アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
お忍び旅行はラブハプニング
-
慣れない格好に気持ちが静まらずうろうろしている間に随分と時間が経っていた。落ち着かせるためにも一度外に出ようと扉に手をかけた時、俺が開ける間もなく開かれる。
ハッとしてそこに立つ人物を見るなりジワリとうなじが痺れる。みるみるうちに顔中に血液が集まっていく感覚に慌てて目を逸らした。
「あれ、祥どっか行くの?」
「……遅いから外に……」
「ああ。お待たせ着替えも終わったし廊下で黒江さん達にも丁度会ったからこのまま行こう」
「……うん」
なんだかなぁ、俺もおかしいよ。
優しく背中に手を添えて歩くのを促す直輝の存在に心臓はジワリジワリと緊張に染まる。
白色と灰色の細い糸が織り交ぜられた布地に黒と金の刺繍で足元から腰にかけて龍が描かれた品のある着物に身を包んだ直輝は、いつもの飄々とした雰囲気よりも華美を持ちつつも凛とした印象が強い。
髪色が落ち着いているのもあるだろうけど、何より眼鏡ってこうもイメージを変えるものなのか。
浴衣姿だって見ていたし、モデルで着物を着ているのだって見たことあるのにその時とはまた違った印象で華やかさに全てが傾くんじゃなくてしっとりとした落ち着いた雰囲気はどこか艶っぽくて、付き合っていた頃の直輝から4年もの歳月が経っている事を十分に教えてくれる。
直輝の着物姿に胸中でぶつぶつと一人ごちていると不意に困惑を含む眼鏡越しの瞳とバチリと目が合った。
「あのさ……祥の視線で体に穴あきそうなんだけど」
「なっ、そんなに見てない」
「そんなにって事は少しは見てた自覚あるんだ?」
「違ッ」
くはないよなぁ……。うん、見てました。見てましたよ。
否定したところで恥ずかしい事に変わりはないのだから素直に認めてみる。
するとお化けでも見たかのように直輝が瞠目するもんだから今度は微かな不満に眉を顰めた。
「俺が素直になったらお化けと同じ扱いなの?」
「いやー、ふふっ。祥は綺麗だな」
「な、に言って……! 口説き落とそうとしても無駄!」
口端を持ち上げ色っぽく笑う仕草に何を考えたのか分かる。
使える手段はどんなものでも使う直輝の考えには呆れを通して脱帽だ。
「俺の着物姿ってそんなにいいんだ?」
「……別にぃ」
「かっこいい?」
「…………べっつにぃ」
「嘘つけ。頬が赤いよ」
「俺にわざわざ聞かなくても分かってるんだからいいじゃん」
店から出て決められた散歩コースを歩き出すなりやけに距離を詰めてきた直輝から離れる。
一人愉しそうなのは俺をからかう手段が増えたのと自分でも似合っていることを分かっているからだ。
こうも余裕を持たれると何かしら反撃してやりたくなるのはどうしてなのか……。やっぱり俺も男だからやられっぱなしは嫌なのかと思案を巡らせた時、不意にさっきの驚きに満ちた顔を思い返した。
俺が素直になると直輝はやけに驚く。
それも数秒持たずに悠々とした態度に戻ってはいるけど、少し素直に気持ちを伝えるだけでああなら行動に移したらどうなるんだろう?
「……直輝」
「え、どうした?」
触れた手の甲をするりとひっくり返す。
直接触れ合った手のひらは直輝の骨ばった指を辿り内側へすり込ませると指先を絡める。
「……手、繋ぎたい……。いい?」
「祥?」
ひくりと喉仏が震えたのが目に映る。
ジワジワと湧き上がってきた感情は言うなれば悪戯を仕掛けた子供の様な高揚感。
「ダメ? 俺と手繋ぐの、いや?」
「……」
こうなればもう自分は俳優だと言い聞かせて開き直るのが一番だろう。
女性用の着物を着させられて元から鬱憤もたまっていたんだ。怒らなかったのは瑞生さんも楽しんでいたし、少なからず直輝の瞳に性的な炎が見えたからで。
半信半疑で行動に移して見たはいいけどこうもわかりやすく直輝に驚かれると気持ちがいい。
常に二歩も三歩も前を歩いている直輝が困惑に眉をひそめる姿に胸がきゅんとする。
「祥……」
「直輝、手……ね? 繋ごう?」
俺からは繋がない。
指先をほんの少しだけ絡めるだけ。それ以上はしない。
しっかりと繋ぐのは直輝に任せて、俺はただ綺麗な男らしい指先を弄んでいた。
けれど気を抜いたその瞬間、思い切り引かれた腕によって体が大きく傾く。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
454 / 507