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お忍び旅行はラブハプニング
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直輝に再び視線を戻して驚いた。
少しも迷うことなく俺の元へ歩く姿に瞠目したまま固まる。普通はこういうのって横にそれたりして、そっちじゃないとか、ここだよとか友達が声掛けたりするものじゃないの。
そんな必要性微塵も感じさせない足取りは実は目を開けているんじゃないかと疑わしい程に真っ直ぐで、それでいて自信がある様だった。
「……直輝」
後数十センチ。
手を伸ばして直輝を待つ。
なんだろう、ほんとに直輝って凄いよね。どうしてそんなに堂々としてるんだろう。なんでここまで惹き付けられるんだろう。
指先が直輝の衣服に触れた刹那暖かな手が伸びてくる。「捕まえた」と直輝が微笑すると共に逞しい胸の中へと招かれた。
「直輝凄い――……ッ、ンうぅ?!」
やっと目を開けた直輝が俺を確かめたとき、言葉を言い切るよりも先に唇に直輝の唇が合わさる。
「ンン"〜〜〜ッ!」
そ、外で?!ここ神社だよ?!何してるんだこのバカは!
驚きに半ばパニックに喘ぐとぬるりと舌が入り込んできた。その瞬間、ビクッと体は跳ね上がりやっと働き出した頭は背中を反るように抱きしめられキスを与え続けてくる直輝の肩をバシバシと叩き返した。
「ぷはっ……! な、おき?!」
何考えてんだ!そう怒鳴ろうとしたのに直輝はただニッコリ笑うと再び俺を抱きしめて今度はおでこと鼻先を擦り合わせてこう言った。
「I’m blown away!!」
「……は?」
え、なんでに急に英語?それもかなり流暢な。流石あっちに行ってただけはあるなって、いやそんな事考えてる場合じゃなかった。
何が「とっても感動した」なのか。
全然意味が分からない。それでも直輝は続けて流れるように英語で何かを伝えるとまるで別人のように興奮している態度を見せた。
おまけに横に突っ立っていた瑞生さんと黒江さんにも抱きついてはハグをして、頬にキスをする。瑞生さんは想像以上に顔を嫌悪に歪めていて少し吹き出してしまった。
置いてけぼりの俺達はあの直輝が日本へ観光しにやって来たとんでもなくテンションの高いアジア系アメリカ人の様に見えて、それは周りにも同じ印象を与えたのか「外国の人なんだ」で片付いてしまう現状を見てやっとこれが狙いだったのかと欺かれた気分。
前以て言ってくれたならこんなに振り回されなくて済むのに。
「……バカ直輝。普通キスなんてしないだろッ」
「祥だって舌絡めた癖に」
「ちち、違うッ! あれは驚いて」
「はいはい。願い事が叶っただけなんだから別にいいだろ。恨むなら神様を恨めよ。それかあんな石を置くこと考えた誰かさんにな」
口喧嘩で勝てるわけがない。
むきになったところでニヒルな笑みを浮かべた直輝は冷静にひとつひとつ俺の思考から選択肢を奪うような事ばかり言う。
何を言ったところで無駄だと気づいた時には心身共にすっかりと気が抜けてしまっていた。
「まあ祥君、直輝君も今は変装してんだしさ若気の至りってやつで思い出として楽しんだ方がいいぞ」
「へぇ。若気の至りねぇ……それじゃあ俺にも濃厚なキスしてよ、耀さん」
「え、なんで瑞生ちゃん怒ってんの?」
「怒ってないよ?」
目力がある瑞生さんに睨まれると流石の黒江さんも肩を竦める。「俺なんかしたか?」と隣にいた直輝に尋ねる黒江さんはきっとこの先も瑞生さんに振り回され続けるんだろうなと思って少しだけ同情した。
俺も直輝に振り回される立場だからなんとなく苦労が分かって、親近感が湧く。瑞生さんに常日頃ああやって迫られたら俺きっとコロッと折れちゃうだろうなぁ。
「祥、スタジオこっちであってる?」
「はい。あの先にある曲がり角を曲がると多分見えてくる筈です」
「おっけー、楽しみだね衣装借りるの」
地図を見ながら隣に立つ瑞生さんに着いて歩く。旅館のチェックインが確か15時だから、今向かっている衣装貸し出しのスタジオを回ったらちょうどいい頃だろう。
折角の京都だからそういう現代ものの格好をして散策したいと何気なく零したら瑞生さんが楽しそうと乗ってくれた。
プロのカメラマンが記念撮影もやってくれるみたいで、ウェブサイトを見ただけでも楽しみだ。
「黒江さん着物似合いそうですよね。貫禄あるっていうか大人の魅力沢山で」
「そう? ただのおじさんだよ」
「……。瑞生さん、どうかしたんですか?」
「……なんだろうね。あの人の大人な面に腹たっちゃうんだよね。ふたまわりも歳が離れてるし若いって思われて当然だけどさ、何でもかんでも自分は大人って括ってるところ嫌いだなぁ〜」
何気なく聞いた質問に、瑞生さんが胸中を語ってくれたことに驚いた。
でもそれだけで、数秒も経たないうちに瑞生さんはいつもの瑞生さんに戻っていた。
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