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テキーラ・サンライズ
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「何そのシケたツラ」
「……お前かよ。 ややこしい事すんな」
「うっわ〜やだやだ。 いい歳して八つ当たり? ほんとにもう勘弁してよね」
「うるせぇ。 何しに来たんだよ」
「ああ。 耀、夏紀っちにハッキリ言ったらしいじゃん」
「……」
ふふっと何が面白いのか、一人楽しげに笑う怜を横目にポケットから煙草を取り出すと火を付けた。
「禁煙したんじゃなかったの?」
「……する理由がねぇんだから吸う」
「ふーん。 あっそ」
「用がねぇなら帰れ」
「用ならあるわよ。 どうせ今フリーなんでしょ? 久しぶりに一発どうよ」
「オネエ口調で話すのか男口調に戻るのかどっちかにしろよな……それとしねぇよお前とは」
「なんで、だってフリーなんだろ? いいじゃん。 夏紀っちともやーっと切れたんだしこれで耀も自分の幸せの為に生きれるな」
「……自分の幸せの為ってなんだよ。 俺は夏紀の傍に居ることがあの頃の俺の幸せだった」
「嘘つき」
「嘘じゃねぇ」
「嘘だよ。 じゃあなんで俺と違ってセックス中毒でもない癖にあんなに荒れてたわけ。 寂しかったからだろ」
「……深読みすんなよ。 めんどくせぇなお前は」
「耀は寂しかったんだよ。 俺には分かる」
「……」
「だって俺も」
「……辞めろ怜」
「俺もずっと寂しいから」
「……っ」
「俺だって結構耀に本気だった」
昔も今も怜は変わらない。
誰も気づかない俺の変化にいつも気づいたのは怜だった。
俺の後ろをついてまわって何をするのも真似していつの間にか男前になって。
それとどこか少しだけ似た所があるのはお互いに分かっていた。
聞いていたくない怜の言葉を押しつぶす様にまだ吸ったばかりの新しい煙草をコンクリートに擦り付ける。
まだまだ長く残ったそのゴミをポケット灰皿にしまい込もうとした時、隣に立つ怜の手が俺の手首を掴んだ。
「聞けよ」
「……何回も言わせんなっての。 俺は好きにならねぇの。 怜の事は弟みてぇにーー」
ぐらりと視界が揺れて気づけば隣に居た怜が俺の前に立つ。背中には壁。目の前には真剣な目をした怜と、その奥に微かに光を漏らした雲に隠れる月と夜の空。
「俺も今の歳までずっとアンタに惚れたまま動けねーの。 助けてよ耀」
「……怜」
「夏紀っちからやっと離れたと思ったのに今度はあいつ?」
「誰のこと言ってんだ」
「誤魔化せると思ってんなら馬鹿にすんなって話だよな。 あの派手な頭した猫みたいな奴」
「……」
「名前も言った方がいい? 確かーー」
「アイツは」
アイツは関係ない
怜の言葉を遮ってそう言おうとしたのに、何でか喉の奥に詰まったまま言葉は出てこない。
それにしてもどうしてここまで拗れるんだろうか。
夏紀だけじゃない怜も、怜も大切な家族の様なもんだった。
でも好きになれない。
俺が好きなのは、今も……
「怜……俺が夏紀から離れたのは、今の俺が好きなヤツを好きで居る為だ」
「でも上手く行ってないんだろ」
「……関係ねぇんだよ。 待つって言ったんだ。 言ったんだから待つんだよ。 それが、それしか出来ることが今はねーから」
「……っ」
「でもありがとな」
「ッ、あーもう……本当腹立つよな。 何なんだよその無駄に忠誠誓った犬みたいな考え方。 いいじゃん1回ぐらい。 いいじゃん……誰とも付き合ってないんなら浮気にもなんねぇじゃん」
「……ばーか。 裏切るから浮気は咎められんだろ。 なら付き合ってなくても付き合っていても裏切ったんならそれは大罪だろうが」
自分で言った言葉にまた新しいトゲが刺さる。
抜けないまま奥深く迄潜った昔のトゲも新しく刺さったこのトゲも痛みも全部全部俺のもんだ。
もう逃げたくねえんだよ。
もう二度裏切りたくねーんだよ。
「じゃあキスは」
「ふっお前はほんっと変わんねーな。 ダメなもんはダメだっての」
「……ケチ親父」
「ケチでも何でもダメだ」
「じゃあ」
「ん?」
「じゃあ今度は俺が立ち直るの手伝ってよ」
「……」
「俺も耀の真似してもう辞める。 俺ももう進みたい」
「……お前が言うなら構わねぇよ」
「ありがと」
「ああ。 それよかお前もちゃんと飯食ってんのか」
「ふはっ相変わらずオカンだな」
「うるせーなお前も夏紀も同じこと言うんじゃねーよ」
「また今度……ちゃんと飯食いにくる」
「おう」
「そん時またさ耀の飯食わせて。 俺、アンタの飯は好きだった」
「……ああ」
「耀幸せ?」
「…………ああ」
「そっか」
怜も、俺も、ずっと誤魔化して来た。
この年になる迄素直に好きの一文字も口に出来なかったほど。
体は大きくなってもやっぱり話せば懐かしく幼い頃の怜が見えた。
クシャクシャに頭を撫でてやればほんの少し怒った顔をして黙って撫でられる怜にもいつか出来たらいいと願う。
それでいつか本当の意味で家族のような関係になれたら、その時やっと何もかもが収まるところに収まるんだろうかなんて思いながら、その時隣に居てくれたのが瑞生ならって考えるのは瑞生のことばかり。
今もまた俺のせいで昔に戻ってしまっていたならどう償えばいいのか。どうやって取り戻せばいいのか胸に詰まった言葉がぶつかりあった。
◇
「じゃあお疲れ様でーす!」
「もう夜遅ぇから気をつけろよ」
「はーい」
「お疲れ」
バイトを帰らせて、締め作業を終えたテーブルの上に雑誌を置く。
新しくオープンする店舗の内装を考えていた。
今の店の様に落ち着いた雰囲気にするか、それとも路線を変えてみるか……
パラパラとページをめくって色々と想像をしながら考え込んで居ればいつの間にか時計の針は深夜二時を回っていた。
月曜の夜はBARは開いていない。
だから月曜の夜にこんな遅くまで店に残ったのはここの店を開店した時以来で、あとは家でやるかと荷物を纏めるとジャケットを羽織って家ヘと向かった。
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