れていた耳がまた復活して、無いはずの尻尾が縦横無尽に振られて居るのを確認すると、先に部屋を出て行った龍騎の背中を追いかけた。
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