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指令は?
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「はぁー疲れた」
「〜〜っ!」
「祥生きてる?」
生きてるけど……
生きてるけど今にも死にそうだ
「言っとくけど俺が企んだわけじゃないから」
「あれが内容だったの?!」
「ん」
そう言って直輝が紙を渡してくる
押し付けられた紙を受け取るとぐっと背筋を伸ばし直輝が横になった
「あーでもギリギリだったな。 少し遅かったら2位だった」
「……」
「読んだ?」
「……」
渡された紙を見て
こみ上げていた文句が消えていく
直輝がなんで固まっていたのか
理由が今わかった
『大切な人にプロポーズ』
なんだこれって言いたくなるような内容
こんなの、本当に馬鹿みたいだ
これをやっちゃう直輝はもっと馬鹿だよ……
「怒った?」
「……キスまでは書いてない」
「でも大切な人にプロポーズしろって書いてある」
「それとキスの何が関係あんだよ」
「……あるよ」
「……」
寝転んでいた直輝が体を起こすと
急に真剣な声でそう呟く
あんまりにも重く呟くから
思わず緊張してきた
「……プロポーズ」
「え?」
「祥に初めて言うのが今でいいのか悩んだ」
「今?」
「こんな子供じみた所で言うのが嫌だった。 けど、ほかの誰かに嘘でもその言葉をいうつもりもなかった」
「……」
「……初めて伝える相手は全部祥がいい。 祥しか、居ないから」
「なお、き」
「指輪も何もないし、ただのお遊びでそんな大切な言葉言うべきか戸惑ったけど……今言うべきかもって思った」
真っ直ぐな瞳をした直輝が
静かにはなす
俺はそんな直輝から目がそらせなくて
何も口から言葉も出なくて
ただ、目を合わせる事しか出来なかった
「人の前で、祥と堂々と生きるってこういう事なんだって思ったよ」
「……」
「今は隠すべきなのはわかってる。 だけど俺は祥と2人で生きてく事に後ろめたさは感じてない」
「……何、急に」
「祥は人の目を怖がってるから」
「──ッ!」
心臓がドキリとする
人の目を怖がってるから
その言葉が重く突き刺さる
何も返す言葉が見つからなかった
その通りだったから
バレていた事に
知っていて触れずに居てくれた直輝の思いやりがキシキシと心臓を締め付ける
「そんな、ことない……」
「くだらない嘘つくなっての」
「……」
「いいんだよそれで」
「え?」
「怖いって思うのは当然だから。 人にどう思われるか考えて当たり前だ」
「……」
「嫌でも人と関わって行かなきゃならない生活の中で怖がらずに飛び込む事なんて出来ないだろ」
「……だけど」
「俺は」
何か言わなきゃ、咄嗟に出た否定の言葉
だけど遮った直輝が
予想していなかった表情で口を開くから
驚いたまま目が離せなかった
「祥に無理して欲しいだなんて思ってない」
「無理なんか……」
「ゆっくり、いつかで構わない」
「……」
「祥の中で色々踏ん切りがついた時で。 一生隠してても構わない」
「でも……それじゃ……」
「俺と祥が納得出来ればいいんだよ。 でも2人揃ってビクビクしてたら疲れちゃうだろ? いつか嫌になるかもしれない、こんなコソコソした関係に嫌気がさす日が来るかもしれない」
「……ッ」
「だから、そうなっても平気なように俺はいつでも堂々と居るよ。 もしもバカにする奴が居ても鼻で笑って幸せだって言えるぐらい、祥を守れるように。 嫌なもの全部笑い飛ばしてやれるように」
「……」
「俺が祥の盾になるし、祥が苦しくならないようにする為ならなんでもする。 祥が逃げたくなったら俺がその逃げ場所になってやるし、泣きたくなったらいつでも涙拭いてやる」
もっと、苦しそうな表情をしていると思ったのに
俺が人目を気にして怖がっていることに対してもっと、傷ついて居ると思ったのに
俺の目を見てはなす直輝は
優しく笑っていて
傷ついた素振りなんてなくて
それ全部受け入れて俺と居るんだって
俺なんかよりももっと覚悟して付き合ってるんだって事に気付かされる
「傷ついて、ないの?」
「なんで?」
「俺が人目を気にしてるって」
「そんな小さな事でつまづいてたら今言ったこと一つも守れないだろ」
「……」
「まあでも。 プロポーズはもっとちゃんと伝えたかったな。 2人だけの時にしっかり言いたかった」
「……じゃあ」
「ん?」
「今、言って……」
「は?」
「……2人だけの時に、今」
何、言ってるんだろう
おかしな話だ
うまくフォローもできなくても
直輝にばかり負担をかけている事を知って
もっとほかに言うべき言葉があったはずなのに
「俺に、返事させてよ」
「……返事今しちゃっていいの? これから先嫌になるかもよ」
「ならない」
「ふっ」
だけどそれよりも伝えたい事があった
色々すっ飛ばして
俺達の未来に本当に明るい続きがあるかなんて誰も知らないし分からない
けど直輝がここまで思ってくれて言葉をくれて
俺も同じように伝えたい事がある
「んー、じゃあ毎日祥に起こして貰いたいかな」
「……なんだよそれ」
「それから、ただいまとお帰りがいつもある家がいい」
「うん」
「喧嘩しても帰る場所が同じ家だったらもっといいな」
「家出するかもよ」
「それでも迎えに行った後、帰る場所は同じ家だ」
「……ふふっ、うん、そうだね」
「だろ? それと、毎日沢山キスしよう」
「……」
「好きだろ?」
「うるさい」
「あ、エッチも勿論」
「だからうるさい!」
「1年がキスで始まって、終わる。 毎日笑顔で沢山笑う」
「……っ、うん」
「嫌なことはどうしても起きるしやってくるけど、ちゃんとひとつひとつ2人で乗り越えたい」
「大丈夫だよ、俺と直輝なら」
「……だな」
「うん」
「祥……、俺と結婚して。 ずっと一緒に、祥の傍に居させて」
「……っ、うん……っ、俺も傍に居させて下さい」
「ふふっ、本当直ぐ泣くな」
「ふ……っ、う……直輝ごめんね」
「んー?」
「苦し、っ、かった?」
「大丈夫だって。 誰だって怖いよ人の中で生きてるんだから、気にして当然」
「でも……ッグス……ずっと1人で、気づいてて、それで……」
「平気だって。 それでも祥は俺と居てくれた」
「〜〜っ直輝」
「泣くなって、また目が腫れる」
我慢していたものが溢れでる
人の目を気にしないで
直輝を好きだって胸を張りたいって思うたびに
同じくらい恐怖もつきまとっていた
後ろ指を刺されたら
関係が続けられないような気がしていたから
どうにも普通の中の異常は極端に弾かれる
同じ人間でも
大勢の普通から逸脱すれば仲間外れにされて理由のない悪意を向けられて
その事をまだ心から平気だとは言えなかった
まだ全部決意なんてできてなかった
直輝と離れることなんて嫌だけど
もしもそうなったなら一緒に居続けられるか不安だった
俺が好きでも直輝が嫌になるかもしれない
直輝が好きでも俺が逃げ出しくたくなるかもしれない
未来なんて分からないから
未来のことを考えるのは億劫で
だけど当たり前のように先の話をしてくれる直輝の言葉はいつも俺の背中を支えてくれていて
それは全部俺の弱い心を知っていた直輝の気遣いだったってこと、初めて気がついた
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