アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
伝えぬ想いは掌に還る
-
◆
襖を開けてみりゃあ、それはもうぶったまげた。
がっつりと浴衣がはだけて素肌を晒してる祥君の脚の間に、瑞生が顔を埋めていればそりゃあもう驚くさ。何してんだお前って呆れ半分、笑い半分。
背後に立っている直輝君にもこの情景はしかと目に焼き付いている。静かな殺気がジリジリと刺してくるが、こんな馬鹿でも俺の恋人な訳で殴られるのを黙って見るつもりはない。それは後日、としてだな。直輝君には悪いが今は祥君を引き剥がして自室に返ってもらうことにした。
「んで、お前は酔っ払って襲ったわけか?」
「……襲ってない」
「あそ。まあ瑞生が言うなら信じるけどよ……。お前、直輝君の怒りは相当なもんだぞ?」
「うるさい! そんな事わかってんだよ!」
珍しいことに瑞生が激昂している。
癇癪を起こしているのか、邪魔だから端によれと追いやった角で泣きそうな顔をして物凄いこちらを睥睨していた。
瑞生が本気で怒る事なんて片手で数えるほどに少ないよなぁ。朝から機嫌悪いとは思ってたが何が不満なんだ。思案しつつも、部屋を片付ける手は休めない。隣の寝室に布団も敷いて、酔っ払いには休んで貰おうと呼び寄せた。
「あんたさ、俺に言う事ないの?」
「ん?」
「……っ、俺が考え無しにあんなことしたって──もう、いい」
けれども結果はこうだ。
呼べども無視。泣くのも癪なのか、必死に憤怒により抑え込んではいるがそれもいつまで持つのか。
こんな事ならおとなしく部屋を出るんじゃあ無かったなーとおじさんも反省するわけで。酒の買出しに出た後、若女将──もとい身内達と邂逅した。若女将の旦那である板前は俺の後輩だ。まあ、後輩と言っても救いようのない悪餓鬼の溜り場を指すわけだが、それでも今はこうして頑張っている。それを認めた俺の従姉妹が惚れたんだそうだ。よくやったな、後輩。
まあそういうわけで一度捕まりゃあ、なかなか離しては貰えない。悪いと思い直輝君だけは部屋に返そうと思ったが意外な事にまだ付き合うと言われた。
おっと、なんだか悩んでるのか?
そう思ったのは、いつもよりも少し彼が上の空だったからだろう。
それから暫くしてやんわりと直輝君と男同士の会話をしたわけだが、若いって良いよなぁと感慨深い。二歳違いの瑞生もこういう思いなのかと思案する。だったら少し、いやかなり可哀想だとも思うわけだ。
直輝君の悩み相談だなんて言ってはみたが、実際は些末な事しか言わない。まさに鉄壁の防御力と言うのが相応しい。悩みを人に相談する事なんて無いのだろう。何でもひとりで決め、解決し、尋ねられても胸中を晒しはしないのだ。そういう男なんだと思ってはいたが、心労も相当なもんだろう。
けれど、祥君が好きで好きで堪らない。ってのはだけはどれだけ冷めた顔しててもひしひしと伝わるわけで、だったら応援してやりたくなるのが年寄りのお節介だよなぁ。
思わず余計な事を言ったと嘲笑したが、案外直輝君は素直だった。意外だ。相談の理由はすぐに祥君にも伝わることだろう。寧ろそれが理由なのだから。
そうして直輝君と案外距離縮んだんじゃねぇの? 今度は海とか誘うか!
なんてことを考えながら部屋へと帰れば、仰天な事が起きてたわけだ。直輝君には本当に悪いことをしたな。謝ってはみたが、祥君の明日はきっと無いだろう。まあ冗談だが。
「瑞生チャーン、早く寝ろっての」
「いやだ」
うるさい、黙れ、嫌だ。馬鹿、うざい。おまけに禿げときた。お前は餓鬼かと思わず言いたくなるほど語彙が乏しい。ついでに俺は上も下もふっさふさだと軽口叩いたら瑞生の顔がキッとなった。面白い。
普段なら口喧嘩で勝つ事はないほど饒舌に俺を責め落とす癖して、こんな姿見せられると可愛いよなぁと思ってしまうだろう。
隙のない子が、酔って怒るとそんな幼子みてぇな事しか言えないって。おまけに少し舌っ足らず。動画でも撮りたい気分だ。後日見せて辱めたい。
「お前何怒ってんの?」
「……」
「言いたくねぇ?」
「あっち行ってよ。うざい」
角に身を寄せ膝に顔を埋める瑞生のよこに腰を下ろす。すると間髪言わずに胸を両手で押し返された。
だが、いい加減拗ねるのも辞めような瑞生。
「なにする──ンぅ……っ」
「キスしてる」
「やっ。いやだ、ん、は、やだあ」
頭の後に手を固定し無理矢理キスをする。閉じられている唇を舌先でノックすると、嫌だと言ってた割には直ぐに力がゆるみ舌を絡めてきた。
必死に吸い付いてくる瑞生の舌を絡めながら、宥める様に耳の裏側をなぞる。目を開けると霞むほど間近に瑞生の真っ赤な顔。強く目を閉じて、困惑の隠せない表情にぞくりと背中が痺れた。
舌先を甘噛みして、申し訳程度に抗おうとする瑞生を押え付ける様にじゅるじゅると音を立て舌を強く吸う。それから口内をゆっくり舐めると、酸素切れの瑞生の為に開放してやった。
「ん……っ! キスで、誤魔化すなよっ」
「何を?」
「俺がめんどくさいからキスして怒りを鎮めようとしてるのみえみえだから」
「ふーん? キスで怒りが鎮まるのか?」
「耀さんの、キスに俺が弱いってこと、知っててやってるんだろ!」
「そりゃあいい事聞けたなあ。もういっぺんキスするか? すげーエロいやつ」
「うっ……。し、ない……」
瑞生自ら自爆しているのに気づいてない。可愛いこと言っちゃって、少し俺も怒ってはいたが直ぐに絆されそうだ。
「怒ってる瑞生チャンも、セクシーで好きだぞ」
「なっ、うるさい!」
「可愛いやつ」
本当に絆されたのか、瑞生がチラチラと物欲しげに俺を見る。その視線に気づき、瑞生を横抱きにして抱き上げると大人しく俺の胸に額を寄せて布団迄運ばれてくれた。
なんとも便利なものに気づいた。キスすれば瑞生の怒りは鎮まるそうだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
467 / 507