アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ズレ出す歯車
-
「ほら飲めよ」
「お、さんきゅ〜」
理由なく心臓が痛み出して
隣で静かにクッションを抱きしめて喜んでいる爽を見ていられなくて取り上げた酒を返す
三年前の爽はいけ好かないやつだった
見た目は名の通り爽やかなやつで
だけど中身は真反対で
仲良くなるとは思ってもみなかったぐらいだ
案の定俺にヤッカミはかけてくるし
ことごとく小学生みたいに絡んでくるし
本当にいつかどこかで痛めつけてやろうかなんて事も思っていたのに
「直輝」
「ん?」
「……したい」
「なに?」
「キス、したい」
「女でも呼べよ。 俺は帰るから」
「ちげーよ!」
「なんだよ」
立ち上がった俺の腕を爽が掴み引っ張り出す
冗談でも、二度も爽とキスをする気は無い
あの日にしたのは俺の知らないところで祥とキスをした事に妬いたからだ
俺以外の別の男と祥がキスしただなんて
あの時の俺は余裕なんてなくて、
祥の前で普通のフリをするので精一杯な餓鬼だった
「あの時してくれたじゃんかよ」
「何度も言わせるなよな……。 あれは消毒、お前が祥の唇の感触覚えてるだなんて殴ってやりたいぐらい腹たってたんだよ」
「……まだ祥くんの唇の感触覚えてるし」
「……」
「まだ、全然、覚えてる」
「……爽」
「キス、しろよ……消毒しろよ直輝」
グイッと手首を強く引かれてソファに体を沈めている爽の上に倒れ込む
片手で体重を支えて爽から距離を取るものの
爽の手は俺の右手首と頭の後に添えられていて、熱に浮かされた瞳は潤みながら真っ直ぐと見上げている
「直輝……」
「辞めろ」
「……っ、お願い」
「……」
俺も酔っているんだろうか
ゆらゆらと揺れ動く爽の瞳からは
今にも涙が零れ落ちそうで
ズキズキと痛みは増して行く
三年前の爽も、今俺の下に居る爽も
ずっと変わらず居たのかと思ったら
自分を爽に重ねて見ているようで
心臓が、頭が、痛んで堪らない
「さっき言ったこと忘れた?」
「……構わない」
「一線越えたらもう二度と爽と話さないよ。 知ってるだろ? 俺が冷たい最低なヤツだって」
「知ってる。 お前が女遊び激しかった時に大抵女紹介したの俺だぜ?」
「ふっ、懐かしいな」
「直輝まじで容赦なく切り捨てたもんな。 俺が狙ってた女の子も片っ端から直輝に惚れてさ、まじで腹たってた」
「女が俺を選んだだけだろ? 俺は何も悪くない」
「ムカつくな! そういう所が大嫌いなんだよ!」
「そりゃどうも」
「でも……そういう最低ぶってる癖に……何だかんだいい奴だからもっと腹が立つ。 言い訳とか、お前、しねーじゃん」
「……」
「本当に嫌なやつなら俺はお前のことなんかとっくに大嫌いになってた筈なのにな……っ」
笑う爽の声が震えていく
掴まれた手首が熱い
爽に触れられたそこから悲しみが流れ込んで来るようで振りほどきたい衝動に駆られるのに
何故か出来なかった
瞳を覆った手首の下から覗く
爽の頬が濡れていく
俺に涙を見せないように目を隠して、顔を隠して、声を押し殺した爽が
静かに、静かに、涙を流して泣いていた
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
272 / 507