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嫉妬と本音は五歳児
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「なお、すきぃ」
甘ったるい声音に胃の奥が熱くなる。
「ちゅうして、ね? なお、ちゅぅて」
まるで何事もなかったかのようにニコニコと笑う祥が今はただただ腹立たしい。
「少し黙って。本気で壊しそう」
「え?」
こてんと首を傾げる仕草に舌を鳴らす。無邪気な行動も甘えた声も、俺以外の誰かに見せた事が腹の底から気に食わなかった。
祥の肌に他の誰かが触れたことが、ましてや跡なんか残しやがって殺してやりたいほどだ。
例えそれが祥の敬愛する先輩であろうが友人であろが許したくない。
「脱げ」
「んー?」
ふにゃりと微笑んで浴衣を脱ぐ祥は今からすることに何の迷いもない。
俺は祥の手から浴衣を奪い取ると細い腕を掴んで露天風呂へと放り込んだ。
ぱちぱちと瞬きしながら「どうしたの?」と舌っ足らずで問いかけてくる。その無垢な姿に冷笑を返しながら考えた。
どうしたら祥はおとなしくしてくれるんだろうか。
俺が同じことをすればどれだけ腹立たしいのか、嫉妬に駆られるのかわかってくれるのか。俺がそこらの女を抱けば祥は同じ残酷さを味わうのか。
そうなら今すぐにでも女を連れ出して祥の目の前で抱いてやりたい。
悲痛な顔しようが止めようが辞めてなんかやらない。
それほどまでに俺の独占欲が強いことを祥は一体いつになったら気づく?
いつになったら俺と同じ場所迄くる。
「やっ! 冷たいっ」
「……逃げんな」
「なお、いやぁっ」
「祥」
震える祥にシャワーをかける。あっという間に濡れた体を自らの腕で抱きしめて不安げに俺を見上げた。
「俺の言う事聞けるよな?」
「……ッ、ごめ、なさい」
「おとなしくしてたら優しくしてあげる」
「う、ん……」
怯えた表情を見て少しも可哀想だなんて思わなかった。
何をされるのか不安を抱き理由は分からずとも俺が怒っている事に気づいた祥は先程迄の無邪気な笑顔を悲痛な表情へと変える。
「いい子だね」
「……ほんと? 怒ってない?」
「どうだろう。怒って欲しくない?」
「うん……怒らないで」
「……」
だったら何故同じ事を繰り返すんだろうか?
くつりと喉が震える。自分でも分かるほど酷薄な笑みを浮かべているんだろう。
今にも泣き出しそうな祥の体をシャワーで洗い流すと、座りこんでいる体を引き摺るようにして部屋へと戻った。
「寒い?」
「ううん」
「じゃあなんで震えてんの?」
「……ッ、」
理由なんて聞かなくてもわかる。
俺がキレてるからどうしたらいいのかわからないんだ。
祥が小さい頃、両親を事故で亡くしてからの数ヶ月。引き取られた母方の家で八つ当たりのように手を挙げられていたのを知っている。弟の陽を守ろうとしてからは祥に刃先が向かったことまでも知っている。
だから隣で誰かが憤然とした態度を取っていると祥は貼り付けたような笑みばかり浮かべて、見えない壁を作ることも知っている。
知っているから腹立たしい。
じゃあ俺はいつまでこの嫉妬を隠せばいい?
祥はいつまで俺をどこまでも優しい幼馴染みだと思い続けるんだろうか。
付き合いを始めて、それから別れた。再びよりを戻し、遠距離から戻った現在、やっと再スタートをきれたのに。
祥の心の在処はいつまでも幼馴染みとして立つ俺の隣だ。
何も変わっちゃいない。俺がこの本音を告げるまでは祥は気づかない。それを祥のせいにするつもりは毛頭ない。伝えない手段を選んだ俺に責任がある。
ただ、ここまで狭量な人間だと祥に知られるのが嫌なんだ。
何でも受け入れて許す事が出来てしまう恋人に釣り合わない俺が嫌いだ。
「祥ちゃん、おいで」
「……、でも」
「怒ってないから、おいで」
「うん……」
チラチラと横目で伺う祥に人の良い笑みを貼り付けて応えた。
いつまでこうするべきか。
本当なら今すぐ抑えつけて犯してやりたい。
お前は俺のなんだと刻みこんでやりたいのに、祥の目を見ると激昂する感情は内側で爆発する。
外へと追い出せたらさぞかし楽だろう。
祥を責めて咎めて泣かせて。自分の思うままに八つ当たり出来るなら清々しいだろう。
でも祥は悲しむだろう、そう思うと必死に内側へと怒りを鎮める方法しか思いつかなかった。
今も、昔も、きっとこれからも。
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