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おやすみとおはよう
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「謝らなくていいよ」
「でもここまで酷くするつもりなかったのに……ごめん」
「ふふっ、良いって。 当分の間消えないほうが嬉しい」
「……」
「一日経つのって早いな。 二日もあるって思ってたのに気づいたらもう後半日しか無い」
「……直輝?」
「……出来るなら祥の事このままニューヨーク連れてきたいよ」
「どうしたの急に」
「ふっ。 んー、何もないよ」
俺の肩におでこを乗せて、珍しく直輝が沈んだ声を出すから驚いた。
いつもより少し低くて、でもどこか濡れっぽい声はやけに耳に残っては後を引く。
俺は、そっと後ろを向くと直輝の濡れた髪にキスをした。
「直輝」
「ん?」
「昔さ、付き合いたての頃に直輝がイタズラでキスマーク付けられて帰ってきた日のこと覚えてる?」
「ああー、祥が拗ねてた時か」
「そう。 喧嘩しちゃって、泣いた。 ぐるぐる良くないことばっか考えて意地張って俺のこと捨てて良いからねなんて嘘ついちゃってさ……」
「懐かしいなそれ」
「だよね。 俺さその時直輝が言ってくれた事がすっごい嬉しくて今でも覚えてる」
「俺が言ったこと?」
「──『お互い忙しくても外から帰ってきたらお帰りって、笑ってくれる笑顔と声があったらどんな事でも一瞬で吹き飛ぶと思わね?』って直輝が俺に言ったの」
「……よく覚えてるな」
「だって本当に嬉しかったからね。 だから俺さ寂しくなっても、不安なことあっても、会社で嫌なことあっても。 家に帰って電話越しだったとしても、直輝にお帰りとお休みを言ってもらえるだけでまた頑張ろうって思えた」
「うん」
「でも昨日は、直接肌に触れて直輝の顔を見ておやすみとおはようが出来て……こういう何気なくて当たり前の事が出来るってだけでこんなに幸せだって分かったのは離れてる時間があったからなんだって」
「……」
「だから俺ね、遠距離も結構好きだよ。 いつでも会えないのは悲しくなる時もあるけど、この距離があるから出来る付き合い方もあったし、だから知れた当たり前の幸せにも気づけるし」
昨日の気持ちを思い返して胸がじんわり熱くなる。
伸びした手の先に直輝がいて、それって今迄ずっと当たり前の事だったから何も疑問に思わなかったし特別に感じることも無かった。
幼馴染みじゃなくなって恋人になってもいつでも傍に居るのが俺達には当たり前の事になっちゃって居たから。
でも離れていた時間があって、解りあっても物理的な距離が二人の間にあって。寂しく思う事もあったけど、そのお陰でもっと前よりも二人で成長した気がする。
それに今が何よりも大切なんだって何度も思うし、感じる度に幸せな気持ちになるから。
寂しくても、この距離がある直輝とのお付き合いが嫌いじゃなかった。
「本当に祥には敵わないよ」
「何が?」
「いーや、何も。 祥が好きって話」
「ッ、どうして急にそうなるんだよ……!」
「好きって言われて照れる祥がまた見たいから、早く卒業して戻ってくるよ」
「からかうなら早く帰ってこなくていいからなッ」
「そんなこと言っていいの? 俺に会えるの楽しみじゃないんだ?」
「ッ、だから、違うけど!」
「ふーん?」
「〜〜ッ、俺だって早く会いたいよバカ! これで満足か!」
「ふふっ、うーん後もうちょっと虐めたり無いかも」
「虐めたり無いって……、俺は玩具じゃないっ」
「痛い。 殴るなよ」
いつもの調子に戻った直輝に少しだけホッとする。
ワーワー喧嘩してじゃれてる時間も楽しくて。口では可愛くないこと言い合ってるけど、でも二人して笑っていた。
「家戻ったら何する?」
「んー、直輝は用事とかないの?」
「昨日のうちに片付けといたから平気」
「そっか。 あ! その前にさ聖夜達にお土産買っていこ」
「えー、要らないだろ」
「めんどくさがるなってば。 聖夜も絶対会いたいよ直輝に。 だからお土産渡しに行こうよ!」
「やだ。 無理めんどくさい」
「直輝……」
相変わらず他の人に対しては雑だしどうしようもなく冷たいけども。
口ではこういっていたって何だかんだお土産を買うつもりなの知っているから、心がくすぐったくなって笑ってしまう。
「何笑ってんの?」
「ふふっ、ううん。 何も無ーい!」
「変な祥ちゃん。 でも可愛い、チュッ」
「っ、耳辞めろってば!」
「耳も辞めてだろ?」
「分かってるならするな変態ッ」
チュッ、チュッて沢山あちこちにキスされてくすぐったさに身をよじる。
直輝の顔を押しどけると悪戯してる子供のように笑ってる顔をデコピンしてやった。
「子供かバカ直輝」
「なに、子供ならこうやって触られても許してくれんの?」
「なっ、違うから!」
「本当に? 祥の事だし、子供だから〜とか甘やかしてそうだよな」
「〜〜ッ、どこ触って……! もう出る!」
「ふっ」
恥ずかしいところを遠慮なく触れてくる直輝に恥ずかしくなって勢いよく立ち上がる。ニヤニヤ笑ってるのが無性にムカついたからついでにお湯をぶっかけてやってからお風呂を出た。
「バカ直輝」
本当に直ぐエッチな事しようとするんだから。
ちょっと落ち込んでて可愛いなぁって思ったらいつの間にか絆されて、気づけば直輝に好き放題されてるんだから気をつけなきゃ俺も。子供に甘い前に、俺は絶対直輝に甘いからもう少し冷たくしよう。
そう決めたけど、無理だろうなって直ぐに思う。
直輝の顔見たら結局嫌なことでも許しちゃうし、甘えられたら流されちゃうし。
俺も馬鹿だよなぁなんてしみじみ思いながら服を着た。
──『 隣で祥の怒った顔、笑った顔、拗ねた顔、泣きそうな顔、嬉しそうな顔、たまにはきっと喧嘩して俺が祥を傷つけちゃう時もあると思う……。 でもさ、祥の一つ一つの全部違う表情を隣で見れるのは俺の一番の幸せなんだよ 』
昔言ってた言葉が心のなかに一つ一つ溢れてくる。
キスマークで、喧嘩した時に最後に真っ直ぐな瞳でそう言ってくれた直輝に俺は本当に救われたんだっけ。
当たり前のように未来の話をする直輝がおもしろくて。
だって男女でさえ、いつまでも続くなんてことは約束されていないのに。直輝はその頃から、当たり前みたいに同性同士のこの付き合いをいつまでも続くだろって強く信じていて、疑う素振りも無かった。
その時の俺は、そんな直輝を少し馬鹿だなって思ってたのに。でもそんな直輝が凄く好きで愛しくて。
直輝が言ってくれた言葉そっくりそのまま返してやりたかった。
俺も直輝の一つ一つ違う顔をずっと、ずっと隣で見ていたい。
おじいちゃんになっても、変わらない二人で居たいから、もう一度直輝と一緒に生きて行こうって思ったんだ。
俺にとっても、それが幸せだから。
だからゆっくりでもいいから、小さな事沢山乗り越えていって、また隣で直輝におはようとおやすみが出来ますようにと強く強く願った。
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