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雷鳴と懺悔の言葉
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「だけど彼は僕から離れなかった。 酷い罵りを受けて、酷くされても僕の傍を離れなかった」
「……うん」
「その時気づいたんですよね、自分の愛し方が歪んでる事に。 気づいてからは酷かった、何度となく彼を傷つけたしボロボロにした。 そうやって彼の僕に対する愛情を試す様なことばかりをして、何処まで許されるかを確認して、離れない事を確認する度に胸をなでおろすんです」
「……」
「でも僕が好きだったのは彼でも彼からの愛情でもなくて、どれだけ酷いことをしても僕の傍を離れない絶対的な何かばかり追いかけてるのに気づいてからは彼の事は避けました、僕から」
「話してないの?」
「……はい。 高校に入ってからはまともに顔を合わせて居ないし、今でも家の前で待ってたりしてるのを見ても素通りして見ない様にしてる」
「……」
「僕はいつか必ず大切な人を自分の弱さで壊します。 それを望んでいるし、それが僕の愛し方で、だけど世間とは相容れない行為何だって事は分かってるから」
結葵君がふとこちらを見る
何も感じない、そう言いたげな瞳が冷たくて
きっと結葵君が話すその大切な人も
俺と同じように結葵君を映して
そんな結葵君を放っては置けないんだろう
「独りで居る事よりも、綺麗な愛し方に溺れる方が嫌なんです。 テレビのドラマみたいな話や今撮っている映画も……祥さんの言う愛も、嫌い」
「うん……」
「そうやって言っても結局は裏切る人ばかりでしょ。 純愛なんて自分に酔ってるだけだって、大人になれば愛が無い結婚をして子供が出来て冷めた家庭を築いて他のどこかで心酔する為に不倫をする。 そんな結果が見えてる様な関係はもう要らない」
そう言って微笑む結葵君の横顔が月の光に照らされている
結葵君は気づいてないんだろう
自分を嘲笑っていてもその表情は苦しいと訴えていることに、何もかも捨てたと呟いた彼は気づかないんだろう
「……この傷は僕の父親に付けられものです」
「……」
「滑稽でしょ。泣くたびに押し付けられた」
「どうしてそんな……」
「泣くから……一度泣けば直ぐに教育だって。 だから僕も泣き止む様に必死になるけど、でも10にも満たない子供がそうされて泣き止むわけがない。 だから僕が気絶する迄何度も何度も地獄みたいな時間だった」
「……」
「でも今となっては有難いですよ。 それが人間だって初めから醜いものとして教えてもらえましたしね。 ……無駄に期待して裏切られるのはもうウンザリだ」
下唇を噛み締めて俯くその姿にチリチリと胸が焼き付く
ずっと独りだったんだろうか
誰にも助けを求めないで
父親の言う通りに泣くことを辞めるように自分を責めて来たんだろうか
結葵君の言葉を聞く度に
陽の顔が頭にチラつく
助けてやれなかったことは
結局、俺も傷つけた人と同罪なんだと
取り返しのつかない痛みが喉を締め付けた
「ねえ結葵君……。 結葵君はそれでも……期待、してるんだろ?」
「……」
「それでもやっぱりどこかで期待してるから俺の事試してる。 違う?」
「祥さんは面白い事言いますね。ただの暇つぶしだって言いませんでした?」
「嘘だよそんなの。 また、嘘ついたでしょ今……自分の心に自分でトゲを刺してる」
「……違います」
「じゃあ結葵君は人形みたいに自分だけを愛してる人を求めてるの? 結葵君だけを求めて、結葵君だけを見つめて、結葵君だけを愛してくれる中身のない空っぽな人間?」
「……」
「考える事が、意志がなくなったらそんなのはただの人形と同じだ。 呼吸を繰り返すだけの生きた置物だよ」
「それで構わない。 考えるから痛いんじゃないんですか? 考えるから裏切るんでしょ?」
「そうかもしれない。 でも自ら選択する事が出来るから生きてるって思える。 選択しなかった別の未来を考えて後悔することもあるけど……でもまた選んで進む事も、立ち止まる事も、情けなく思い出に縋る事だってできるんだよ。
誰かを自分の心が愛そうとするから誰よりも強くなりたいって願うんだ。
どうかその人が笑顔で生きられますようにって愛してる人が幸せじゃないなら苦しいから幸せにしたいって思えるんだ」
「はっ……馬鹿じゃないんですか? 僕の話聞いてました? 僕はそういう薄っぺらい愛情が嫌いなんです。 ……結局皆最後は僕を捨てた……ッ、そう言って僕に愛を教えた人は皆父親に金で雇われてた!」
荒くなったその口調が言葉が
結葵君の悲痛な訴えのように聞こえて息が詰まる
言いたいことは理解も出来る
結葵君の考えを否定するつもりだってない
けれどいつかはわかってほしい
裏切ったとしても結果が最後が悲惨な終わりでも本当の気持ちだって存在していた
嘘になった言葉だって
その時には生きていたんだ
誰かと交わしたその時には
本当の気持ちだって人も居るんだ
「だからって空っぽにする事を結葵君が本当に求めてるとは思えない……誰かを愛そうとしないのに……誰かを信じようとしないのに……ッ、それなのに結葵君を愛そうとする人が現れるわけがない。 自分が一歩でも進まなきゃずっと、ずっと、結葵君の本当に求めてる愛は貰えないんだよ……ずっと独りぼっちは悲しいだろ……?」
「……だったら教えて下さい」
「……っ」
「愛しかたなんて教えて貰ってないんです。 心の開き方の練習さえしてないんだ。……両親にさえいつもいい子でいた。 練習した事ないままいつも僕に愛を教えた人達はその裏にお金が絡んでました。 それなのにどうやって人を愛せって? 正しい愛し方なんてもの、要りません」
「でもいつか必要な時が来る。 結葵君の口で今嫌いだって言った愛が、きっといつか本当に必要だったんだって気づく時が来る」
「……そんなの無いですよ。 来たとしても僕は選ばない」
「……」
「祥さん、僕ね、眠る時間が一番嫌いなんです。 心臓の音がする度、生きてる音がする度、生にしがみついてない自分に気づく。 昔映画を見ました、そのラストが僕にはとても理解出来た…… 一緒に見た人はおかしいって嗤ってたけど、その映画の様に好きな人の手で最後を迎えられたら僕はその時初めて幸せになれる気がする。 僕を殺した瞬間、その人は本当に僕のものになるんだから」
ゆっくりと近づいてくる結葵君の手が頬へ伸びてくる
ヒヤリと冷たいその手の温度にぞくりと背中が震えた
「……祥さん目閉じて」
「……」
覆いかぶさった結葵君の手が視界を遮り瞳を無理矢理に閉ざさせるとどうしようもなく泣きたくなる様な言葉を漏らした
「……祥さんだったらいいのに」
「……」
「僕のこと殺してくれるの祥さんだったらいいのに」
「──ッ」
真っ暗な視界の中冷たい言葉が響いた
手よりも冷たい唇に感じた氷のような温度に心臓の奥から悲しくて堪らない気持ちが溢れた
今一番泣きたいのはきっと結葵君なんだと知るには十分過ぎる程に悲痛で悲しく冷たいキスだった
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