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傷だらけのラブソング
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「着いたぞ。ほら降りろ」
あれから直ぐタクシーに乗せられて、ぼんやりと考え事をしている間に着いた先は見知った土地だった。
「どこ向かうんですか」
「あー秘密だ。祥君もお前には言うなって言ってたしな」
「……変なところ連れていく気なら勘弁してください。今日は疲れてるんで」
「うっせーな! 黙って着いて来いっての」
がっしりと手首を掴んでズンズン前に進んで行く爽さんに半ば引きずられながら歩くとチラホラとマンションがあって一応住宅街なんだと気づく。すぐ近くには大きな公園もあるみたいで、ちょっと向こうの先は華やかな場所だと言うのにここはとても静かで整備されていた。
この様子だと誰かの家に向かっているんだろうと予想した時、爽さんの歩みが止まる。
「うし、ついたぞー」
「……ここは?」
「今日の主役の家だ」
今日の主役って、誰かの誕生日なんだろうか。
あんまりにも唐突で、おまけにまともに説明もしてくれない爽さんは慣れた手つきで豪華な造りになっているエントランスを抜けると足早にエレベーターに乗り込んだ。
それにしてもここに住んでいる人は相当な金持ちみたいだ。周りは緑に囲まれていて、そんな中見上げるほどに空高々とあるタワーマンション。中には3人ものコンシェルジュの人達がいた。
普通の人なら住めるような場所じゃない。セキュリティもしっかりしているのを見て弁護士や投資家、有名人が住むような地位のある人なんだろう。
爽さんの家系は大御所の俳優一家だし、その関係の人達だろうか?
いや、そうだとしたら祥さんが居るのはおかしいし。僕達三人に関わりがある中で一番濃厚なのは怜さんかもしれない。あの人、常に遊んでいる様に見えても世界中飛び回ってハリウッド界では一目置かれているほどだから。
怜さんの為に開いた何かしらのイベントなら納得だ。それにこの唐突な展開も納得だ。
「ここだ。もう大抵のことは祥君がやってくれてるから俺達はただ飯を食うだけだな! ラッキーだな」
「それじゃあ来た意味無いじゃないですか」
「お前のせいだろ! 何時間も帰ってこねーし、挙句のろのろ歩くから」
「……すみません」
こう言われてしまえば返す言葉がない。
誰かの祝い事なら差し入れの一つや二つ持ってくれば良かった。途中、遅くまでやっている花屋があったからあそこで一つ豪勢な花束でも見繕って貰おうかな。怜さんなら花も嗜みそうだし。
なんて他所にばかり意識が向いている間にも爽さんは相変わらず僕の手をとったまま角部屋に位置される部屋の扉を開けて我がもの顔で上がって行く。
家主の人はまだ帰ってきて居ないのかな。部屋の中は静かで、黙々と何か作業をしているかのような音だけが広くて、長い廊下の先にあるガラス張りの洒落た扉の向こうから聞こえていた。
「祥君、お待たせ。こいつ見つけんの手間取ってさ」
「あ、いらっしゃい! でも無事に見つかって良かったですね爽さん」
「い、いや別に……こいつも子供じゃねーんだし? どうにでもなるとは思ったけどまあ……な、俺が居なきゃほんっと何も出来ねぇんだよなぁ〜困ったやつだ」
わけのわからない戯言を並べて鼻を高くしているこの阿呆な人は無視してキッチンからエプロンをつけて顔を覗かせた祥さんに挨拶をする。
ドアを開けてすぐにいい匂いが鼻腔をくすぐったからか、感じていなかった空腹感が急に襲ってきた。
エントランスからもそうだったけど、部屋が凄く洗練された造りで見回してしまう。2LDKだろう部屋は広くて壁は鉄筋コンクリートの造りだ。黒を基調に家具は選ばれているから壁によく似合っていて物凄く洒落ている。怜さんの事だから散らかっていると思ったけれど部屋はとても整理整頓されていた。
「怜さんにしては綺麗ですね、部屋」
「怜さん?」
「え、怜さんの家じゃ無いんですかここ」
「あっ、違う違う! ここは直輝の家でね、今は──……あっ」
ん?ナオキって、天使さんの家って事か?
じゃあ、僕が今立っているこの広くてお洒落な家は天使さんが住んでいる場所?
なのだとしたら、早急にここから出ていかなきゃ不味い気がする。あの日以来、天使さんとは顔を合わせていない。ロケから戻ってきたつぎの日、僕に会いに来て祥さんの事を聞かれて以来僕達はまともに話なんてしていないのだから顔なんて合わせた日にはここは殺人現場にも化しそうだ。
何よりも天使さんだって僕の顔なんか見たくないだろう。少なくとも、大切に想っている相手をあんな風に扱われて何も感じないような冷血な人ではないだろうし。
クールに見えても祥さんを溺愛しているのは一目瞭然だ。
「あの祥さん、どうして僕を」
「いや、仲良くして欲しいなぁ……みたいな?」
「仲良くって。無理が過ぎますよ」
「え? そんな事ないよ! だって直輝と普通に結葵君の話もするしね」
いやいや、祥さんそれ勘違いじゃないだろうか。
普通に話すって言うのは、ダークな話じゃないのか。
「それにこの前話したお帰りパーティなんだし、昔のことは水に流して前に進むべきじゃない?」
「あ、それでこんなに豪勢な料理があるんですね」
「えっ、本当に?! 美味しそうに見えるかな?!」
「見えますよ」
素直な感想にキラリと祥さんが瞳を輝かせる。きっと天使さんの為に今日を楽しみにしていたんだろうな。
爽さんと僕の家で何か話をしていたのはこのサプライズパーティなんだと気づいて尚のことお暇するべきだと思った。楽しんでもらうためにも、僕が居たら空気が台無しだろう。
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