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傷だらけのラブソング
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『図星で何も言えねぇのか?』
『ふっ……壊すのってさ、楽しいよね。僕の手で人がバラバラになるのって最高に楽しくない?』
『てめぇ……本気で言ってんのか』
本気な訳、無いだろう。
こんな非人道的な行いが楽しい理由が無いだろう。抑えたくとも抑えられない激情を抑え込めない怖さが龍騎に理解出来るわけない。
『……本気だよ。僕がどんな事でもするの知ってるだろ』
『ハッ、救えねぇ屑だな』
『だからどうしたの? 屑だったら今すぐ殺せる? あの日、僕がお願いしたこと今なら出来る? だから僕のところにやって来たなら』
──あの日、殺してくれなかったんだ。今すぐお願い叶えてよ。
ずっと飼い続けてきた本心を解き放ってみれば、鼓膜に響くそれは酷く冷たかった。
驚くでもなく、嫌悪を映すわけでもなく、真っ直ぐ見下ろすだけの龍騎の手を取る。大きくて、骨ばっていて、昔は良くこの手が傷だらけになる度に僕が怪我を治して上げていたのに。誰かを守る優しい手が好きだったのに。
龍騎……どうして今になって現れたんだ。なんでまた僕の前に居るんだ。
これじゃあどう償えばいい。
あの日、僕の傍にずっと居てやると笑ってくれたお前を階段から突き落として捨てた僕はどうしたらいい。大好きだった野球を奪った僕をさぞかし憎んでるだろ。顔も見たくない程嫌いだろう。だったら、なら、もう僕のことを龍騎がせめて──
『殺さねぇよ』
『ッ!』
『俺は、殺さねぇ。お前の頼みでも、お前を嫌いでも、死ぬ事は許さねーよ』
龍騎の言葉がまた首を締める。
生きていてもつまらないと、そんな本心は誰にも零せない。一体誰がこんな頭のおかしい奴の戯言を受け止めてくれる。唯一の龍騎さえ、受け入れない本心だって言うのに。
『逃げんな。辛いからって逃げんな』
『……』
辛い?違う、辛いんじゃない。
『自分が変わらねぇ癖に、周りに変化を求めんな。あの人が思うように手に入らないからって自分と同じように壊そうとするんじゃねーよ』
言われずとも、そうするつもりだ。あの人は、祥さんは、嘘偽りなく優しさを知っている。
優しいだけが優しさではない事を、時には人を優しさが傷つけることも。人を傷つける「優しさ」は、「優しさ」ではない事を祥さんは知っていて今も僕を突き放さない。
待つつもりなんだ、僕が変われるのを信じて。それだけ強い人なんだ。人がまた変われる事を信じる事の出来る強い人なんだ。
そんな人の傍に居る事の方が苦しいから、辞める。祥さんを思って辞めるんじゃない。自分の為に、自分の首を締め付ける感情が苦しいから。何処までも自分の事しか考えられない僕を、変われると信じてるあの人から……。
『逃げんな』
『──っ』
『その気持ちから、逃げんなよ。あの日みてぇに二度と中途半端に投げ出すな。引っ掻き回すだけ回して、捨てて終わりだなんて人の縁はそう簡単なもんじゃねーってこと覚えとけ』
──必ずまた出会う。逃げていても必ず向き合う日が来る。どれだけ恐れていても必ず乗り越えなきゃならない日が来る。
その時、お前の傍には一体誰が居てくれる?誰が間違いばかり起こすお前を叱ってくれる。そういう人間から逃げようとするな。いつまでもあの日の時間を繰り返すな。今は過去じゃない、未来は過去と同じようにはならない。
お前は、お前の時間を生きろ。それが何よりの償いだろ。
それがあの人が望んだ事だろう。──
そう僕に言ったのは丁度一年前のこの時期だったかな。やっぱり僕には人から逃げないって難しすぎたよ龍騎。
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