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意地悪な態度
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*
何かと慌ただしい朝、別の意味で俺達は慌てていた。
「送ってやるから」
「ッ、だって」
「……祥行っておいで?」
「〜〜ッ」
玄関の前、さっきからこれの繰り返しだ。
先に靴を履いて車のキー片手に待つ俺と、少し距離を取ったまま下を俯く祥。顔はむぅっとしていて、まさに子供の表情とそっくりだ。駄々をこねて親を困らせる幼稚園児の様に祥は最後まで抗うつもりらしい。
「仕事、行くって言ったんだろ?」
「ッ!」
「だったら行かなきゃ。 俺はまだ二日はこっち居るんだし、午後からは一緒に居れるじゃん?」
「……やだ」
「祥〜」
ぎゅううって繋がれた手に力が篭る。
玄関迄手を繋いで何とか来たはいいけどそこから一歩もこちらへ来ようとはしなかった。朝からぐずっていつもならこんな事を言わない祥がここまで駄々を捏ねて困らせてくる。本当なら行かなくていいよなんて俺も大歓迎だろうけど、そうは行かない。
そのせいで苦笑しか出来なくて、親が子供の我侭に弱いのはこんな気持ちなのかなんて考えてしまう程。
「じゃあ休んで現場の人に迷惑かけるのか?」
「やだ」
「だったら頑張って仕事終わらせようよ」
「やだ」
「なら休むんだな? それで後から罪悪感に落ち込んでも慰めないからな」
「……やだ」
「はぁ」
やだやだやだって天邪鬼かお前はなんて突っ込んで、天邪鬼だったと納得する。
チラッと見れば俺がきつく言ったせいでもっと顔はむぅっとしていて唇なんて突き出てるし、今にも拗ねて泣きそうだ。
ああもうそんな顔するのは卑怯だろ。
俺がわざと意地悪な事しているみたいで心臓が痛くなる。でも同時に少しきゅんきゅんするんだから俺も根っからの加虐嗜好なんだな。
「祥〜遅刻するぞ〜」
「うう……」
ブラブラ握られたままの手を揺らすと、急かされている様に感じたのか眉間にシワが寄った。もうマジで可愛い。なんだこの生き物。
「直輝は」
「ッ、ん?」
可愛い生き物に胸を締め付けていれば急に名前を呼ばれて驚く。咄嗟に返事をすれば上目がちに俺を見つめてくる瞳が二つ。
「直輝は……俺と離れていいの?」
「……」
「直輝は俺が仕事行っちゃっていいの?」
……無自覚なのか、分かってやってんのか。
そう来たか。全くの予想外の攻撃に思わずダメと言ってしまいそうになるけど何とか飲み込んだ。
「仕事行ったら後で楽しみがあるだろ」
「でも一緒に居たくないの?」
「……」
「……居たくないの」
答えなかったせいで、肯定と受け取った祥がまた一段としゅんと落ち込んでいく。見えている尻尾はもっと下がり丸まって耳なんかぺたんこ。
本音言えばいつも俺が迫って祥に拒否られる事ばかりだったからこんな可愛いお強請り嬉しいに決まっている。会えて嬉しいのは、離れて寂しいのは、一分一秒だって惜しいと思うのは俺だけじゃないんだと胸が満たされる。
「祥。 こっちおいで」
「……」
「いいから、早く。 ほらおいで?」
腕を広げて誘えばチラチラ見上げてきた後にゆっくりと祥が胸の中に飛び込んでくる。背中に回された腕が強くアウターを握り締めるから、本当に寂しいんだと、強く求められている事に顔がニヤけそうだ。
「俺も寂しいし離れたくないよ」
「……嘘だ」
「嘘じゃないよ、本当に。 でも今迄頑張ってきたから今日も頑張ろうよ。 俺だって行かせたくないけど、行かなかったら後で祥は罪悪感感じちゃうだろ? そっちの方がずっと後に残る。 だから行っておいで、それからスッキリしてデートしよ」
「……ッ、居なくなったらどうすんの」
「居なくなる?」
「俺が仕事行ってる間に、っ、もし帰ってこいって直輝がまた居なくなったら、俺やだよ」
「……行かないよ」
「嘘つき」
「本当に。 行かないよ、行かない。 祥との約束だから絶対に行かない」
「……」
「約束は守るから」
「……本当に?」
「ああ」
「……。 じゃあ……いく」
「いい子だね。 ほら遅刻するから急ぐぞ」
「うん……」
もう泣きそうな祥に幸せのため息が零れた。
うるうるしていて長い睫毛が哀愁を漂わせるかのように影を落とす。乱暴に袖口で涙を拭った祥の目元は微かに赤く染まっていて、慰める様に瞼にキスをするとそのまま唇へと重ねる。
「ん、ふぁ」
「祥可愛い大好き」
「ふぇ……っ、ぁん、んっ」
柔らかい。気持ちよくて貪る様にキスをしていたらかく、かくっ、と祥の腰が揺れだした。
これじゃあ今度は俺の方が祥を行かせたく無くてどうにかなりそうだ。頭の中で浮かぶ休ませるかなんて今言った事すべてひっくり返してしまう理性の欠片もない本音は押し込むと最後に優しくチュッとキスをして離れた。
こんな朝も悪くない。甘くて溶けそうな程に優しい時間に笑い合いながら手を繋ぎ家を出た。
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