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愛し方の選択
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***
「せ、聖夜君っ遅くなってごめんね……!」
「……お帰り綺月さん」
「ただいま聖夜君。 あれ、祥君寝ちゃってるの?」
「ああ、さっきまで綺月さんに会うんだって駄々こねてたけど今はすっかり寝てる」
「わぁ……それは悪いことしちゃったなぁ」
「少ししたら起きて来るだろうし、大丈夫だろ。 それより綺月さん何か飲む? 腹減ってるだろ?」
「ふふっ、うんありがとう。 外凄い寒かったけど今は、暖かいね」
「ッ、……迎え行けなくて悪い」
「ううん、平気。 聖夜君の笑った顔みたらホッとしちゃった」
あの後居酒屋で酔い潰れてしまった祥を抱えて俺達は家へと帰ってきていた
遅くから飲むには綺月さんにも悪いし
仕事に響くだろうからって事で説得して
しぶしぶ納得してくれた綺月さんが
寒い外から帰ってきたばかりでかじかんだ手を伸ばして俺の手に重ねてくる
控えめに甘えながらくすりと微笑んで隣に腰掛ける恋人を見ていたらさっきの祥の言葉が脳裏を過ぎた
俺だってもしも二人と同じ状況にたたされていたら一体どうしたんだろうか
相手の幸せを願う事も
相手と居る幸せの為に何でも捨てることが出来る事も、祥の気持ちも直輝の気持ちも痛いほど分かるからこんなにも胸が痛むんだろうか
綺月さんが帰ってくる前ほんの少し前に
眠っている祥が漏らした「どうして好きな人に好きって言っちゃいけないの?」なんて全てを物語る言葉がズキズキと心臓を痛めていた
「……聖夜君、どうかしました?」
「いや。 どうにかしてやりたくても、どうにもならねぇことって歯がゆいなって」
「……。 そうですね。 乗り越えるのはいつだって本人達の力だから、それをどうにかしたくても力が及ばないのは心苦しいですよね」
「……」
「でもそういった聖夜君の心遣いも悔しさもきっと相手には伝わってますよ。 自分のことみたいに悩んでくれる友人が居るのは幸せな事ですから」
「……綺月さん」
「はい?」
「また敬語になってる」
「あ……!」
「外から帰ると直ぐに昔の癖で敬語になるのなかなか治らねぇな」
「ご、ごめんなさい……」
「いや構わねーよ。 これからゆっくり二人で変えていけるだけの時間はあるんだしな」
「ッ! な、なんか急に熱く、なってきました……」
「……」
パタパタと手で風を送って
赤く染まる顔を隠した綺月さんの横顔を見て胸の痛みがじんわり和らぐ
『愛したい人がいて・・・・・・
もしもその人の傍に寄り添えなくても
もう構わないんだ
愛することはできなくても
愛し方を選ぶ事は出来るから
離れるしかなくても
ずっと愛してる・・・・・・
俺には普通の幸せをあげることが
できないから。
直輝の子供を俺は産んであげられない
何度体重ねても女性にはなれない
いつかその事に気づいて捨てられるのは
────死んじゃうことよりも苦しい』
酔い潰れかけた祥が漏らした独り言
俺に話してるとかそういうんじゃなくて
きっと抑え込む事が出来なくなった
飲みこみきれなくなった言葉
その重さに、喉の奥が締め付けられた
愛することはできなくても
愛し方を選ぶことは出来る
そう零した祥の愛し方は
直輝とは別の道に立つ事だったんだろうか
どの選択をしたか迄は分からないけど
まだ間に合うチャンスがあるなら
二人で生きる道に希望も持って欲しいとは思わずには居られなかった
「綺月さん、愛する事はできなくても、愛し方を選ぶことは出来るって……どう思う?」
「……綺麗な言葉だね。 祥君らしいなぁ」
「や、祥じゃなくて……」
「ふふっ、そっかそっか、うーん……そうだね。 私はその言葉とっても分かるな」
「……」
「愛し方は誰かと一緒に居なきゃならない、なんてことは絶対じゃないし……それに時によっては離れなきゃならない時もあるよね」
「……わかってるけど。 好きなら一緒に居てーよ俺は」
「ふふっ。 うん、悲しいんでしょ? 好きなのに、愛してるのに、どっちも救われないって苦しいよね」
「……ん」
「でも大人になったら心の思うままに動く事なんて出来なくなっちゃうから、きっとその子は大人としての選択をしたんだろうね」
「だったら俺はずっと餓鬼がいい」
「あははっ、うん……聖夜君、大好きだよ」
「……俺も」
「……早く二人がお互いに納得して進めたらいいね。 でもきっとどれだけ遠回りしても傷つけあってもお互いが好きあっていたらもう一度ぐらいチャンスはやってくるって信じたいな」
「……」
「聖夜君、もしかして泣きそう?」
「なわけねぇだろ」
「ふふっ、祥君が起きてきたらきっと気持ち悪くなるだろうからお腹に優しいものでも作ってあげましょう!」
「……綺月さん料理出来ねぇだろ」
「うぅ……それは酷いよ聖夜君……」
「ふっ、綺月さん好きだよ」
「……私も好きですよ」
静かに視線が絡まってゆっくりと唇を重ね合わせる
俺がこうして綺月さんといれるのは
祥と直輝が居てくれたからだ
だからこそ二人には幸せになって欲しい
友人として出来ることはなんなのか
二人が出した答えならどれだけ受け入れ難くとも否定をする事はないだろう
どちらの一番の見方でいてやりたいから
だけど出来ればまた喧嘩して笑いあってる
直輝と祥が見たいと思うのは余計なお節介なのか・・・・・・
そんな祈るような事しか出来ない自分にやるせない思いだった
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