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再開
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バクバクと心臓の音がうるさい
直輝を見つめたまま体が縛り付けられたみたいに固まって動かない
息の仕方を忘れたみたいに呼吸さえも上手く出来なくて直輝から目が離せなかった
「祥……祥!」
「えっ、は、はい?!」
「何ボーッとしてんの撮影始まるわ」
「すみません……」
「早く」
「はい!」
今は仕事中だ
そんな事分かってるけど
でも後ろには今────
……え?
怜さんに引っ張られて走り出した矢先
後ろを振り返って直輝を見た瞬間、
パチリと視線がぶつかる
ドキッと瞬時に跳ね上がる心臓
頭が真っ白になって何も考えられなくなった時
ふいっと目を逸らされてしまった
俺、って気づかなかった……?
顔色一つ変えずに周りのみんなと楽しそうに話す直輝
まるで俺なんか居なかったみたいに
自然に流れていく時間
この狭いスタジオの中に
この距離に直輝がいても
三年ぶりに直輝に会えたとしても
やっぱり俺達の距離は離れたままだってことなのか
「……さっきのあのいい男と何かあったの?」
「へ?」
「あのイケメン見てからあんた顔真っ青よ」
「そ、んなこと……」
「……あんたの忘れられない恋人ってあいつ?」
「ーーッ! 違います!」
「……」
「それだけは本当に違います!」
「分かったから大きな声出さないで!」
「っ……」
怜さんのその言葉に心臓がひねり潰されるかの様な痛みが走る
ここで直輝と何か繋がりがあった事がバレてしまったら俺のこの時間が無駄になる
あの日、直輝を傷つけてまで手を離した意味が無くなってしまう
だからこの事は何があっても
どんな事をしても隠し通さなきゃならないことなんだ
「……似てただけです」
「え?」
「俺の幼馴染みに似てたんです。 そいつと喧嘩してるからなんでここにいるんだって驚いただけで、でも違いました」
「ふーん、あらそう」
「はい」
眩しい程の光が輝いて
フラッシュの先、
綺麗な女の子達が幸せそうな笑顔で笑っている
キラキラしていて眩しい笑顔
この女の子達に憧れて応援しているファンが沢山いる
芸能人、って
そういうものなんだ
誰か一人じゃなくて
大勢の人が色んな好きを抱えて
その好きに応えている
大袈裟な話
ファンが居なくちゃ芸能人はこの舞台に立てないんだ
それがもしも特別の誰かがいるって知れたら
夢を与えてる仕事に影響を及ぼすに決まってる
一般人と関わるだけでもとんでもなく騒がられるのに
それがもしも男だってなったら
世間に知れ渡る
大きな傷を残して……
だからそんな事絶対にさせない
直輝と一生話せなくて構わないって
この寂しさ全部をのみ込めてしまうほど
俺にとってその現実が与える痛みの方が
あの当時の俺も年を重ねた今の俺にとってもよっぽど怖いことなんだ
「撮影終わりでーす! お疲れ様でしたー」
グルグル物事を考えていても時間は止まらない
予定通りに撮影は終わると現場にはまったりとした時間が流れた
撮影が終わって一気に体から力が抜ける
朝から色んな事務所の仕事を請け負っていたのもあってクタクタだ
それに後ろで始終楽しそうに話していた直輝はいつの間にか居なくなっていたし
話したいことも聞きたいことも
何一つ聞けなかった
久しぶり、さえ声をかけることが出来なかった
「祥これ片付けといてね」
「あ、はーい」
「疲れてるなら明日でも構わないけど」
「いえ今片してから上がります」
「そ? ならお願いね」
「……怜さんこの後用事あるんですか?」
「何よ急に」
「なによって……だって服装変わってるから」
そう言うなり怜さんが妖しく笑ってふふんなんて楽しそうに鼻を鳴らす
さっきまで黒いスキニーパンツに白いシャツを着て、長い髪は後ろに束ねて優雅に流していたのに
今は髪も下ろしてツヤツヤで
おまけに女装している
それもとてつもなく美人なんだからこれがまたなんとも言えないわけで
「ふっ、ハンターしに行くの」
「……はぁご苦労様です」
「あんたも若いんだからもっと遊びなさい」
「俺は早く仕事覚えたいんで間に合ってまーす」
「そんだけいいもの持ってるのに宝の持ち腐れね」
「分かりましたから早く行ってください」
ジロジロと体中を見られてぶるっと悪寒が走る
有名なメイクアップアーティストってのもあるけど、怜さんの有名な理由はその手の早さもだ
気になったら兎に角味見とか言って
どこかしこでも押し倒しておっぱじめちゃうらしい
そんな人の下で働いてるから色んなことに対して耐性もついた
「よいしょっ、と」
ダンボールにつめた荷物を持ち上げて部屋を出る
この道具を機材室に置いたらもう今日は上がりだ
……結葵くん待ってるかな?
23時になる手前だし、急げば間に合いそうだ
廊下を早足で抜けて階段を登る
早まる気持ちに耐えられず大きく一歩を踏み込んだ時、ぐらりと視界が揺れた
「ッ!」
あ……落ちる……
捕まる事も出来なくて重力に引っ張られて後ろへと倒れ込む体
怪我しなきゃいいやなんて
どこか冷静な気持ちで痛みに耐えるためにぎゅうっと目をつぶる
ドン、っと大きな音がして
衝撃にうっと小さく呻く声が聞こえた
……けど、その声は俺のものじゃなくて
俺の下に下敷きになった別の誰かのものだった
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