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2015/02/14/PM ミルクティ
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たっぷりと場所を使ったホテルのカフェテリアの座席は僕と碧との間に今まであまりとったことのない距離感を保っていた。
座ると深く沈む一人用のソファーの前の方にちょこんと座った猫舌の碧は注文されたミルクティを注意深く啜って、居心地悪そうに何度も座り直しながら緊張した面持ちで僕を見ている。
予定の時間より少し早く到着していたのはわかっていたが、思ったよりも多く余った時間で僕たちはホテルのカフェテリアに来ていた。
お茶に誘おうと広く上品な作りのホテルのロビーでキョロキョロと周りを見回していた碧の肩に触れると、ピクッと吃驚したような顔で僕を見た碧はまさに借りてきた猫という状態で、初めて僕の家に来た時の夏の日を思い出させた。
やっと僕のパートナーらしくなってきていたと思っていた碧が元の純粋な高校生に戻ってきてしまった様でこれから会う大洗先生とその少年の前でどんな顔をするのだろうと少しだけ興奮する僕。
そんなことをきっと露とも思ってないだろう碧は、砂糖をたっぷりと溶かしたミルクティを何かのおまじないみたいに何度も啜っている。
「お、大洗先生……という方は、お、おいくつくらいの、か、方なんですか?」
妄想に耽る僕の沈黙に耐えきれなかったのか、碧が意を決したようにそんなことを聞いてくる。
きっとさっきからずっと考えていた質問なのだろう、僕の恩師だと聞いて普段使わないような『方』という言い方を使っているのが可愛い。
「……そうだね、正確な年齢は聞いたことは無いけど…きっともう四十代半ばくらいになられているだろうね……僕が大学生だった頃、おそらく三十代後半くらいだったから」
「………そ、そう、ですか…」
特に会話も繋げることも出来ず俯いてしまう碧。
17歳の碧にとって、四十代の男性という存在はどこかピンと来ないものがあるのかも知れない。
それはそうだろう、僕だって自分の歳になるまで28歳の男が何を考え何を思うかなど想像もつかなかった。
少年時代の自分を取り巻く環境にいる大人など両親か教師くらいのものだったから。
そうか、だとしたら大洗先生は碧の両親とそう変わらない年頃なのかと思うと不思議な気持ちになる。
去年、秋の終わりに会った時の大洗先生は、僕の大学生の頃の記憶の中の姿と殆ど変わっていなかったからだ。
逞しい身体や若々しい肌の艶は相変わらず爽やかな印象そのままで、離れていた六年もの歳月はとても短いものに思えたのだ。
出会ったのは八年前。
僕も大洗先生も今よりずっと若かった筈だ。
『君が桐生誠一郎くんだね?レポートを読ませてもらったよ』
実に興味深い、とそう言った大洗先生の白い歯に何故か僕は自分とはずっと遠いものをその時は感じていたのだ。
初めて僕が先生と交わした言葉は『そうですか、ありがとうございます』とか多分そんなような素っ気ないものだった。
それは僕の本性を先生がまだ目の当たりにする前で、まだ先生の予想が確信に変わる前だったからだ。
確かに先生と出会ったのはこの時が初めてだったわけなのだが、本当の意味での出会いはもう少し先のことになる。
その時の僕は自分で言うのもどうしようもないが、今より荒んだ生活をしていた。
今思い出せば酷いが、その時はそんなことを自分では気づいていなかった。
何故ならまだ先生に出会って無かったからだ。
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