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おやすみとおはよう
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◆
シャワーを浴びながら思い返すのは祥の泣きそうな顔だった。
『直輝が居なかった間、家族で色々あったんだ。 俺の知らない事とか沢山あって、なんか1人だけ知らずにのうのうと生きてたのが嫌になっちゃってーー』
俯き、唇を噛み締めながら必死に泣くのを堪えていた。
家族の話に触れるのはタブーだ。
祥にとって一番触れて欲しくない事で、唯一知らない事は、幼かった昔も、俺が居なかった間も、どれも家族の過去。
ほんの少しだけ話してくれた観覧車の話は嬉しかったと言えば嘘になるけど、同時にどこか消えそうな祥が怖くも感じる。
「……」
でもそれがどうしたって話だ。
四年前は、拒絶されるのが怖くて祥の言うままに別れた。戻ってきてからも傷つけるのも傷つくのも怖くて、本当に終わりを迎えるのを拒んでは逃げ続けたんだからもう、ヘタレは卒業だ。
これからは俺も祥に遠慮はしない。
考えの不一致があったとしても、祥に委ねたりしない。
ちゃんと二人で考えていくと決めてからは、痼のようなものは自然と消えていた。
蛇口を締めて、前髪をかき上げる。
浴室から出て置いてあった黒のバスローブを羽織ると緩く前を締めて部屋に戻った。
「祥ー、シャワー浴びてこいよ」
「ーーッ?!」
「ん?」
「っ、へっ、な、えッ?!」
「……なんだよ?」
ベッドの上で何故か正座していた祥は俺を見るなり口をパクパクとさせては顔を真っ赤に染めあげる。
「な、なにそれッ……!」
「なにって、なにが」
「だっ、だからぁ……っ、何でそんな格好してるのッ」
「……」
あ〜、なるほどな。
祥のこの反応の原因はコレか。
見慣れないバスローブのせいだ。
「はだ、はだけて……っ、」
俺から目をそらして壁を見てる祥はブツブツ何かを言っている。乱れた髪から覗くうなじも耳も真っ赤に染まっていて、からかいたくなるのも仕方ない事だ。
「祥ちゃーん」
「っ、や……な、なに?!」
「シャワー浴びないの? どうしてそっち向いてんの?」
「だ、だって……違くて、無理……無理ぃ」
「ふっ」
ジリジリとベットヘッドに追い込んで逃げ場を無くした祥を後ろに押し倒す。
それでも横を向いたまま目を見ようとしないで、申し訳程度の力を込めては「無理ぃ」なんて涙声で胸を押し返してきた。
「何が無理なの?」
「ッひ……や、め……や」
「どうしたの? さっきから様子変だね」
「そんなこと……っ」
「じゃあこっち向けよ」
「〜〜ッ、やだ……」
片手を祥の顔の横へ置いて見下ろし、空いた手で頬を撫でる。そのまま耳の裏までなぞってピアスを引っ掻くとピクッと祥の体が震えた。
なんだっけ、これ、確か床ドン?
ニューヨークで出会ったアニメオタクに日本の恋愛漫画についてよく聞かされた。
壁ドンやら床ドンやら、よく分からない下らない単語に興味は無かったけど祥の反応は想像以上に可愛くて案外こんなものなのかと感心してしまう。
「髪……髪、かわかそ……?」
「直ぐに乾くからいい」
「だ、ダメ……ダメっ、兎に角、退いて……死んじゃうからっ」
「ふはっ、死んじゃうんだ?」
「うぅ……ッ」
しどろもどろになってる祥は余裕が本当にない事が見て分かる。
いつもならこんなに感情を口にしないのに、自分でも気付いて無いんだろうけど本音が多々漏れているし何より反応が丸わかりだ。
俺の下から逃れる為の言い訳は最早言い訳にもなっていなくて、真っ赤な顔して泣きそうな祥のほっぺを抓ると退いてやった。
「し、死ぬかと……思った……」
「……」
ああなんかこう言うの懐かしい。
て言うよりかは、前よりも遥かに反応が初だ。
恋していますと、伝える様なそんな顔をされちゃたまったもんじゃない。
今すぐ襲いたい気持ちを抑えてから、ドライヤーを持ってきた祥に身を委ねた。
「……」
「…………」
髪を乾かす間、部屋は静かだった。
ブオー、とやや五月蝿い機械音と送り込まれる熱風と祥の優しい触り方が気持ちいい。
眠いのは嘘じゃなく本当だったから、尚のこと眠気が襲ってくる。
「……祥の手、気持ちーな」
「ほ、ほんと……? 気持ちいい?」
「うー……ん」
「えっ、寝ちゃダメだよ?!」
「大丈夫。 どこかの誰かさんがエッチしたいみたいだし、な?」
「〜〜ッ?!」
「熱ッ、おい!」
ゴンっ、と痛々しい音がしたと同時に頭皮が火傷する勢いでヒリヒリと熱を感じる。
驚いて上を見上げれば真っ赤な顔した祥が俺の頭にドライヤーを直撃したままフリーズしていた。
「祥どうした?」
「っ、」
「前よりもさ反応がオーバーって言うか、酷くなってない?」
「違っ、違くて……じゃなくて……ッ」
「……?」
「お、俺……直輝の事、凄い好きみたい……っ」
「は?」
「ど、どうしたらいいのか分かんないッ……。 今になって分かるの、俺ね、多分前よりも昔よりもうんと直輝の事好きになってる……。 直輝が前よりもかっこよく見えちゃって、腹立つ事もなんか、ドキドキしちゃって……目見れないっ、だから、どうしたらいいのかも分からないし……っ、こ、こんなに人のこと好きになったの初めてで……ッ、だからーー」
「……、ちょっと喋りすぎ」
「〜〜ッ、あ、あ、お風呂入ってくる……ッ!」
重ねた唇が離れるとプルプルと体を震わせて涙目になった祥は逃げる様にシャワー室へと入っていった。
さっきの祥やばかったな。間違いなく天使だ。
ドライヤーを握り締めて目を回した祥がペラペラと早口でとんでもない告白をしていた。
お陰で聞くに耐えなくて思わずキスで唇を塞いでしまったし。
祥自身も何を言ってるのかなんて分かって無さそうだったけど、俺の方がもっと分からなくなりそうだ。
あれって、要するに俺のこと前よりも好きになってくれたって事なんだよな……?
俺が一方的に好きで、その好きにやんわりと返してくれるだけじゃなくて、同じように惚れてくれているんだって聞かされたら、そんなの耐えられるわけが無い。
どうにも無意識に誘っては翻弄する祥に俺も降参だとばかりにベッドへ倒れ込んだ。
「あー……なんだよ今の、くっそ可愛いんだけど」
オレンジ色の柔らかい照明に照らされて、光から逃げる様に腕で目を覆った。
真っ赤な顔して、目尻に涙を溜めた祥の照れた表情に、こっちが恥ずかしくなる様な本音が何度も頭に繰り返し浮かぶ。
高校生の頃は俺が必死だった。
少しでもいいから好きになって欲しくて、そんな小さな格好つけた姿を知られたくなくて、余裕なフリをしてはいつも焦っていたのに……。
目で、声で、表情で……動作ひとつひとつで伝えてくる祥が愛しくて、夢を見ている気分だ。
四年間が嘘のように幸せで、思わず緩んだ口元にさえ気づかないまま暫くボーっと天井を見上げていた。
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