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テキーラ・サンライズ
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「夏紀おめでとう」
「なっちゃーん、百合ちゃん、こっち向いて写真撮るよ〜」
真っ青な高い青空の下、チャベルの下で夏紀が照れたように笑って立っていた。
雲一つない青の空に輝くのは太陽の光に透けた金色の髪。笑う度に細められた瞳から見える綺麗な宝石の様なブルーの瞳。
どこの王子だとツッコミたくなるほど絵に書いた様な夏紀のタキシード姿は想像以上にかっこよかった。
「夏紀っち、こっち!」
「あ、怜!」
「俺ともさっさと写真撮ってよ」
「アハハっごめんごめん。 よーし! 怜との写真は今迄で一番の大笑いにするぞー!」
「それは百合さんとにとっときなよ」
百合が友人に呼ばれてすぐ、怜が夏紀の手を取り何処か移動する姿を目で追いかける。
……俺は結局、来てしまった。
あれだけ意地で行かねぇと豪語していた癖に最後の幸せな瞬間を祝ってやれない事が悔しく思えて、最後に逃げようとした自分が恥ずかしくて、遅れてやってきた式は見た事ねぇほど眩しいもので俺は入口に突っ立ったままその中踏み入る事が出来なかった。
「怜また背伸びた?」
「もう夏紀っち抜かしてるし」
「あんな小さかったのになぁ」
「いつか耀も抜かすから!」
「耀も? 耀はそう簡単に抜かせるかな〜?」
「抜かせるって余裕っしょ」
怜の得意気な顔を見て夏紀が楽しそうに笑う。
俺が居ない場所でもこうやって名前が出て笑顔を作れるのは嬉しい事だなんて思う。
その笑顔を見て、言ってやらなきゃと尚のこと強く思った。
夏紀がこのまま胸張って生きていけるように今日のこの事をいつか送り出して良かったと心の底から思ってやれるように言わなきゃな。
「……夏紀」
「ーーッ?!」
「あ、耀じゃん」
太陽の下で上機嫌な草木の緑に囲まれて楽しそうに笑う夏紀を後ろから呼ぶ。
そうすれば弾かれた様に駆け出す夏紀がやっぱり愛しくて、夢に見たあの日の続きを。俺が振り払ってしまった手をもしも取っていたならなんて違う未来の続きを見てしまうんだ。
「か、がりっ! 耀ッ、来てくれないって……今日来れないって……ッ」
「……悪い」
「馬鹿……本当に耀の意地悪ッ」
「来たんだから許せよ」
「……いいよ。 でも俺の一番の友達として最後まで居てね」
「ああ」
「友人代表もして」
「ああ、してやる」
「面白くない話したら怒るから」
「ふっ、ああ分かったよ」
ムッとして泣きそうな顔を見て笑ってやれば、餅が膨れた様に空気の入っていたほっぺたがぺちゃんこになる。
クスクスと一緒に笑って金色の髪をクシャクシャに撫でると一層その顔は赤く色付いた。
「耀本当にありがとう」
「……ああ」
にっこり笑う夏紀を見て静かに頷く。
そして歩き出そうとした夏紀のその肩に伸ばした手は寸前になって、頭へと移動した。
「ーーッ、か、がり?」
「おめでとう」
「えっ?」
「夏紀おめでとう。 今日のお前今迄で一番かっこいいな」
「ほんと? 耀にかっこいいなんて言ってもらえたの初めて!」
「ああかっこいい。 これからはお前が家族を守っていけよ」
「ーーッ」
半歩前に居る夏紀の後頭部を見つめて、その髪に指を通して、最後まで抱き締めることの出来なかった情けない掌は、好きだった奴に触れるだけで震えていた。
「これからは俺が居なくても、お前が百合を、餓鬼を守るんだ」
「耀、どっか行っちゃうの?」
「……いいや。 今迄と変わらねーよ。 お前の隣に居る。 でもこれから先何かあった時頼られるのはお前だ。 百合達を守れるのはお前だ」
「……うん」
「もう昔の一人ぼっちの夏紀とは違う。 百合もこれから生まれる餓鬼も居る、ちゃんと家族がいる」
「うん、ッ、うん」
「かっこいい親父になって、誰よりも幸せな家族になれ夏紀」
「……ッ、うん……ありがと、今迄本当、ありがとう耀ッ」
俺達の関係に一つ壁が作られた事を夏紀も感じ取ったんだろう。
だけど泣きそうな顔して、それでも眩しく笑う顔は、今迄の後悔を消すほどだった。
やっぱり家族がいる普通で最高の幸せが夏紀に似合うと、そう信じて疑わないまま俺と夏紀はその日今迄で一番の笑顔で笑った。
「耀、俺も一つ約束あるんだ」
「なんだ?」
「あのねーー」
そう言って静かに話す夏紀に頷いた。
夏紀からの約束を一つ、いつか現実にすると約束をして。そうして最後に二人で写った写真は何年時間が経とうとも眩しすぎるほどの笑顔だった。
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