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撮影旅行
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◇◇◇◇
「うおー! こっから見たら楽しそうな海だぜ直輝」
「……見ればわかる」
「キラッキラしてるけど今が冬ってことあの監督忘れてるだろ。 お陰で海辺のシーン死ぬかと思ったわ〜」
「……」
洋館から見えるさっきまで居た浜辺を見ながら楽しそうに爽が騒ぐ一方、俺は目を瞑って机に伏せていた
連日のテレビや雑誌の取材
おまけに一応学生の身であるから課せられた課題やらで睡眠時間が一時間あるか無いかの生活だ
昨日、一昨日とこの撮影の為に仕事を詰めたせいで二日も徹夜をしているからなのか頭痛までしてくる
寒い中撮った海辺のシーンは凍えるほどに寒くてやっと終わったと落ち着く間もなく次の撮影が始まるし。今はとにかく隣で猿みたいに五月蝿い爽の口を塞いでやりたい気持ちでいっぱいだった
「なあ! おい直輝聞いてんのか」
「……チッ」
「ひ……っ」
「またあの海に裸で何時間も沈められたくないなら黙れ」
「な、なんで機嫌悪いのお前……」
「喋んな」
「……えー、なにそれ理不尽」
「あ?」
「だ、黙ればいいんだろ! この糞短気!」
だから一々大声をあげるなって言ってやりたいけどそれさえも面倒だ
普段なら何とも感じないことが
一々気に障る
爽の事は嫌いでもないし
爽は全く悪くないと分かっていてもついキツく当たってる事に自分でも気づいているから、尚更腹立たしくなって焦燥感に駆り立てられるこの無限ループだ
1人モヤモヤとしたまま考え込んで居た時もっとうんざりする声が聞こえてきた
「紺藤結葵さん入ります!」
「おはようございます」
「結葵君宜しくねー」
「おはよ!」
しくしくとわざとらしく落ち込んだ振りをしていた爽が俺の横で静かに肩を落としている
紺藤さえ悪くない事は分かっていても
今一番関わりたくないやつの名前を挙げるなら間違いなくそいつだろう。
祥と付き合ってるんだとか
ちゃんと笑わせてやれてるのかだとか
こんな餓鬼に取られたのかと思う反面
応援してやりたいとは思ってはいるんだ
でもそれを邪魔するのは自分の捨てきれない未練。
それからいつ見ても祥の顔が晴れてない事が何よりも腹立たしく思う原因だった
「……むかつくな」
「え?! なんか言った?!」
「……うるさい口開くな。 ついでに酸素吸うのも辞めろ空気が不味くなる」
「な……! お前本当になんなんだよ!」
「……」
「1週間ぐらい前からお前おかしいぞ」
「どうだろうが関係ないだろ」
「そういう言い方すんなよ」
「だったらまとわりつくな。 ベタベタ、ベタベタ、お前なんなの?」
「……どうしたんだよ急に」
「俺の横に居て何がしたいわけ? 世話焼きたいの?」
「お前……本当に変だぞ。 直輝らしくねぇよ」
「俺らしくないって爽に何が分かる?」
「……」
ピリピリとした空気が流れる
思っても無くても苛立つままに口から出る言葉は爽へとぶつける様に飛び出して、どんどん曇って行く爽の表情が同じように厚い雲が太陽を隠す空模様と重なった
「だからそうやって苛立ってたりピリピリしてたりいつもは余裕そうな顔してる癖になんだよ。 何があったんだよ」
「触んな」
────パシンッ
伸びてきた爽の手を思わず払い叩いてしまう
最近人の体温が駄目になった。人に触れられると思うとぞわりと粟立つ嫌悪感が湧き上がる。そんな説明しづらい理由なのであって爽が嫌なわけじゃない
けれどそんな事を知らない爽は俺に拒絶されたことで息を呑んで黙り込む。
酷く傷ついた顔をするその表情にズキンと心臓が軋む音を立てた
「……」
「……ッ、……」
「直輝」
「余裕なんかねーよ……」
「……え?」
「もう終わったって知ってもスッキリもしない。 ましてや腹立つばっかで俺が見たかったのはあんな顔じゃねーのに……っ」
「……」
まるで言い訳をするかのように弱々しく溢れた本心に驚いて慌てて口を結んだ
ここ最近付きまとう考えを溢したところで俺が今爽を傷つけた事が正当化されるわけもなくて、八つ当たりする事への言い訳に使ったようで気分が悪い
ああ、本当に俺らしくない
1人でイラついて関係のない人に当たっている
心配をしてくれている人を鬱陶しく跳ね返して罪悪感を感じてる癖にそれでもまた優しくしてくれた人達の顔を黒く塗りつぶしてる
どう謝ろう
なんて説明しよう
グルグルと頭の中を駆け回る幾つもの考えに嫌気がさして開きかけた口を結ぶと
ひとつ呼吸を置いて爽へと顔を上げた
「……悪い。 まじで今は放っといて。 爽に八つ当たりしてばっかだから頭冷やしてくる」
「……待てよ」
「……」
「八つ当たりしてもいいから一人になろうとするな」
「……罵って欲しいって?」
「ちっげーよ!」
「気遣い合う仲でもないだろ。 気にしないで放っといてくれていいって」
「だから!」
「……」
「……だからさ、気遣うとかそういうんじゃねーの。 直輝が言ったとおり俺がただ世話焼きたいんだよ、お前の傍居たいし八つ当たりとか俺が少し大人みたいでまあ悪くもねーし? ……とにかく一人にしたねーの」
「……馬鹿だろお前。 俺だったら御免だ」
「俺は直輝と違って心が海よりも広いからな」
「……それこそうるせーよ。 本当に海に沈めるよ」
「……それはやめて頂きたい」
「……」
肩をすくめて爽が微笑む
素直に謝ろう
そう思ってもなかなか口から言葉が出ないのに何故だか爽と居ると本音を零してしまうんだ
それが嫌で、それが怖くて、
だから爽に近づいて欲しくない
何でも笑って流す姿を見てると思い出すから
息苦しいまま
ずっと変われていない事に気づくんだ
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