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お忍び旅行はラブハプニング
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結局、店の中であれから騒いだせいか店員さんに迄笑われる始末だった。
帰り際なんて「美男美女」だと言われて顔で湯が沸かせる程恥ずかしかったんだ。
こんな俺達に気迄遣わせてしまって申し訳ないの思いでいっぱいだし何よりお姉さん、直輝ばかり見ていた……腹が立つ。
「ふっ、祥の事女性だと思ってたの面白かったなぁ」
「……化粧迄してるからだろ。男だと思っても言えなかったんでしょ? それより笑いすぎ」
「そういうんじゃないと思うけど? 慌てた祥が男だって口零したら、あんぐり顔で頭のてっぺんからつま先迄ガン見してた」
「そんな観察する暇あったなら助け舟出してくれたらいいのにッ!」
あれは不覚だったと思う。思わぬお世辞に社交辞令とわかっていても、いたたまれず愚行をとってしまった。
だって普通に考えたら、男なのに女性の着物を着て。化粧迄して、挙句お世辞に「うふふ」なんて事返すなんて無理!
ムリムリ! どう考えても変質者だ!
お姉さんの驚愕顔に、慌てて事の成り行きを説明したっていうのに直輝はただ隣で可笑しそうに口の端を上げてるだけだった。
「変わりにライオンの置物も買ったろ?」
「もので許してもらえると思ってるのがやだ」
俺は5歳児かって、睨む。
「じゃあこれは黒江さんにでもやるかな」
「え! 駄目ッ!」
「ふっ、くくっ」
けれど直輝の言葉に思わず手を伸ばしていた。
だって俺が可愛いって見つけたものだし、何より直輝がお土産にって俺にくれたのに……。な、なんかそういうの他の人に渡るのって嫌だよね? なんて悶々としていた間、直輝は隣で腹を抱えて笑いだす。
一体何がそんなに面白いのか俺にはさっぱりだ。
俺を弄って楽しんでるってことは分かる。
何だかやられっぱなしで嫌だ。
かと言って散策に出たばかりのように態とらしく、慣れない行動に出ればまたブスと現実を突きつけられかねない。
仕方なくムッとして尖りかけた唇を噛み締めて引っ込めると、通りにあったお土産屋で購入した荷物は全部直輝に持たせてやった。
俺は今女の人らしいので、その権利をここぞとばかりに使ってやるつもりだ。
「俺の可愛いお姫様は容赦ないね」
「おひ?! べ……別に、俺は今女性扱いらしいからっ、そうした迄だし」
拗ねた顔を見られぬ様、半歩先を歩く。
ふと後ろをついてきて居るはずの直輝から声が途絶えて振り返ると、和やか迄の空気が止まり、思わず息が詰まった。
「……な、に?」
「ん? いや、祥も大人になったんだな」
「は? 大人も何も、同じ年でその言い方は変じゃない?」
息が詰まったのは、直輝の瞳が愛おしいと溢れんばかりに俺を見ていたから。
優しいだとか、柔らかいだとか、そういう言葉じゃ足りない。
心臓の奥が震えるような、目線の先にいる相手が俺を通して他の事を見ている姿に、思わずつられて泣きそうになる。
「四年か」
「……どうしたの、直輝」
「いいや、特には。ただふとした瞬間にあれから四年も経ったんだって実感する時がある」
「今、とか?」
緩く笑みを浮かべて、直輝が隣に並ぶ。
「そうだな。昔ならカンカンに怒ってた筈なのに、慣れた様に流せる祥を見て高校生の頃だったら想像出来ない姿だと思った」
「……それを言うなら直輝だって気障ったらしい口調とか言葉とか平然と言うじゃんか。今だって、お、おれ、のお……姫、とか……普通恥ずかしくて言えない」
「お嫁さんって言わなかっただけマシだと思わない?」
「お も わ な い !」
ニヤリと器用に、口の端を釣り上げた直輝に強く言い返す。
ここで否定して置かなきな当分からかう時に使われるだろうから。
そう思って見つめていたら、直輝の亜麻色の瞳が強い光を孕んだ。
「でも必ず俺の嫁にするからね」
「……嫁って言うなよ。俺は男なのに」
「婿嫁?」
「婿!」
「はいはい、婿さんな」
こういう時、なんて言うのが正解なんだろう。
俺も、直輝の隣にずっといたいって口に出来たなら、きっと隣に居るこの暖かい場所は苦しまずに済むのだろう。
悩まずに重荷を下ろせるんだろう。
「……俺で、遊ぶな変態」
「ふふっ、可愛い祥が悪い」
「理由になってない……」
悠然と俺を弄って遊んで、弄ばれる俺が怒る。
いつもと変わらない。日常の俺達のやり取り。でもどこか違うのは、二人とも未来の大きさを四年前よりも覚悟しているからなのか。
「……はぁ」
一度落ち着こうと深呼吸をした刹那、突然腕を捕まれた。驚く息をつく暇もなく目元に柔らかなものが触れた。
「好きだよ、祥」
「──ッ」
「本気で言った。必ず祥と結婚する、正式に俺の伴侶だって世間に自慢出来るのはまだ暫く時間はかかるけど。本気だから」
「な、に急に」
瞼に落とされた体温が全身に広がる。
トクトクと柔らかい鼓動の音は喜びだった。不安や困惑、陰鬱としたものでは無い。
この思いは確かに、幸せなものだ。
「……俺は」
たった触れるだけのキスだっていうのに、どうしてこうも直輝は、俺を……。
「……。もし、口だけの約束にしたら、その時はその股間にぶら下がってるもの一生使えなくしてやる」
「おー、怖いね?」
「ホルマリン漬けにして結婚祝いに」
「いや冗談にしては結構痛いから祥」
冗談なわけあるか。
そんな犯罪は犯しはしないけど、今日のは言質にしてやる。
「あ、でもそんな狂った祥も俺きっと可愛いって思うだろうな」
「は?!」
「俺のこと好きでそうなるなら、敢えて誰かと結婚して」
「そんな事したら一生直輝の前に姿見せない」
「……嘘だよ。怒るなって」
言った早々これだ。
嘘でも他の誰かとなんて言って欲しくなくて、思いっきり睨みつけたら直輝はわかった様に頷いて俺の頬にキスをした。
直輝はよく結婚しよって昔から軽口叩いていたけど、なんだか今日の言葉は高校のあの日。
直輝から体育祭を抜け出した校舎裏で告げられた日と同じぐらい、真っ直ぐで大きな言葉だった。
オレンジ色の夕焼けに染められた街を歩く。
どこか幻想的で、肩を並べながらそっと直輝の手をとった。
うまく、言葉には出来ない想いが、体温を通して直輝の心に届きますようにと願いながら。
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