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テキーラ・サンライズ
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「はぁ……やっぱり無理」
家に真っ直ぐ帰ってきて一時間弱。
シン、と静かな空間が嫌で適当に音楽を流してみても気分はしらけたまま。
今はもう忘年会シーズン真っ只中で携帯にはひっきりなしに誘いの連絡が来るからそれも鬱陶しくて電源を切った。
「……はぁ」
もう何度目のため息だろ。
さっさと寝ようとシャワーを浴びてベットに潜っても全く眠くなくて、寧ろ目が冴えてる。
昔だったなら今頃適当な誰かと空っぽな愛情の受け渡しをしていたんだろう。
肌を重ねて、快楽を高めあって、好きだと口にするのは中身の無い言葉。
人肌が恋しいんだって事は気づいていた。
自分が一番自分自身の弱さは分かっている。
俺はきっと、人一倍寂しさに耐えられない。
だからふらふらと求められるままに生きていたんだから、それを急に何が起きたかと驚く程にピタリと辞められたのは耀さんの存在があったから。
初めは一週間持てばいい方だなんて思ったのに出会ってから半年以上。
年越しも一緒に過ごすなんて初めての事で驚きだ。
でもそれもこうも疑いをかければ満たされる所かどんどん枯渇していく。
だったらさっさと付き合っちゃえばいい話だろって言われたらそれだって違うだろって思う。
付き合うことは簡単だけど、大切なのは、大切にしたいと思った人を本当に大切にできるかって事なんだ。
俺にとって誰か一人に縛られる経験が無いから、ましてや流れる様に生きてきた俺が、一人の人をずっと好きに居られる自信なんて無かった。
「……無理だ。 酒買いに行こ」
立ち上がって鞄の中を漁る。
けど幾ら探しても目当ての財布は見つからなくて、耀さんの家に置いてきたんだと気づいた。
「……」
行ったら迷惑かな……
いやでも、財布取りに行くぐらいなら仕事の邪魔にはならないだろうか?
ぐるぐる考えて、暫く立ち止まって、結局取りに行くことにした。
耀さんの家まで車で行けば直ぐに着く距離だし、まだ日付も越えてない。
そう決めてからは動くのは早かった。
適当に着替えてキーだけ持って車に乗り込む。
通い慣れた耀さんの家までの道を夜の中走り抜けて、たどり着いた時には丁度新しい日付に変わる頃だった。
「あ、携帯忘れた……」
連絡しようと思ってハッとする。
耀さんに会える事に浮き足立っていたせいで携帯を持ってくるのを忘れてしまった。
何だか最近俺までぼんやりしていて、しっかりしなければと思う。
携帯が無いのなら仕方ない。
インターホンを鳴らしてエントランスを開けてもらうために車を寄せて留めるとマンションへと向かった。
「……」
ん?話し声がする。
暖色のオレンジ色に包まれるエントランスが近くなると、なにやら人の話し声が聞こえてきた。
こんな時間に帰ってきたんだろうか。
お疲れだろうね。
耀さんも仕事、頑張ってるのかな。
そう考えながら思い浮かぶのは知的そうな涼しげな目元を細めて笑う仕事中の耀さん。
……確かにあのおじさんかっこいいよね。
普通に惚れてもおかしくない。
性格も鈍感だし人に好意寄せられても気づけない天然タラシだ。一番厄介なヤツ。
はぁー、とため息を零しながらエントランスの黒い木で縁取られた洒落た押し扉に手をかけようとした時、聞き慣れた名前にピクッと歩みが止まった。
「か、がりっ……俺、っ俺」
「……大丈夫だ。 俺が居る」
「でもっ、もう、無理なのかなぁ……ッ」
「泣くな夏紀」
「耀ッ、う、っう……耀ぃっ」
「……」
……、俺ほんと馬鹿なのかもしれない。
目の前の光景に手足の先が冷えていく。
肩を震わせて泣く男の人を強く抱きしめているのは耀さん。
見えた表情はあの夜に見た切なそうな表情。
ナツキと呼ばれたその人は耀さんの胸に抱きしめられて泣いていた。
そんなナツキさんの背中に腕を伸ばして抱き締める耀さんは、心の底から、その人を大切に思う様な瞳をして、優しく髪にキスをしていた。
ーーああ、無理だ
何よりも率直にそう感じた。
ナツキさんと耀さんはただの慰め合うだけの友人なんかじゃない。
俺が知らないもっと、もっと、深い所で繋がってるようなそんな関係。
だって、俺はあんな耀さんを見たことがない。
あんな、心から愛しいと思うような、切ない表情をした瞳に、俺は一度も出会った事が無かった。
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