アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
伝えぬ想いは掌に還る
-
大分酒が回っている。頭の奥がふわふわしてきて気分がいい。
しかし数分も持たずに、心地よく酩酊していた気持ちのなかへ憂鬱な波が胸を漂い出した。
「祥くん、また今度ハル達と見せに来てくれよ」
「いいですね、それじゃあ陽も誘って行こうかな」
「おーいいなそれ! 折角だからどこか出掛けるか」
膝の間に座るか否かの悶着を終えて、直くんに抱き枕の様に抱きしめられた祥が笑う。
耀さんも酒を飲み本来は鋭く光る瞳を緩ませ楽しそうに話していた。
「あっ、そうだ。ハルがこの前」
誰とでも仲良くなれる二人は、会う事に仲を深めていく。
こういう時、直くんはどうしてるのか観察してみると案外大人しいもので。祥の手をにぎにぎしたり、笑うほっぺに寄り添うよう肩に顎を置いたり。
普通だ。
そう、普通に、二人を見守っている。凄く意外だった。
常日頃から祥は俺のものだ触ったやつは殺すぞって牽制しているのに。
「なあ瑞生?」
「え、ごめん。聞いてなかった」
ぼんやり他のことを考えていたせいで、全く二人の会話から逸れていた。
改めて何かと尋ね返したが、「あぁ、いや何もねぇよ」と言われて、その瞬間プツンと何か切れる音がする。
何もないじゃあないよね。お前の恋人は一体誰だよって話。
「……ねぇ、耀さん。酒買ってきてよ」
「あ? まだあんだろ?」
「甘いの……甘いお酒が飲みたいから買ってきて」
最早、ただの我侭だ。
別にお酒は十分なほど満足しているし、高い地酒を飲んだ後にチューハイを飲んだら雲泥の差だろう。
だがそれでも、耀さんに無理を聞いてもらった。
「んじゃコンビニ言ってくるが他に欲しいもんは?」
「直輝も行ってきなよ。耀さんにだけ任せるのは駄目だよ」
立ち上がり声をかけた耀さんにすかさず祥が返す。一瞬眉間に皺を寄せた直くんに「俺が行っていいなら行かせてもらうよ」と続けて言えば、渋々といったように耀さんと買出しに向かった。
さて、邪魔者はいなくなったわけで……。
「瑞生さん」
「ん?」
「何か、話が?」
「……本当、よく見てるね祥は。気づいてて直くんも追い出してくれたの?」
「ええ、まあ。瑞生さんこそ、気遣ってばかりで疲れてませんか?」
首を傾げた祥が困り顔で笑う。
そんな動き一つでさえ、愛らしい。でも今は少し、羨ましくもおもう。
俺には祥みたいな清廉さは無いから。
「……の前に、流石に俺も恥ずかしいし、一口でいいからお酒飲んでくれたら嬉しいんだけど」
「あっ……直輝と……いや、はい。一口だけ」
「ごめんね祥」
「いえいえ! 瑞生さんの力になれるなら喜んで」
袖を捲り、細い腕を晒した祥が力こぶを見せる。それでも片手で折れてしまいそうなほど華奢な二の腕に、俺は小さく吹き出してしまった。
本人は、これで大真面目なんだから愛さずにはいられない。今も昔も、この子は本当に俺へ色んなモノを教えてくれる。
だから今日は、少し祥の言葉を聞きたかった。
「ってわけなんだけど、さ……。どう思う? やっぱり、俺が」
「瑞生さ……ん」
「え……ちょっと、祥?」
お猪口いっぱいの芋焼酎を飲んだ祥がくてぇと俺にもたれ掛かる。
この三年間に起きたことを黙って聞いていてくれてた筈なのに、祥は目をグルグルと回してるのか、真っ赤な顔で出来上がっていた。
「祥? 大丈夫?」
「ごめなさ……おれぇ、芋焼酎、だめだぁ」
目が回っているのかぐったりと凭れかかり、呂律の回らぬ程酔った祥が意識を霞ませる。
祥とは良く飲みに行っていたがこんな姿を見るのはあの日以来だ。元はと言えば俺が無理を言って酒に付き合わせたわけで、罪悪感と共に祥を布団の上へと横たわらせた。
それからどのくらい経ったか。
いくら待てども直くんどころか耀さんが戻って来ない。
どこで道草食ってるのかと探しに行きたい衝動にかられたが思いとどまった。
祥一人には出来ないし。
耀さんの事だから、もしかしたら敢えて時間を潰してくれているのかも。
何も考えてない様に見えて実はかなり周りを見てるから。俺の考えを読み取ったのかもしれないと思った。
念のために祥を酔い潰してしまったことを連絡しておいたら、送信と共に部屋の中から着信音が鳴る。
音のした方を見ればガッツリと耀さんの携帯が置いてあって、使えなさに思わず嘆息した。
直くんの連絡先は残念ながら知らないし。
教えてって言っても毎回逃げられるから。
ほら見ろこういう時連絡手段が無くて困るじゃんか、なんて悪態をつきながら俺も酔をさます為に祥の隣へ横になり目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
463 / 507