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子猫と白ライオン
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戻ろう……
肩から力が抜けていく
必死になってバカみたいだ
何を否定するつもりだったのか
自分の弱さに何度呆れたのか
こんなに弱くなって迷うなんて
思いもしなかった
後ろを向いて控え室へと歩き出す
これで直輝もきっと俺に愛想つかして話しかけてこなくなるんだろうな
付き合ってる時から言われてたしね
俺、注意力が足りないって
簡単に誰にでも着いてくって
直輝の目に俺って今どんな風に映ってるんだろう……
一歩一歩足が鉛のように重い
これから仕事だなんて笑えてくる
もう気持ちは終わりの時間よりも暗いってのに
そう、思って溜息を零した時
誰かに後ろへと体が引っ張られた
「──ッ」
「……なんで追いかけて来ねえの」
「な、直輝っ」
「これじゃああの日とそっくり。 結局俺が祥の元に行ってる」
「……」
「俺に言いたいことあったんじゃないの?」
ぎゅうっと後ろから肩を包むように抱きしめてくる直輝が力を強める
耳のすぐそばで直輝に囁かれて
その懐かしい声にも体温にもまた俺の意思はグラグラと揺らぎ出した
あの日って……
ああ、そうだ
忘れるわけもなくて
あの日俺達が付き合った日もこうやって
立ち止まった俺の元に直輝がやって来たんだ
「な……い」
「ウソ」
「……ほんとに」
「じゃあ何に怯えてんの?」
「っ」
「俺が気づかないと思ってた? 今日、祥の所に行ったのはそれを聞くため」
「え?」
「誰かに脅されてる? 何か困ったことまた一人で抱え込んでんじゃないかって」
「……っ」
「答えて?」
「……っ、ど、して」
「ん?」
「どうして……直輝は俺に優しく出来るの?」
「っ、それ……聞く?」
「……」
「……俺が素直に答えたら祥も素直になってくれるの?」
「……なら、ない」
「じゃあ俺も言えないよ、祥……」
「ごめ、ん」
「……」
何期待したのかな俺
直輝からもしもあの言葉を聞けたら
俺もなにか言えたのかな
俺と同じく直輝もまだ俺のことなんて儚い空想は消し去るべきなのに
触れる直輝の体温とか
しゃべる時に震える声とか
俺を抱きしめてる優しい手とか
全部がもうあの日々と変わらなくて
ソックリで同じで懐かしくて
馬鹿な俺は期待してる
「……アイツと仲いい?」
「え?」
「あの餓鬼と、祥ってどんな関係なの」
「……結葵君は……ここで働いて仲良くなった友達」
「ほんとにそれだけ?」
「本当に……嘘じゃない」
「ふーん。 でも祥だからなぁイマイチ信用ならない」
「……」
「でもまあ祥がイイヤツって言うなら否定しないよ」
「……ありがとう」
直輝がくすりと笑って零すその言葉
昔一度言ってた話を思い出した
俺が大切にしてる人は直輝も大切にしたいからって
そんな事言ってくれる直輝がまだ
三年経ってもここに、居るんだ
「あ、のさ直輝……」
「ん?」
「いつまで、こうしてるの?」
「あー……ねー、ほんといつまでこうしてよう」
「……誰か、来たら」
「……」
「人に、見られちゃ……まずいからっ」
「……ん」
「直輝……」
「わかってる。 でも後10秒だけこのままで居させて」
「……っ」
肩におデコを乗っけて直輝が静かに数を数え出す
10秒なんてそんなのあっという間に過ぎてしまう
あんなに直輝と別れたあとの時間は
永遠に続くんじゃないかって
怖くなるほど長かかったのに
今は逆に一瞬のように早くて
10秒後、この暖かい温もりが消えてくことが寂しい
「にいーい」
「……」
「いーちっ」
「直輝っ!」
「ん?」
「ね、猫……好き?」
「は?」
「猫……猫をね一週間前拾ったの」
「へー子猫?」
「うん……それで凄い弱ってて入院したから今は元気で俺がいない時は陽に見てもらってるんだけど」
「そうなんだ」
「……人に慣れてなくて……直輝猫、好きだったなぁて……それで」
「なぁ、それってお誘い?」
「へっ?!」
「回りくどいけど要するに家に来ないかって言いたいんだろ?」
「ち、ちが!」
「違うんだ?」
「〜〜っ!」
「ふっ、天邪鬼は相変わらずだな」
「うるさい……」
回りくどいなんて言い方しなくてもいいじゃんか……
これでも俺なりに必死に考えた誘い文句だったんだから
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