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撫でるその手
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翌朝目が覚めると体のあちこちが鈍痛で痛んだ
今日が社会見学が休みで良かったって心底思う
こんな状態で行くのは少し、いやかなり億劫だから
昨日って言うより、
数時間前に起きたこと思い返しながら朝日に背を向けてシャツ1枚を着ると部屋を出た
直輝は仕事に行ったのか……
シン、と静まり返る空気に
チクチクと心臓が痛む
直輝が帰ってくるのを待つべきなのか
それとも1度家に帰るべきなのか
それよりも直輝に会ったらどう話す?
爽さんとは何も無いって説明をするべきか……
いや、でも一つ俺さえも分からない事がある
俺の記憶の中では皆と一緒に居たし
爽さんと話したのは数分だけで
それ以上の記憶なんてない
肩甲骨がどうとか直輝が怒っていたけど
記憶が曖昧で答えられなかった
飲んでいる最中に寝ちゃったのも
仲良くなった直輝の後輩君にここまで送ってもらったのも覚えてるけど
所々記憶があやふやなのが実際のところだ
「はぁ……。 直輝帰ってきたらまだ怒ってるんだろうな……」
ヒリヒリ痛む喉を潤す為にリビングに入ると真っ直ぐにキッチンへと向かう
コップ一杯に水を入れるとゴクゴク勢いよく水を胃の中に流し込んだ
「……はぁ」
ここ最近ずっと溜息ばかりだ
モヤモヤしてばっかで
どうしたものか
だんだん沈むテンションのままソファへ向かうと視界に映り込んだ景色にピキっと動きが止まってしまった
「……へ……。 なんで……」
「俺の家だけど」
「いや……え……っ」
ソファに寝転んだ直輝がじぃっとみあげてくる
ああ……、その視線はまだまだ怒ってる時の目だよ
今さっきついた溜息も、
勿論独り言だって聞かれたはずだ
それに何より直輝と顔を合わせる事に
心の準備が出来てない
オロオロとアニメのキャラみたいに
冷や汗が溢れ出す
口は糸で縫われたみたいに開かないし
直輝を見ることもままならない
あー……気まずい……。
そう、思った時窓から差し込む光に輝く白髪がサラサラと揺れた
「ここ座れば?」
「……うん」
上半身を起こした直輝がチラッと目だけで隣を指す
言われた通り恐る恐る隣に座ると
それを見届けたみたいに直輝が今度は立ち上がった
「え、直輝どこいくの?」
「……どこでもいいだろ」
「……っ」
後ろも振り向かないで直輝がリビングを出ていこうとする
どうしてこうなるんだろ
普通に話すことさえ出来ないなんて
俺はいつからこんな腑抜けになったんだ
落としていた視線を振り切って
ギュッて拳に力をいれる
素直に、ならなきゃ
俺にとって1番難しいこと
だけど今俺達に1番大切なこと
何をすべきか分かっているなら
勇気を出さなきゃならない
「直輝、待って!」
立ち上がって気だるそうな直輝の背中を追いかける
それでも無視して部屋を出ようとする直輝のシャツをギュッと握りしめると無理矢理リビングへと引っ張り込んだ
「ま、待てってば!」
「……朝からうるさい。 離せよ」
「俺と話したくないのかよ……!」
「は?」
「だっ、だから……。 俺も話してやってもいいって思ってるってことだけど……?」
「……何様だよ」
しまった……。
本当、何様だよお前のその一言に尽きる
あんまりにも焦りすぎて
頭の中に浮かび上がった幾つもの言葉を繋いだら上から目線になってしまった
ぶわわっと顔が熱くなる
恥ずかしくてほんの少し鼻の奥がツンとする
直輝が冷たい
当たり前だけど
いつもどれだけ俺が直輝に甘やかされていたか痛感した
他の人には大してこんな態度だけど
俺にはいっつもバカがつくほど
過保護だったし優しかった
そんな直輝が今はほかの人と話す時みたいに
無機質な声で冷めた目で俺を見下ろしている
ズキズキと痛みだす心に耐えるようにぎゅうっと力強くシャツを胸の前で握りしめると小さく口を開いた
「……仲直りしたい」
「なに? 聞こえないんだけど」
「直輝、……仲直りしたい、です」
「仲直りしてまた同じ事すんの?」
「……」
トゲのある言い方にビクリと肩が揺れる
そんな風に言われちゃ
仲直りしたいなんて言えなくなる
力なく横に首を振るだけで精一杯だ
だんだんと下へと視線が落ちていく
シャツを握った手首の間に写る俺と直輝の爪先
こんなに近いのに直輝が遠い
ゆらゆらと視界が歪んできて
ぐにゃりと肌色と茶色が混ざり合う
泣くなよバカって自分に言い聞かせればするほど水は多くなって鼻を啜った時にポタリとフローリングに涙が落ちていった
「……」
「……」
「……っ」
「……泣くなよ」
「ごめ……っ」
「……はぁ」
頭のてっぺんに向かって直輝が冷たくそう言う
涙を拭いたいけど
シャツを離したら直輝がどこかに行きそうで離せない
それでも涙は後から後から流れるわけで
直輝迄もとうとう溜息を零す始末だ
もう俺本当ただ面倒くさくてウザイ奴だよな
自分が嫌になってくる
掴んでいたシャツを離すべきだって
握った手のひらから力を抜いた時
後ろから押された力によって
ふわりと直輝の胸に体が傾いた
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