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約束のクランクイン
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一瞬の沈黙を先に破ったのは直輝だった
「本気で言ってる?」
「冗談に見えるの?」
「……はぁ。 なぁ、ちょっと待てよ…… 急におかしいだろ」
「どこが? 何もおかしくない。 久し振りに直輝に会えてそりゃ少し浮かれたよ、だけどここ数日仕事しててやりにくいって気づいた」
「仕事の邪魔になる様な事した覚えはない」
「直輝には無くても、直輝のその存在が邪魔なんだよ」
「……どういうことだよ」
「分かんない? 直輝と関わりがあるってだけで仕事貰う度に俺は直輝の名前に埋もれる。 誰も俺の実力を見ようとしない」
「祥がコネで仕事を貰ってると思われてるって?」
「……そうだよ。 だから邪魔なんだ、俺は直輝と違って本気でこの仕事に懸けてるから」
「……」
「お遊びとか暇つぶしとかそんな直輝の気分でとは違う」
「だから俺と関わりたくない?」
「うん……直輝と幼馴染みとか繋がりがあるとかそういう意味で名前が売れるのは嫌だから」
真っ直ぐに俺を見つめる直輝から瞳をそらさずに見つめ続ける
ほんの少しでも戸惑ったらバレてしまう
嘘が十八番の直輝にとって
嘘を見破るなんてお手の物だろうから
どれだけ酷い言葉だったとしても
言うって決めた
「……それが話したい事?」
「そう」
「分かった。 今度は俺の話したいこと話していいか」
「……」
「すぐに済む」
「……うん」
何を言われるんだろうか・・・・・・
頷く俺を見るなり直輝は伏し目がち視線をそらして睫毛の影がかかる瞳は黒く輝く
その横顔が哀愁を漂わせていて
薄く開かれた口元は笑みを浮かべているのに直輝は今にも消え入りそうな雰囲気だ
「俺は今日楽しみにしてたよ」
「……」
「祥と会えるから。 三年分の祥の成長を見れるから」
「……」
「何よりも祥とまた昔みたいに戻れるって期待してたから」
「ーーッ」
そう言って顔を上げた直輝の瞳は
さっきまで陰っていたのが嘘のように真っ直ぐでいて俺の心を揺さぶるように射抜く
そんな言葉を、そんな目で訴えかけるのは卑怯だ
だって
だって俺もそう思ってたよ
直輝とまたやり直せるって
三年分をもう一度この時間から再開出来るんだって
「だけど俺の勘違いだったみたいだけどな」
「……」
「祥にとって俺の存在が迷惑だって言うなら邪魔しないようにするよ」
「……ありがとう」
「仕事頑張ってるんだな……俺も祥の事応援してるから出来る限りの事は協力したいしさ」
「……」
「……言うつもりなんてなかったけど逆に良い機会なのかもしれないな」
「なにを……?」
俺に言ったんじゃなくて
一人なにかに納得するよう直輝が呟く
それから数秒後、顔を上げた直輝の
その言葉を聞いた事を俺は死にたくなるほど後悔した
「俺は今でも祥が好きだったよ」
「え――」
「この三年間もずっと祥が好きだった、帰ってきた今も好きだった」
「……」
「だけど俺が馬鹿だったな」
「なおき……ッ」
「とっくに祥にとったら過去の人間だったのに勝手に期待しすぎてたみたいだね」
「っ」
そう言って笑う直輝は
昔よく見た感情のこもっていない笑顔
綺麗過ぎて整い過ぎた完璧な嘘の笑顔
驚きに見開いた瞳が揺れ出すと
抑え込んでいた感情か一斉に蓋を押し上げる
諦めた様に笑うその姿に心臓が痛み出して
悲しそうなその声を塞ぎ混んでしまいたくなる
何故こうもタイミングは悪いんだろう
なんで俺もこんなに好きなのに
「好きだ」って一言を言う事が出来ないんだ
どうして好きな人に向かって「好き」と言ったらならないんだ
消えそうな直輝の手を取りたいのに
傷つけた直輝に償いたいのに
俺はどうしたらいい
どうしたらまた直輝の本物の笑顔を見られるんだろう――
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