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傷だらけのラブソング
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それからも祥さんとの関係は良好だった。
不思議な人から、優しい人へ。優しい人から、何処か掴めない人へ。そうやって印象が深くなって行く度、色んな顔を見る度、もっともっと欲が沸いた。
この人が僕の家族だったらいいのに。兄さんだったなら、まだ少しはましな幼少期を過ごせたのか。
そうやってもしもなんて価値のない事に考えを巡らせる程、祥さんに惹かれていた。
気づけばすっかりこの世界で一番嫌いな感情を抱くようになっていた。
好き。愛してる。そんな愛情が人をおかしくさせるとわかっているから、認めたくない。
愛情と憎悪はいつだって隣り合わせだと身を持って知っているから、許せない。
僕を置いていった彼女も、彼女を捨てたあの人も、何より僕を。恨んで憎んで一生そんな感情は要らないと決めた筈なのに。
そういったモノが全身を駆け抜ける度に、震えが止まらなかった。己を嫌悪する、憎しみが。
「結葵君何してるの?」
「お疲れ様です。 今からマネージャーとCMの仕事を頂いたスポンサーの元へ挨拶に」
「学生なのにそんなことまで?!」
「……学生ですから、やるべきかと」
たまたま立ち会わせた撮影後に、重そうな荷物を軽々と持ち上げて駆け寄ってきた彼へと笑えば、驚いた顔をした後に優しく微笑み返してくれる。
お決まりの様に、僕の頭を数度撫でると「無理しすぎは駄目だよ」だなんて貴方こそと返してしまいたくなる様な気遣いの言葉をかけてくれた。
本当に彼と居ると心穏やかでいられる。だからこそ、同時に嫌いな感情を抱いてしまう。目の前にいる時はただ笑っていられるのに、1人になると急激に襲い掛かる嫌悪感。
相反する感情はどうする事も出来ない。
そもそもどうにかしようとも、思ってもいなかったのだから、どうにかなるわけがなかったのだけれど。
けれど、そんな僕の考えが変化し出したのは何ら変わりのないいつもと同じ日のことだった。
その日も普通に撮影を終え、特に予定もなく帰るつもりでスタジオを出た時だった。
「いいとこに見つけたわ! ちょ〜っと、結葵聞いてよ〜」
「怜さんおはようございます、どうかしたんですか?」
「祥にちょ〜っとイタズラしただけなのよ? なのに見てこのもみじ跡。 アタシの綺麗な顔に平手打ちしたの。 流石アタシの弟子ね」
「……相変わらずですね」
楽屋へと向う途中に、他キャストの楽屋から出てきた怜さんと祥さんにバッタリ出会った。
変わらず女性顔負けの姿で拗ねているのか、楽しんでいるのか。自らの顔に平手を入れた祥さんを何故か褒めている怜さんの頬を見つめながら、肩を竦める。
「怜さんが悪いんですよ! もし結葵君に迄ああいう事したら今度はグーで行きます」
「あっは、アタシにそんな強気なのは祥だけだから尚更興奮しちゃう!」
「……ああ、もう……手に負えないこの人」
うんざりした顔の祥さんに、怜さんが抱きつく。見ている分には美形が並んでるからか、言葉さえ聞こえなければ眼福だ。それは他のスタッフも同じようで周囲の視線を集めていた。
「それよりさぁ、いい加減恋人作ったら? なんならアタシがイイ男紹介してやるわよ」
「だ、か、ら! 俺は男を好きじゃないって何度言ったら」
「はぁ〜ん? アタシに嘘ついたら舌引っこ抜くわよ。 経験バッチリあるじゃないの、ほらっ、これよ、この尻が証拠!」
「ひゃッ!?」
パシン、と臀を叩かれた瞬間に祥さんが大袈裟は程肩を揺らす。
見るからに過剰反応を示すものだから、僕でさえも些か疑いの目を向けてしまった。
「な、だから! それは!」
「昔の男に相当調教されたんじゃないの? どんなやつよ、いい男? なんなら少しアタシに味見でも」
「怜さんっ!」
「……もぉそんな睨まないでよ〜、冗談よ」
怜さんの言葉を遮り、声を荒らげる姿に僕の中で疑いが確信へと徐々に傾きだす。
祥さんに思い人が居るのはこの数年で分かっていた。
それが一体、どんな感情なのか迄は知らないが。あれだけ切なそうな表情していれば、誰だって気づくだろう。
だからかな。怜さんが無駄に絡む理由もそこにある気がした。
天真爛漫な彼だが、祥さんだけにはとことん甘い。家族のように親しんで居るし、大切にしている。弟だと良く自慢している姿も目にしていたぐらいだ。
だからきっと、許せないのかもしれない。もしくは歯痒かったり、踏み込めない線引きが何年経っても崩れないから焦れったいのかもしれない。
どちらにしろ祥さんの憂いた感情の理由を突き止めて、なんとかしてやりたいと思っているんだろうけど。僕から見ると、はっきり言えばただのセクハラにしか見えなかった。
「……怜さん、あんまりそう言うこと言ってるといつか祥さんに訴えられるんじゃ?」
「やーねぇ、そんなことした日には本気で犯してやるわよ。 アタシ、ただで転ぶ程お人好しじゃないの」
「ちょ……ッ?! 怜さんそれ笑えない。 結葵君も俺の貞操を危機にさらさないで」
胸の前で手をクロスして顔を横にふりながらも、祥さんが笑う。
すみませんと軽い口調で答えつつも、次いでに夕飯の誘いもぬかりなくしておいた。
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