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嫉妬と本音は五歳児
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「どッ、どうしよう……! 謝らなきゃっ」
覚醒した祥がまず先に発したのはその科白(セリフ)だった。
止める隙もなく慌ただしく部屋を出ていく。起きるまで傍にいた俺にはひとっこともない。
起き様にまで椎名の名を連呼する祥にジワジワと独占欲が覆い尽くす。
昨日の深夜遅くから朝この時間まで怒らずにいた俺には何もないのかと不貞腐れた気持ちだ。
たった一言まっさきに祥から俺に向けて言葉があればなんとも思いやしかなかっただろうに、今は物凄く不満が募る。
水に流して楽しむと決めた思いは何処へ行ったのか。
慌ただしく出ていったままの祥を待つのも馬鹿らしく思えて完璧子供のように臍を曲げた俺は鞄から文庫本を取り出すと外部からの接触を遮断した。
餓鬼だの我侭だの知った事か。
俺なら真っ先に祥を見るのに祥はいっつも後回しじゃないかと考えたら親を取られた幼子のように気持ちが荒れる。
いつもと違いコンタクトでなく眼鏡をかけてる事にも違和感で不機嫌に拍車がかかった。
いくら軽量だとは言えども眼鏡の違和感は無いに越したことは無い。ましてや課題や仕事の書類でパソコンに向かう時以外はつけないものを数日とはいえ常備しなきゃならないと思えば再び憂鬱だ。
どれもこれも祥と普段通りイチャイチャ出来てれば気にもしない些末な事。
なのにどうだ。今は小さなこと一つも気に入らずに臍を曲げていた。
おかげで昨日の失態を謝り終えて安堵の表情で帰ってきた祥の言葉は無視だ。
知らぬ存ぜぬの一点張りを押し通すと祥もだんだんと顔色を変え出す。焦っているのか垂れ目がちの瞳が悲しそうに細められた。
普段の俺ならどうしていたかとでも考えているんだろう。そうして今どれだけ俺の機嫌が悪いのかを計る。
漸く出た答えは触らぬ神には祟なしといった面白くない結果で、俺は知らず知らずのうちに愁眉を寄せた。
それから暫らくたち朝食の時間だと椎名が扉越しによびにくる。
「直輝、ご飯食べに行こ?」
数言会話を交わし終えた祥は隣へ立ち恐る恐る声をかける。ここまで来ると思春期で反抗期に突入した馬鹿な子供のように思えてくるがもう今はとにかく腹が立って仕方がなかった。
昨日の衝撃は忘れたくとも忘れられやしないし。その事を咎めず事なきを得ようと澄ましているのもいい加減めんどくさい。
やっぱり同じことをしてやろうか。それで初めて気づくって言うんなら祥が傷つこうが構わないとまで悪意のある考えが湧く。
だけどそれはあんまりじゃないかと理性の奥で本能的な醜悪な感情を抑え込んでいたら耳を疑う科白が聞こえた。
「……最近の直輝、凄く性格悪い」
「は?」
悄然とした雰囲気から一変。怒りを孕んだ瞳が俺を捉えていた。
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