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テキーラ・サンライズ
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瑞生の言葉が一つ一つ重く染み込んでゆく。
俺だけじゃない。
瑞生も同じ様に居たいと願ってくれてる事が嬉しくて抱きしめた瑞生の肩に額を預けたまま深く深呼吸を繰り返した。
「何か言ってよ……」
「……瑞生」
「なに……?」
「一人になるのは、辛いぞ」
「……知ってる」
「誰かと過ごした記憶が残るともっと、もっと、辛ぇぞ?」
「記憶があるならいいよ……大事にできるじゃん。 俺、一人じゃないじゃん……寂しくなったら耀さんの事思い出すよッ」
「……馬鹿だな」
「ッ、一緒に……居たい」
本当に馬鹿だよお前も、俺も……
お互いに何もかもが初めてで何もかもがたどたどしい。
ぐしゃぐしゃな顔して泣いてる瑞生が好きなだけで何でこんなに悩まなきゃならない。
同じ気持ちで居ることが今もまだ信じられないぐらい慎重すぎるこの思いが止まらず溢れ出る。
「俺のこと……許せるのか」
「っ、もうとっくに許してる」
「……また信じられるのか?」
「好きになっちゃったんだよ……。 酔っ払いになったら言い訳出来るかなって馬鹿な事考えて吐くまで飲んで。 こんな飲んだって俺記憶全部ある。 全然頭はしっかりしてる。 そんな事して迄来ちゃったんだよ……だかれ信じるしかないじゃんッ、俺には耀さんしか居ないんだから」
「……瑞生」
「俺にも教えて……」
「教える?」
「耀さんのこと。 あの日ただ謝るだけで夏紀さんのことも耀さんの昔のことも俺何一つ知らない。 怜さんが言ってた事だって聞きたい。 ちゃんと、俺にも黒江耀って人見せてよ……」
「……」
「ヘラヘラしたばっかの顔じゃなくて本音が、聞きたい。 俺のこと受け止めてくれたみたいに俺だって耀さんの色んな事受け止めて好きでいたい」
俺の手を取って指を絡めてくる瑞生に見惚れてしまった。
潤んだ瞳のまま、今迄漏らしたことの無いお互いの本音を聞きあって、初めて見た様な瑞生の真剣な表情に心臓の動きが早くなる。
ーー俺は、覚悟を決めたんじゃなかったのか
拗ねてる瑞生を見てただ一緒に居る未来が欲しいって願ったんじゃないのか。だったら今、これからもう一度瑞生の事……
「……分かった」
「ッ!」
「ただ俺は瑞生が思う様な男じゃないよ。 どうしようもない生き方しかして来なかった」
「……そんなの俺が決める」
「ふっ。 そうか」
「うん。 だから話して」
「……俺はーー」
座り込む瑞生と向かいあって、今迄の事を一つ一つ話してゆく。
瑞生が聞いてくること、気になっていたこと、嘘もつかないで全部全部。
瑞生に出会う前も、出会った後も、夏紀がそれ迄俺のすべてだった事も、あの日裏切った事も。
全てを話し終えた時、ふと顔を見上げた俺は瑞生の腕に包まれていた。
「ーーッ!」
「ねぇ……ッ、ほんっと馬鹿だよね、耀さん」
「瑞生?」
「ずっと、苦しかったのは耀さんもじゃん。 夏紀さんの事自分のモノにしちゃえばいいのにお人好しってだから嫌い……ッ」
「……」
「耀さんみたいなどうしようもないオジサン俺が貰ってあげる。 一人にしたら耀さんまたどうしようもないダメな大人になっちゃうでしょ」
「……瑞生、泣いてんのか?」
「泣いて、ないッ。 ただ耀さんの事……馬鹿だなぁって。 言い訳も何もしないで俺がもし戻らなかったらどうしてたの……っ、また本当は寂しかった癖に一人に慣れちゃってそのまま生きていったの?」
「……かもな」
「っ、もう本当、バカガリだよねッ。 耀さんの事これからバカガリって呼ぶから」
「お前にもう一度名前を呼ばれるなら何だっていい」
瑞生の胸に頭を預けて背中に腕を回す。
細い背中が震えていて、声が震えていて、どうして泣いてるんだって疑問ばっか頭の中に浮かんで。
もう泣かせたくないのに、泣いてる瑞生が愛しかった。
「ッ、グス……こんなお人好し俺嫌いだったのになぁっ」
「嫌になったか?」
「……ううん」
「……」
「もっと好きになったよ。 人の為にばっか生きてきたんだから、今度は耀さんも幸せになる番でしょ」
「ッ瑞生」
「なに?」
「……好きだ」
「っ、急に、言わないでよバカ」
「好きだ……」
「もう分かったから」
「好き」
「……耀さん」
「好きになって良かった」
「……っ、俺も。 耀さんに見つけてもらえて良かったよ」
「もう二度と裏切らない」
「……うん」
「だから俺とーー」
伝えた言葉の後、瑞生が驚いた顔をして今度は笑顔で頷いた。
格好もつかない様なシャワールームで、濡れたまま抱き合って。
どこか間抜けな二人のまま俺達はそのまま抱き合っていた。
ただずっと体温を分け合う様に、ぴったりと肌をくっつけた、ただそれだけの静かな時間が流れていた。
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