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傷だらけのラブソング
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*
シトシトと外は雨が降っている。
昔の記憶に意識が引っ張られていた頭を無理矢理にこちらへ引き摺ると、ぐらりと痛みが襲ってきた。ズキズキ痛むこの頭痛はもう己の体の一部の様だ。忌々しくて、愛おしい。
「──ァアッ!」
ぐんっ、と突き上げた腰。喉の奥から放たれた様な余裕の無い嬌声。目の前でユラユラと揺れる素肌へ思い切り爪を立てた。
ああ、頭が痛い。痛い。
「貪欲な身体ですね」
「んっ……! う、るせぇッ」
「そんな口ばっか訊いて無いでそろそろいつもの様に強請ればどうですか?」
「ハッ、こんな、ンッ、温ぃもんで、舐めた口聞くんじゃねぇよッ」
「……馬鹿な人だ」
「──ヒッ」
不敵に笑い鼻で笑う彼。
その瞳の奥は、……いいや考えるのはよそう。
男らしく引き締まった腰に手を遣る。僕よりも背が高く、過剰なまでに自信家の彼をこうして組敷くのは最初こそ楽しかった。しかし今ではどうだ。
「いい加減この関係も飽きてきましたね」
「ッ、」
ポツリ、零れた本音に、彼はビクリと体を震わせた。
『──なあ』
僕でも、彼でも無い。他所から聞こえる声。出処は僕達の目の前にある大きなテレビ。壁に嵌め込まれた有り余る過ぎる程の液晶には顔の整った男が映っていた。
『俺を選べよ』
『……そんなのッ! 出来るわけ……無いでしょ。 離してよ。 行かなきゃ……彼が待ってる』
『アイツの所に行くと分かって行かせると思う?』
『な、んで……!』
『……好きだから。 お前が好き。 だから……黙って俺のそばに居ろよ』
『え──』
虫唾が走る様な台詞。こんなものの何処にトキメキ等があるのだろうか。真剣な眼差しをした男に、画面の中で彼女は身を震わせた。やがて全てを奪い取るようなキスに抗う事も忘れ、二人は……
「アッ、ぅ……クソッ、辞めろよ! 消せ! 消せってばぁ!」
「ふっ、どうして?」
「〜〜ッ」
「爽さん、よく映ってますよ。 それに相変わらず演技が上手い。 本当に彼女を恋い焦がれている様ですね」
「ひぐぅッ……! そ、こはっ」
「女を蕩けさせた人気モデルが、こんなにも今は雌のように喘いで肉壁をヒクつかせて居るなんて知ったら……皆、泡でも吹いて倒れてしまうんでは?」
「う、るせぇ……」
睨みあげる眸。
ああ、馬鹿だな貴方は。そんなもので本当に威嚇をしているつもりですか?
その眼球を舐めあげて、零れ落ちてしまいそうな涙を1滴も残らず啜りあげ舐めまわしたくなる。
人が泣く姿はどうしてこんなにも美しいのだろう。
人が愛を囁く姿は何故あんなにも穢らわしいのだろう。
『──愛してる』
……吐きそうだよ。爽さん。
「や、やめっ! 嫌だっ、ぅう……ッ!」
テレビに映る俳優──西隆寺爽と、僕の下で怯える爽さん。なんて、滑稽だろうか。
誰もが羨む爽やか過ぎる美貌で、女を激しく求めるこのドラマは今では大人気だそうだ。爽さんの演技は見ている全ての女性を蕩けさせるらしい。
そう自ら自慢をする為に僕を家へ招いた彼を、僕は今抱いていた。
──「なあ! 俺のかっこいい姿見ろよ!」
ふっ、嘘つき。本当は僕に抱かれる口実を探していた癖に。家に訪ねた時からその瞳が欲情を灯して居ることなんて分かっていた。
しかしながら誘われたのはドラマの上映会。それならばついでだと、女を口説く雄の顔をした爽さんを目の前にこの人がもう女を抱くことなんて出来ない事実をこの体に深く深く刻み混むため、抱いてやった。
僕にとっくに雌にされた、この体に深く爪を立てて。
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