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月夜の庭、踊る星
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八時になって開催された打ち上げパーティーは楽しそうで大盛り上がりだった
ダンスフロアでは皆思い思いに踊ったりしていて、顔を隠しているからなのかいつもよりも大胆で沢山の笑い声で包まれている
やっぱり中には女優さんと近づこうとしてる人がいないわけもなくて、特に広場の方は人が多くて見ているだけでも十分に満足だ
あえて騒がしいのに入っては行かずゆっくりと落ち着いた時間を過ごしてる人達も居て、俺もそんな人達と一緒に端の方でドリンクを飲みながら会話をしていた時後ろから伸びてきた手に腕を取られた
「ーーッ!」
「こっち来て」
「え、ちょ……っと待て」
振り返っても顔がわからない相手に戸惑いながらも誘われるがまま、ダンスフロアへと手をひかれる
ダンスなんて踊れないし踊ったこともない
だからキラキラした中へ入るのは億劫で断ろうとしたけど相手の力が強くてあっという間に踊る皆の中へと入り込んでしまっていた
「わっ、あ、あの!」
「……」
「俺……っ、踊れない……!」
「俺がフォローするから」
「いやちょっと……」
そういう問題だけじゃないのに
気分が乗らないってこともあるし
とにかく無理矢理なこの人になんて言って断ろうかと悩んでると腰を引き寄せられてギョッとしてしまう
「いやいや! ほんとに辞めて下さい!」
「でも今辞めたら皆にぶつかるから一曲の間は我慢して。 それまでに端っこに移動しよう」
「……」
再び流れる曲に合わせて皆がワルツを踊りだす
クルクルと回ればヒラリと花のようにドレスが舞って
女性をエスコートする男性は紳士でいてかっこよくも優雅だ
俺達の他にも同性同士で踊っている人が居るけれど、それでも、離れたかった
ぎゅっと抱き寄せられてエスコートされる度に香る匂いにも、しっかりと握られている手から伝わる温度と感触にも
仮面をしていても例え髪色が違くても
間違えるわけがない
「……っ、本当……最低だな……ッ」
「……」
「お前……ッ、バレないとでも思ってたのか?」
「さあ、何のことか分からないな。 今は仮装パーティーなんだし誰かを探るのはルール違反だよ」
「ッ」
淡々と話すその口調や声にも
上手くステップが取れなくてバランスを崩す度に抱き寄せられる腕の中も
何もかもが変わっていなくて泣きたくなってくる
キラキラしている浮世離れしたこの空間とは反対にグチグチと傷が痛み出して喉の奥が締め付けられた
「ワルツ踊るのは初めて?」
「……」
「機嫌悪いね」
「……当たり前だろ」
「今は誰が誰かなんて分からないんだから楽しむべきだろ。 それとも俺のこと他の誰かと勘違いしてる?」
「いい加減にーー」
「……」
カッとなって顔を上げた時
間近にあったそのふざけた誰かと顔が被さって時間が止まったように呼吸を忘れる
仮面で覆われていないお互いの唇が触れるように重なった時、心臓が痛くて痛くて堪らなくなった
こんなの、卑怯だろ
お互いどんな格好してたってわからない筈がない
俺もお前も三年前まで
あんなに近くに居たんだから・・・・・・
ほんの数秒にも満たないたった少しの時間だけのキスだっていうのに溢れ出そうになる悲痛な声をのみきれなくて、怖くて堪らなくなった俺はその場から弾ける様に駆け出していた
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