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テキーラ・サンライズ
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だけどそんな事を考え続けていたある日、クリスマスの約束を守れない事に物凄く瑞生がいじけてるのを見て何故なのか急に笑えてきたんだ。
俺達は付き合っていない。
付き合うとも言っていないし、ただ傍に居ると言っただけ。
そんな口約束破る事は簡単で、守る事は難しい。
だけどそんな口約束の先に、名前の無い関係の癖にまるで当たり前の様に瑞生が俺の家に帰ってきて、一緒に過ごせない時間を惜しんで拗ねて怒っている姿があんまりにも可愛くて。
どうしようもなく愛しかった。
ただこうして生きていたいと思った。
恋人になりたいだとか、付き合いたいだとか、結婚したいだとか、家族になりたいだとか、そういう名前じゃなくて。
そこに瑞生が居て、瑞生が笑って、一緒に飯を食って、二人でベットに潜って、また朝を迎えて、そういう未来を一緒に生きて行きたいんだってこんなにも思ってるんだって事に気づいた時、今迄散々考えてきた事が馬鹿らしくなった。
ただ瑞生と居りゃあいい。
それでいつか瑞生が俺から離れた時、その時は背中押してやりゃあいい。
でもそうはなって欲しくないから俺は俺で最高に瑞生を愛してやりゃあいいじゃねぇか。
手を離すべきだ何だの考えてたってこんなにも答えが出ないならそれが答えなんだ。
離れたくねぇのが俺の答えなんだ。
好きじゃなくなるかもしれない、なんて言って当たり前のように拗ねてる瑞生が大好きだと思った。
だから、しっかりと、俺のこの考えてる事も瑞生に伝えるべきだとも。
先ずはそこから始めなきゃ、何も始まってすらねぇんだと。
*
そうと気持ちを決めてからはいつ話すかを考えていた。
クリスマスは一緒に過ごす事がなかったから、年を越す前に話すか、越してから話すか。
その前にこれで拒絶されたら一ヶ月は寝込むだろうなぁこりゃあ〜……なんて考えながら見ていたのは新しく店を出す土地のマンション。
今住んでいるところは丁度良く契約期間を迎えていたから、この機会に引っ越そうかと悩んでいた。
「あっれー、オーナーそれマンションですか? 買うんですか?」
「お疲れ。 ん〜、どうだろうな〜」
「お疲れ様でーす……あ、新店舗の近くですね。 家から近い方が何かと楽ですもんね」
「まあな」
閉店した店の休憩室でパソコンを見ていた時、背後から覗き込んで来たのは長くここでバイトをしてくれている山中。
俺が新しい新店舗に移るなら、この親父の店は山中に任せようと思っている次期社員になる奴何だが、楽しい事が好きなコイツは好奇の目で俺とパソコンを見比べていた。
「あれ? でもこれ一人暮らしにしては広すぎないですか?」
「おじさん広い方が休まるのよ」
「とか言ってアレでしょ! 噂の彼女ともしかして同棲ですか?!」
「彼女ね〜……彼女じゃないけどな」
「ふーん。 オーナー女遊びしなくなったって裏で噂ですよ」
「噂? おいおい悪口なら聞こえない様にしろよな」
「だってオーナーが女ったらしなのは皆知ってるし。 でもこの前来たクライアント断ったらしいじゃないですか? ハルがそりゃもう嬉しそうに興奮して話してましたよ、オーナーに大切な人がきっと居るんだって」
「んだそりゃ。 ハルは女かっての」
「まあ見た目も中身もふわふわしてますからね。 陽ちゃんにゾッコンらしいし」
「仲睦まじい様で嬉しい事だな」
「そっかオーナーはハルの親みたいな感じですもんね」
「親はちげぇよただのおじさんだ。 アイツの父親は海外でハル達の為に働いてんだから俺と一緒にしちゃ罰当たる」
「そうですよねーすみません。 オーナーと一緒なんてハルの親父さんが可哀想だ」
「こらこら……言葉には気をつけんさい……皆俺に本当冷たいんだからなぁ」
「アハハっ愛情ですよ、愛情〜!」
ケラケラ笑う山中と談笑しながら静かにパソコンを閉じる。
勘良いんだか、そういう事に目利きするのか。
探ってくる山中をあしらうと、この後瑞生と予定がある俺は真っ先に家に帰った。
でもまさか、その日に夏紀が来るだなんて全く想像もしていなかった。
瑞生といつもと同じく飯を食って、新店舗の内装工事の為に夜からデザイン関係の仕事を詰めていたその日はぶすっとして帰りたくなさ気な瑞生と別れた後家を出た。
エントランスを抜けようとした時外の玄関に誰かが突っ立って居るのに気づいて遠目から見た時、それが夏紀だと気づいた。
「……夏紀?」
「ーーッ」
「ッ! お前……何で泣いて」
「耀……ッ、俺、どうしたらいいんだろうッ」
「っ、え」
間抜けな声が漏れた。
でもそれほど信じられなかった。
今迄どんな事があっても、どんな時でも、例え離婚をした時でさえも、俺には絶対と言いきっていい程助けを求めなかった夏紀が初めて泣きついてきた時、夏紀が俺に縋ったその手を振り払えなかった。
夏紀から俺の方へ来るのは初めてで動揺したまま夏紀を抱きしめていた。
「夏紀……どうした?」
「……っ、ごめ、ごめんッ……分かんなくて、迷惑かけてるのにこれ以上甘えたら耀が幸せになれないのに……っ」
「……夏紀」
きっとハルの事だろうか
クリスマスの夜、ハルに夏紀の事を尋ねた。
結婚式の日に夏紀と交わした約束が守れると思って話して起きたかったんだ。
しかしハルに戻ってきてるのかって、どうなんだって聞いた時に「知らない」と「あの人」と言っていたからきっといつまでも埋まらないハルとの距離に悩んで居るんだろう。
そうじゃなくとも、家族の愛を知らずに育った夏紀には家族を持つことさえ大きくて苦しい壁で戸惑うばかりの中、高校に上がって一層大人になったハルの辛辣な態度に流石に気が滅入ったんだろうか。
「夏紀、泣くな」
「ッ、う、ん……」
「ハルか?」
「〜〜ッ」
ハルの名前を聞いた途端一層泣き出す反応を見てやっぱりかと納得する。
グズグズに泣いてる夏紀が子供みたいで、慣れた癖で抱きしめ返した腕の中に夏紀が収まった時、遠くで誰かの影が動いたのが目に入った。
「……耀、さん……?」
その人影は、帰ったはずの瑞生だった。
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