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遠き日のすれ違い
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当時の事件は、その衝突で終わらなかった。
最終的に事態が終息したのは直輝が入院してからだ。
祥の預かり知らぬところで起きた橋下兄弟との衝突に、警察も巻き込む程の騒ぎになった。
繰り返し犯罪行為を行っていた橋下兄は、次に事件を起こせば留置所行きだ。その事が幸をなしたのか、警察の脅しに頭が冷えたのか、直輝もろ共学校を巻き込んでの騒ぎになった。
幸いにも騒ぎの大きさの割に直輝の怪我は酷いものではなく、右肩の骨折と暫くの安静で治るものだった。
「祥ちゃんどうしたの?」
「……お前、ほんと馬鹿だよ」
「えー酷いなぁ〜。キスの一つぐらいしてくれもいいんじゃない?」
「うるさい。喋るなよ、もう、ほんとやめてよこういうの。死んでたらどうするの」
「死なないって」
────そんなの分からないだろッ!
カッと血の昇る頭を無理矢理押さえつける。深呼吸を繰り返すと再び同じ言葉を繰り返した。
「お願いだから無茶しないで」
「……そんなに酷い傷でもないし」
「そうじゃないっ! また俺のせいで誰かが事故に巻き込まれるのは嫌なんだよっ!」
「祥、……悪かった」
「……謝るのは俺だよ……ごめんなさい直輝。でもお願いだから二度と俺なんかの事庇わないで」
「…………それは約束出来ないかも」
「なんでッ」
聞いてくれない直輝に苛立った。
どうして頷いてくれないんだと詰め寄る祥の手を、直輝の片手が包み込む。
「じゃあ例えば俺がさ何かあった時祥はどうすんの?」
「それは、今関係ないだろ」
「関係あるだろ。どうすんの? 見捨てる? 聞かなかったふりする?」
「…………しない」
「だから、そういうことだよ」
その通りだった。
たとえ危ないとわかっていても、直輝が傷つけられると知っていたら放っては置かない。
でも、じゃあ、どうしたらいいと言うんだ。悔しくて涙が出そうだった。
自分のせいで誰かが傷つくことはもう二度と味わいたくない恐怖なのに。
ぽん、と頭の上に大きな手のひらが乗っかる。
見上げると、いつもの無表情でも、作りものの笑顔でも無い、自然な笑を浮かべた直輝が普段より大人びた視線でこちらを見ていた。
「だからさ、俺が無茶しないように、一人で背負うな。何でもかんでも一人で解決しようとする前に俺に相談しろよ。そしたら無茶しないでお前のこと守ってやれるだろ。それから俺が暴れないように一生俺の隣にいろよ、な?」
「っ、……ッバカじゃ、ないのか、直輝」
「泣き虫だよね本当に」
「うるさいっ」
直輝の手のひらが目を覆う。
祥が涙を流せる唯一の場所は直輝の隣にあった。隠された手のひらの裏側でいつも泣いていた。それを拭ってくれるのはいつだってこの幼なじみだ。
唯一無二とは直輝みたいな存在なのだろう。二度と彼を傷つけさせない。
出来ればあんな喧嘩も、もう二度としたくない。
祥は久しぶりに隣にある体温にそっと寄り添って、様子を見に来た直輝の母親が来るまで泣いていた。
その当時の出来事は今思い返す中では二つ目に大きな出来事だった。
一つ目は勿論、直輝に無理矢理抱かれた時だろう。
祥はぼんやりと遠い記憶の中に、当時気づかなかった淡い蕾を見つけた。
「皐季さん」
「なに? ニヤニヤしてキモー」
「すみません、でもやっぱり俺直輝と結婚したいです」
「はぁ?」
「直輝にばかり言わせてられないです。俺のこと直輝が守ってくれるから、俺も直輝を守ろうと思ったこと思い出しました」
「急に何言ってんのー? そう言われても認めないし」
「充分時間はありますから。死ぬまで直輝の隣にいます。何があっても、もう離れない。それに随分と直輝を待たせてばかりだったようです」
「待たせた?」
そうだ、随分と遅くにきづいてしまった。
祥にとっての初恋は随分と昔から、気付かれずにひっそりと蕾は付いていたのに、咲いたのはごく最近になってからだなんてあんまりじゃないか。
「もう迷うのやめて潔く生きていきます。俺、海外いって直輝と結婚します!」
「は、はぁ?! 絶対許さないからね!」
「あ、皐季さん前見て、前!」
「ちょ、うるさいっ! 俺に指図するなんて生意気なんだよ陰毛頭!」
「でも直輝は俺の髪好きだって言ってくれます」
「っ、ムカつくんだけど?!」
なんだ簡単なことだ。
決めてしまえば後はただひたすらにそれを追うだけ。
未来に待つ二人の姿を────
過去からの贈物は、怖気づいた祥の背中を押してくれた。そして未来の直輝との出来事はきっと手を引っ張ってくれるものになる。
口にしてしまえば呆気なかった。
直輝もこんな気持ちで告白したのかと思うと、自然と笑が零れた。
* * * * *
「祥!」
「ただいま直輝」
「皐季に何かされなかった?」
「何も。あ、でも昔の写真見せてもらうことになった」
「昔……?」
ドライブから帰ると直輝が難しい顔をして仁王立ちしていた。でも何も無かったと体で表現するなり愁眉を開く。
「そーなっちゃんの女装姿だよ」
「だよ」
背後から現れた皐季さんに合わせてそう言うと、直輝が俺の肩を鷲掴む。
「見たら泣かすよ」
「え」
「その写真見たら、謝っても許さないほど犯すからね?」
「ぇ」
目が本気だ。
ぶるりと寒気が走り腕を擦ると、直輝は俺から皐季さんへと視線をずらす。
「皐季、分かってるよな?」
「あは」
「見せたらどうなるか分かってるよな?」
「俺にもお仕置き? いいじゃん、おにいちゃんそういうの大好物だよ?」
飄々としてるのはこの兄弟のチャームポイントなんだろうか?
流石アニサマ、脅しが効かない。
話しても拉致があかないとわかった直輝は俺の手を引いて部屋へと戻った。
ベットに入り込むと、背後から抱きついてくる。お腹に回った腕に手を重ねて、目を閉じた。
「祥なんかあった?」
「ん、ううん何も無いよ」
気持ちはとても軽くなったけど。その言葉を口にするのはもう少し先にして起きたい。
せめて認められてから。
まずは直輝の事務所の会長さんに、彼はきっと、俺達をただ見逃してくれるほど優しくはない。
「直輝」
「どうした?」
「ありがとうね」
「なにが?」
「なんだろう秘密」
「……祥?」
温泉旅行ももう一度。
今度は二人きりで。初めてなのに二人きりじゃなかったことを直輝は拗ねていた。
後から聞いた話だったけどそういう些細なことにこだわる直輝を見ているとくすぐったくなる。
ヤキモチ妬かれる事にいつの間にか心地よさを感じていた。
だから大丈夫だと信じよう。
いずれ訪れる試練は想像以上に辛いことかもしれない。でも、負けないように、離れないように直輝の手をしっかりと繋いで置くことを忘れないようにと。
嵐の前の静けさだということは、忠告されずともわかっていた。
それはきっと俺だけじゃなくて直輝もだろう。だから直輝は少し急ぎ足で家族に話したんだ。
見方が必要になることを理解していて。
覚悟した高揚感と、押し寄せる漠然とした不安。二つの大きな波に押し流されないようにと直輝と抱き合うようにして眠りに落ちた。
翌日の朝は少しばかりバタバタとしていた。
直輝の両親が経営するお店の宣伝に直輝は連れていかれることになって、俺は暫くの間うたた寝していた。
留守番をしている間に皐季さんからちゃっかりと直輝の女装姿の写真をもらったのは内緒だ。
まだ俺と出会ったばかりの頃の幼い直輝が泣きそうな顔で佇んでいる。
髪の毛を結われて、ヒラヒラした白いワンピースを着せられた女の子は恐ろしいことに直輝だ。間違いなく直輝だ!
ほんとに天使のように可愛かったのに今ではエロ魔王だ。ありえない。
そんなふうに留守番の時間は過ぎていき、スーツ姿で帰ってきた直輝は「疲れた」やら「浄化して」やらとキスをしてきたり抱きついてきたりさんざんな目にあったことは推測できた。
そろそろ日も傾いてきた時刻、俺達は帰り支度を始めた。
「あ、そうだ」
スーツケースに荷物を纏めていた途中、直輝が突然何か差し出す。
「なにこれ」
「要らなかったら捨てて。でも本当はもっと早くに渡したかったんだけどな」
「え、あ!」
渡された包み紙の中には懐かしいボタンが入っていた。
「これって中学の頃の」
「そう第二ボタン、いる? 俺のだからかなりレアだよ」
「自分で言うから価値がなくなるんだよ」
「そう? じゃあ返品する?」
「ぅ……し、しないけど」
「やっと渡せた。一生伝えることなんてないと思ってたから」
「……ありがとう」
手のひらで光る鈍い金色。
時間を感じる少し古びたそれは、当時から直輝の気持ちを背負っていたのだろうか。
「大切にする」
「ふっ、なんか祥変わったな」
「え?」
「前より綺麗になった」
「ばっ、馬鹿じゃないのか!」
「そういう所は相変わらず可愛いけど」
揶揄りながらキスをしてくる。
怒っても振り払えない俺は直輝の唇を受け入れた。
「後一つ俺のお願い聞いてくれる?」
「なに?」
「俺の学ラン着て? 抱きたい」
「はぁ?!」
ちょっと何を言われたのか一瞬悩んだ。
でも抱きたいって、アッチの事だよね?
本当にこいつ、何なんだろう……どうしてこのいい雰囲気を無視して言えちゃうのだろう。
「瑞生との事許してあげるから」
「ッ、」
「俺ほんとはまだ許してないよ〜?」
「分かった!」
「後、俺の女装の写真も没収だからな」
「え?!」
「……やっぱりか」
墓穴を掘ってしまった。
カマをかけられたことに気付かず、目を細めた直輝の手のひらに渋々幾枚かの写真を返す。
でも、こんなこともあろうかと写真に撮ったんだ! だから別にどうってことは無い!
「それとスマホの写真で撮った方も消しとけよ」
「む?!」
「……わかりやすいよなほんと。まあそこが可愛いけど」
「や、やだよ」
「どうでもいいけどさ、覚えてる?」
「なにが?」
座り込む俺に、直輝が距離を詰めてくる。
あと数センチで唇が触れ合う程の近さで、直輝が声を低くして囁いた。
「写真見たら泣いても謝っても許さないって」
「んっ」
甘く誘うように首筋を撫でられて、腰に痺れが走る。ぞくりとして、目が直輝から逸らせない。
「家に帰ったらお仕置き沢山待ってるね? 楽しみだなぁ」
「や、ごめんなさいっ」
「ふ、許さないって言っただろ?」
「っ、ァア」
にこりと嫣然に微笑んだ直輝が鎖骨へと舌を伸ばす。そしてガリッと深く噛みつかれた。
「言う事聞かないから体で覚えようね、祥ちゃん」
「ごめ、んっ、や」
「だからだーめ。すっげえ我慢したんだから今度は祥が泣く番だよ」
「んぅ」
ああ、神様──
決意したばかりだけど、その前に死ぬかもしれないです。
死因が腹上死だなんて陽や享さんに顔向けできない……。
どうにか東京に帰るまでの新幹線の中で、ご機嫌とりをしなければとおもった俺は、結局家に帰るなり泣き乱れる事になりました。
「も、もぉ無理……」
「声が出なくなるまでは離さないよ」
「んっ! ぁっ、あっ」
翌日、目が覚めた俺の中には未だ直輝の物が入ったままで、その刺激に反応した俺も直輝も朝からまた乱れあった。
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お知らせ
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お久しぶりです。
何ヶ月ぶりの更新でした!
ここ最近の生活環境が変わり更新出来なかったのですが、夏休みになり帰省が決まったのでまたぼちぼち更新させて頂きます。
またこちらの関連する他作品も含めて非公開にした多くの作品はいずれ公開しますが、まだ未定です泣
急ぎ足になって温泉編の書きたいことを何故か書けずにシリアスなうえに蛇足……。
完結させたいあまりに書きたかったことを省きまくってしまったので、こぼれ話などはTwitter方でアップするプライベッターの方にアップする予定です(すみません)
お礼が遅くなりましたが多くの感想、いいね、お気に入り、Twitterでの励ましありがとうございます!
もう覚えてもらえてないのでは……?と不安もあるんですがまたぼちぼちと隅っこの方で性癖爆発させながら書いていきたいと思ってるのでまたどこかでお会いできたらよろしくお願いします(*^^*)
小話はTwitterのプライベッターです!
#ドSな幼馴染み
このタグを使ってアップするのでもしご興味ありましたらよろしくお願いします。
あじ@aji_homo9
2017/06/08
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