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2015/02/14/AM 白檀の香り
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僕と大洗先生にそういう関係はひとつもなかった。
僕の性癖も、僕の性嗜好も先生はご存知だったし、先生のそれも僕は知っていた。
でも僕たちは決して触れ合う関係にはならなかった。
今はそれでよかったと心底思っている。
貪り合って終わるような関係にはなりたくなかったから。
そうならずに済んだのは、もしかしたらお互いの持っているものが似ていたからだったのかもしれない。
だから僕たちは求め合わず、共有を選んだのだろう。
ただ言葉と心を通わせるだけ。
それが当時の僕にとっての救いだったことに気づいたのは大学を卒業してからだった。
「………せ、先生……は……大洗さん…と……いつまで……お付き合い……してたんですか…?」
お付き合い……碧がどういう意味でその言葉を使ってるかはわかっていたけど、あまりに可愛いその質問に意地悪をしたくなる。
大洗先生と深く一緒に過ごしたのは多分一年半くらいだろうか。
二年で先生の授業を取ってはいたが、親しくなったのは三年からで四年になってしまえば、僕はあまり学校に行く機会もなかったし。
「大学を卒業するまでかな?」
ただの准教授と学生。
二人きりになる機会なんかそんなになくて、たまに手伝いという名目で先生に呼んでもらった部屋で紅茶を飲みながら、同じのテーマについて語り、先生の興味深い意見を聞いて、思いのまま考えに耽る。
理解される喜びと解放感。
思ったことを読み取ってくれる安心感。
誰とも分かち合えなかった心の重荷を感じさせないでいられる時間はあっという間に通り過ぎ、いつも夜の訪れにはっとしていた。
『すみません、遅くまで』
僕の言葉に先生が微笑む。
『構わないよ、桐生くんとの会話は私にとってもとても有意義な時間だ』
『………ありがとうございます』
先生の本心かそれとも僕への気遣いか、先生の笑顔は時々眩し過ぎたけれど、その時の僕はもうそれを自分だけの特別なもののように感じていて胸はざわついたが心地は悪くなかった。
先生の部屋のたまに焚かれる白檀の香の名残りと冷めた紅茶。
大量の本に囲まれた空間は非日常的に思えて、少しだけ気分が高まっている自分を感じていた。
思い返せば僕にとって青春と呼べる時はこの瞬間だけだったような気がする。
自分が学生でいる時間を大事に思えるというのは僕にとってとても貴重な事だった。
何故なら先生との思い出以外の僕の学生時代は思い出すのも下らない記憶しか持っていなかったからだ。
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